薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.07.30 薬剤師のスキルアップ

薬物療法専門薬剤師とは?資格取得のための申請条件や認定試験について解説

文:篠原奨規(薬剤師)

薬物療法専門薬剤師は、日本医療薬学会の専門薬剤師認定制度で、幅広い領域の薬物療法について一定水準以上の臨床能力を持ち、医療現場で活躍する薬剤師を認定します。本記事では、薬物療法専門薬剤師の資格を取得するための申請条件や認定試験について、分かりやすくお伝えします。薬剤師としての専門性を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。

1.薬物療法専門薬剤師とは?

薬物療法専門薬剤師とは、「幅広い領域の薬物療法における高度な知識と技能を用い、他の医療従事者と協働した薬物療法を実践することにより、患者に最大限の利益をもたらすとともに研究活動を実践できる者」として、日本医療薬学会が実施する薬物療法専門薬剤師認定審査に合格した薬剤師のことです。
 
参考:一般社団法人日本医療薬学会薬物療法専門薬剤師認定制度規程|日本医療薬学会
 
2012年から認定制度が開始され、2025年4月時点の認定者の人数は87名です。認定者一覧は、日本医療薬学会のウェブサイトで公表されています。
 
参考:薬物療法専門薬剤師制度|日本医療薬学会

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2.薬物療法専門薬剤師の仕事内容

薬物療法専門薬剤師の主な仕事内容としては、以下のようなものが挙げられます。

 

● 質の高い薬学的介入
● 研究活動や学会発表

 

2-1.質の高い薬学的介入

薬物療法専門薬剤師の主な仕事のひとつは、患者さん一人ひとりに対して、専門的な知識に基づいた質の高い薬学的介入を行うことです。
 
例えば、最新の医学・薬学情報やガイドラインを踏まえ、患者さんの病状や生活背景などを考慮した上で、最も適した薬剤の選択や投与設計を医師に提案します。時には、病院内の多職種カンファレンスにも参加し、薬の専門家として治療方針決定に貢献することもあります。
 
また、患者さん自身が治療内容をよく理解し、安心して薬物療法に取り組めるよう、薬の効果や副作用、正しい使い方について丁寧に説明することも大切な役割です。治療開始後は、薬の効果や副作用の有無を評価し、必要に応じて処方変更を提案します。これらの介入により、薬物治療の質と安全性の向上に貢献します。

 

2-2.研究活動や学会発表

薬物療法専門薬剤師は、日々の臨床業務における薬物療法の課題や疑問点を掘り下げ、研究活動へとつなげる役割も担います。
 
患者さんの薬物治療に関わる中での気づきをもとに研究テーマを考え、科学的な方法で検証していきます。そして、その研究成果を学会で発表したり、学術論文としてまとめたりすることで得られた新たな知見を、薬剤師や医療従事者へ共有します。
 
こうした活動は、より良い薬物療法のための新しい科学的根拠(エビデンス)を生み出すものであり、医療全体の進歩に欠かせません。臨床での経験を学術的な成果に結びつけることも、薬物療法専門薬剤師の大切な務めといえるでしょう。

3.薬物療法専門薬剤師になるには

薬物療法専門薬剤師を申請するには、実務経験や研修、学会活動など複数の条件を満たし、認定試験に合格する必要があります。ここからは、薬物療法専門薬剤師の申請条件や認定試験などをお伝えします。

 

3-1.申請条件

薬物療法専門薬剤師の申請条件は、以下のとおりです。

 

● 日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格と見識を備えていること
● 薬剤師としての実務経験を5年以上有すること
● 日本医療薬学会の会員を5年以上継続していること
● 「日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師」、「日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師」、「日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)クリニカルラダー5以上」のいずれかの認定を受けていること
● 日本医療薬学会が認定する「薬物療法専門薬剤師研修施設」において、学会の定めた研修ガイドラインに従って、薬物療法に関する5年以上の研修歴を有すること
薬物療法専門薬剤師認定制度規程細則「別表1」に定めるクレジットを5年で50単位以上取得していること
● 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加したこと
● 日本医療薬学会の年会に1回以上参加したこと
● 自ら実施した5年の薬学的介入を伴った症例報告50症例(4領域以上の疾患)を提出すること※1
● 研究活動のうち、学会発表あるいは論文の条件のどちらか一方を満たすこと※2
● 日本医療薬学会が実施する専門薬剤師認定試験に合格すること

 

※1:症例報告とは、5年以内に実施した「入院患者および外来通院患者に対して一定期間継続して関わった、薬物治療に関する薬学的介入あるいは薬学的ケア」であり、保険請求の有無を問わない。また、1領域につき、5症例以上の指導の要約を含める必要がある。
※2:学会発表については、医療薬学に関する全国学会、国際学会あるいは地区大会での発表が2回以上あること。日本医療薬学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいること。論文については、本人が筆頭著者となった医療薬学に関する学術論文が1報以上あること。学術論文は、国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に複数査読制による審査を経て掲載された医療薬学に関する論文あるいは症例報告であること(編集委員以外の複数の専門家による査読を経ていない論文は対象外)。

 
参考:一般社団法人日本医療薬学会薬物療法専門薬剤師認定制度規程|日本医療薬学会
参考:一般社団法人日本医療薬学会薬物療法専門薬剤師認定制度規程細則|日本医療薬学会

 

