薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.10.31 薬剤師のスキルアップ

災害医療認定薬剤師になるには?資格の概要や更新方法について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

災害医療認定薬剤師とは、災害発生時に求められる知識やスキル、経験を有した薬剤師であることを証する認定資格です。災害医療認定薬剤師になるには、日本災害医学会の正会員となり、研修などを受ける必要があります。本記事では、災害医療認定薬剤師の概要と申請方法・更新方法について解説するとともに、災害時における薬剤師の役割についてお伝えします。

1.災害医療認定薬剤師とは?

災害医療認定薬剤師とは、日本災害医学会が実施する認定制度です。国民の保健、医療、福祉に貢献するために、災害時に求められる医療について研修を実施し、薬学的な知見を集積するとともに、災害医療の発展と進歩に寄与することを目的として、2016年から実施されています。
 
参考:災害医療認定薬剤師 新規申請受付のご案内|日本災害医学会
 
2025年4月時点で、災害医療認定薬剤師の認定者の人数は85名です。認定者一覧は、日本災害医学会のホームページから確認できます。
 
参考:日本災害医学会認定薬剤師名簿|日本災害医学会

 

1-1.災害医療支援薬剤師とは?

災害医療に関する薬剤師の資格としては、災害医療認定薬剤師の他に「災害医療支援薬剤師」があります。災害医療支援薬剤師とは、日本災害医療薬剤師学会が実施する登録制度です。
 
薬剤師免許取得後3年以上経過している薬剤師が対象で、日本災害医療薬剤師学会が定める研修を修了し、申請後に審査を通過すると登録されます。有効期限は2年間で、日本災害医療薬剤師学会の災害医療研修会や学術大会への参加などにより更新できます。
 
災害医療支援薬剤師は、認定試験や症例報告などの要件がなく、研修を修了することで申請ができるため、比較的取得を目指しやすい資格といえるでしょう。
 
参考:災害医療支援薬剤師とは|日本災害医療薬剤師学会

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2.災害医療認定薬剤師になるには

災害医療認定薬剤師になるには、申請要件を満たした上で審査に合格し、認定手数料を支払う必要があります。ここでは、申請要件や申請方法についてお伝えします。

 

2-1.申請要件

災害医療認定薬剤師になるには、以下の資格や経験などを有している必要があります。

 

資格 ● 薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人材および災害医療に関する見識を備えていること。
● 日本災害医学会の正会員で、会費2年分を完納していること。
● 認定薬剤師制度委員会の認める実務経験を持つ薬剤師、または以下の認定資格を取得していること。
 1.日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師
 2.日本医療薬学会認定薬剤師
 3.日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)レベル5以上
 4.薬剤師認定制度認証機構により認証された認定薬剤師
● 以下のいずれかに該当すること。
 1.災害薬事研修(PhDLS)世話人であること。
 2.PhDLSインストラクターかつ実災害対応経験(認定薬剤師制度委員会が認めるもの)を有すること。
経験 薬剤師として実務経験を有した上で、以下のいずれかに該当すること。
● 災害医療に関する研修を受けている。
● 実災害(認定薬剤師制度委員会が認めるもの)対応経験がある。

参考:災害医療認定薬剤師 新規申請受付のご案内|一般社団法人 日本災害医学会

 

申請要件の「PhDLS世話人」または「PhDLSインストラクター」については、それぞれ以下の要件を満たす必要があります。

 

PhDLS世話人 1.一般社団法人日本災害医学会の会員であること。
2.インストラクターであること、職種は問わない。
3.プロバイダーコースにおいて、コース運営担当者 (CC)、またはコース担当責任者(CD)としてコースの運営実績があること。
4.標準プログラムの講義を担当すること及び実習の各班における担当責任者として問題なく指導できること。
5.PhDLSの目的に賛同し、事業推進に熱意を持っていること。
6.災害薬事研修委員会において承認。
PhDLSインストラクター 1.プロバイダーコース・インストラクターコースを終了。
2.プロバイダーコースに2回以上モニタータスク参加。
3.プロバイダーコースにモニター評価参加で世話人の評価。
4.世話人からインストラクターとして推薦。
5.災害薬事研修委員会において承認。

 

認定試験はないものの、災害医療認定薬剤師の申請要件を満たすためには認定薬剤師などの資格取得や実務経験、PhDLSインストラクターの認定などが必要なため、取得の難易度は低くない認定資格といえます。

 

2-2.申請方法

災害医療認定薬剤師は、以下の書類を日本災害医学会事務局に提出して申請します。

 

● 災害医療認定薬剤師認定申請書
● 薬剤師免許の写し
● 申請手数料の振込用紙の写し

 

申請は1年に1回、指定の期日までに行わなければなりません。申請手数料として5,000円、認定された場合は認定手数料10,000円を振り込み、振替払込請求書兼受領証のコピーを申請書に貼付します。審査が不認定となった場合は、再度申請することができますが、再申請は翌年となります。
 
参考:災害医療認定薬剤師 新規申請受付のご案内|日本災害医学会

3.災害医療認定薬剤師の更新方法

災害医療認定薬剤師の認定期間は5年です。継続するためには、更新申請をする必要があります。

 