3-2.認定試験

薬物療法専門薬剤師の認定を受けるには、認定試験への合格が必要です。試験には、日本医療薬学会が実施する「専門薬剤師認定試験」と、日本薬剤師研修センターが実施する「生涯学習達成度確認試験」があります。試験問題や日時、合格基準は共通しており、いずれかの試験への合格が認定条件です。
 
「専門薬剤師認定試験」は、専門薬剤師の認定申請後の書類審査合格者のみが受験でき、受験料は不要です。
 
一方、「生涯学習達成度確認試験」は、認定申請状況に関わらず受験が可能です。受験料は、以下に該当する場合は11,000円(税込)、それ以外の場合は22,000円(税込)となっています(2024年2月1日時点)。

 

● 日本医療薬学会、日本病院薬剤師会、または日本薬学会の会員であること
● 日本薬剤師会に所属し、JPALSクリニカルラダーレベル5に昇格後、1年以上経過していること
● 日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師の更新を1回以上行っており、申し込み時点で認定期間内であること

 

参考:認定試験|日本医療薬学会
参考:薬剤師生涯学習達成度確認試験について|日本薬剤師研修センター
 
なお、試験範囲や例題、参考図書などは、日本医療薬学会のウェブサイトで確認できます。
 
参考:日本医療薬学会専門薬剤師認定試験範囲(出題ガイドライン)|日本医療薬学会
参考:専門薬剤師認定試験 出題範囲と例題(2024年3月)|日本医療薬学会
参考:専門薬剤師認定試験 参考図書(2024年3月)|日本医療薬学会

 

3-3.申請手続き

薬物療法専門薬剤師の申請は、「専門薬剤師制度資格申請システム」で行います。申請に必要な情報を入力し、以下の証明資料をアップロードします。

 

● 薬剤師免許
● 認定資格登録
● 試験合格証登録
● 学術実績登録「論文」
● 学術実績登録「学会発表」
● クレジット登録「学会参加」
● クレジット登録「学会発表」
● クレジット登録「論文」
● 研修情報

 

また、認定審査料として11,000円(税込)を支払う必要があります。支払い方法はクレジットカード決済または銀行振込から選択可能です。認定された際には、認定料として別途22,000円(税込)が必要です。
 
申請手順や証明資料の詳細は、日本医療薬学会のウェブサイトおよび「専門薬剤師制度資格申請システム操作手順書」で確認できます。
 
なお、症例提出は申請システムを使用しません。詳細については、認定試験合格者に対してのみ試験結果とともに通知されます。
 
参考:2025年度 薬物療法専門薬剤師 認定申請|日本医療薬学会

 

3-4.更新条件

薬物療法専門薬剤師は、5年ごとの更新制です。更新申請の際には、認定期間中の実績として以下の条件を満たしている必要があります。

 

● 継続して日本医療薬学会の会員であること
薬物療法専門薬剤師認定制度規程細則「別表1」に定めるクレジットを50単位以上取得していること
● 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加したこと
● 日本医療薬学会の年会に1回以上参加したこと
● 自ら実施した薬学的介入を伴った症例報告20症例を提出すること

参考:一般社団法人日本医療薬学会薬物療法専門薬剤師認定制度規程|日本医療薬学会

 

要件を満たせず更新が認められなかった場合でも、翌年度に限り更新申請が可能です。ただし、「薬物療法専門薬剤師」を標榜することはできません。
 
参考:一般社団法人日本医療薬学会薬物療法専門薬剤師認定制度規程細則|日本医療薬学会

 

3-5.2025年度の申請スケジュール

2025年度の新規申請のスケジュールは、以下のとおりです。

 

申請締切 2025年4月24日
認定審査料の振込期限(銀行振込の場合) 2025年4月30日
要件審査結果通知 2025年6月
認定試験 2025年7月27日
試験結果通知 2025年8月
症例提出(試験合格者のみ) 2025年9月
症例審査 2025年10月~11月
認定結果通知 2026年1月

 

また、2025年度の更新申請のスケジュールは、以下のとおりです。

 

申請締切 2025年11月
症例審査 2025年12月~2026年1月
認定結果通知 2026年3月

 

参考:2025年度 薬物療法専門薬剤師申請スケジュール(予定)について|日本医療薬学会
参考:2025年度 薬物療法専門薬剤師 認定申請|日本医療薬学会

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4.上位資格の「薬物療法指導薬剤師」とは?

「薬物療法指導薬剤師」は、薬物療法専門薬剤師の上位資格であり、他の薬剤師に対する指導的能力を証明するものです。薬物療法専門薬剤師としての経験に基づく高度な知識や技能を有するとともに、研究活動についても自ら推進できることが求められます。
 
申請には薬物療法専門薬剤師として5年以上の実務経験が必要で、学術論文や学会発表の条件についても、薬物療法専門薬剤師よりハードルが高くなっています。資格取得の難易度は高いものの、薬物療法の高度な専門性を生かし、指導的立場を目指す薬剤師に適した資格といえるでしょう。
 
参考:一般社団法人日本医療薬学会薬物療法専門薬剤師認定制度規程|日本医療薬学会

5.専門性を高めたい薬剤師は、薬物療法専門薬剤師にチャレンジしよう

薬物療法専門薬剤師は、幅広い領域の薬物療法について一定水準以上の臨床能力を持ち、医療現場で活躍する薬剤師として、日本医療薬学会が認定する資格です。認定には実務経験や研修、症例提出、学会発表・論文など多くの要件を満たす必要があり、認定試験も実施されます。専門性を高めたい薬剤師は、ぜひ認定取得を検討してみてください。

 
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執筆/篠原奨規

2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。