資格を更新するには、認定を受けてから更新までの間に、認定薬剤師制度委員会が指定する学術集会や研修会への参加、研究発表、実災害活動などにより所定の単位を取得しなければなりません。単位を取得後、更新申請を行い、認定証の交付を受けます。

 

ここでは、災害医療認定薬剤師の更新要件や更新に必要な単位、申請方法についてお伝えします。

 

3-1.更新要件

災害医療認定薬剤師の更新要件は、以下のとおりです。

 

資格 ● 薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人材および災害医療に関する見識を備えていること。
● 認定時から引き続き日本災害医学会の正会員であり、指定された年度まで会費を完納していること。
● 災害薬事委員会の認める実務経験を持つ薬剤師、または以下の認定資格を取得していること。
 1.日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師
 2.日本医療薬学会認定薬剤師
 3.日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)レベル5以上
 4.薬剤師認定制度認証機構により認証された認定薬剤師
● 以下のいずれかに該当すること。
 1.災害薬事研修(PhDLS)世話人であること。
 2.PhDLSインストラクターかつ実災害対応経験(災害薬事委員会が認めるもの)を有すること。
研修等の単位 ● 合計50ポイントを取得すること。

参考:災害医療認定薬剤師 更新申請受付のご案内|一般社団法人 日本災害医学会

 

3-2.学術集会などで取得する単位

災害医療認定薬剤師の更新申請をするためには、学術集会や研修会への参加などにより50ポイントを取得することとされています。また、以下の項目のうち、3項目以上のポイントを取得しなければなりません。

 

学術集会 日本災害医学会(旧 日本集団災害医学会)学術集会総会参加 10ポイント
日本災害医学会(旧 日本集団災害医学会)学術集会総会発表 10ポイント
日本災害医学会(旧 日本集団災害医学会)学術集会投稿掲載 20ポイント
日本災害医療薬剤師学会参加 10ポイント
日本災害医療薬剤師学会発表 10ポイント
WADEM参加 5ポイント
WADEM発表 10ポイント
APCDM参加 5ポイント
APCDM発表 10ポイント
日本医療薬学会参加 3ポイント
日本医療薬学会発表(災害医療に関する発表) 10ポイント
日本薬剤師会学術集会参加 3ポイント
日本薬剤師会学術集会発表(災害医療に関する発表) 10ポイント
その他、認定薬剤師制度委員会が認める学会
研修会 研修会参加 基本的には1日1ポイント
災害薬事研修インストラクター・世話人参加 2ポイント
その他、認定薬剤師制度委員会が認める研修会 2ポイント
災害訓練・講習会(報告書を提出) 1参加につき2~5ポイント
実災害活動(報告書を提出) 1活動につき2~20ポイント

参考:災害医療認定薬剤師 更新申請受付のご案内|一般社団法人 日本災害医学会

 

3-3.申請方法

更新申請の審査も1年に1回、災害医学会総会に合わせて行われています。更新申請の手数料は5,000円で、指定の口座に振り込みます。
 
認定された場合は、認定手数料5,000円を振り込み、振替払込請求書兼受領証のコピーを申請書に添付して提出します。不認定となった場合は、翌年に再申請が可能です。
 
参考:災害医療認定薬剤師 更新申請受付のご案内|一般社団法人 日本災害医学会

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4.災害時における薬剤師の役割とは?

災害医療認定薬剤師の資格を取得することで、災害時に求められる役割について深く理解することができるでしょう。ここでは、災害時における薬剤師の主な役割について、詳しくお伝えします。

 

4-1.被災者への服薬指導と服用薬の特定

災害時は、被災者の服用薬の情報が失われる可能性があるため、薬剤師は被災者の病歴や薬の形状・色などから服用している薬剤を特定することが求められる場合があります。
 
また、避難所や救護所で服薬指導を行い、適切に服薬できるようサポートすることが、災害時における役割のひとつです。

 

4-2.医薬品の管理と供給

災害が起こると、全国からさまざまな支援物資が届きます。支援物資の中から医薬品や医療材料などを仕分けて、さらに適切に分類・管理します。
 
限られた支援物資を有効に活用するために、医療機関や避難所、救護所など、支援物資を必要とする場所や量について適切に判断・供給することも薬剤師の重要な役割です。

 

4-3.医療チームとの連携

薬剤師は、医師や看護師などの医療従事者と連携して、限られた医療資源を最大限活用できるよう、処方の提案や助言を行うことが求められます。
 
必要な医薬品が不足している場合は、代替薬を提案したり、薬の使用方法や副作用について情報提供したりすることで、災害時でも安全に治療ができるようサポートします。

 

4-4.公衆衛生の維持

避難所や救護所では、多くの人が集まるため、感染症の拡大リスクが高まります。このような環境において、薬剤師は公衆衛生の維持に貢献することが求められるでしょう。
 
例えば、手洗いや消毒の重要性を広く周知し、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症が蔓延しないように予防策を講じることが必要です。また、消毒薬や衛生用品を配布したり、避難所の衛生環境を改善する活動を行ったりすることも重要な役割となります。
 
参考:改訂版 薬剤師のための災害対策マニュアル|令和5年度厚⽣労働省科学研究「薬剤師・薬局における災害時等対応についての調査研究」研究班

 
🔽 災害時の薬剤師の役割について解説した記事はこちら

5.災害医療認定薬剤師に興味があるなら

災害時において、薬剤師を含めた医療従事者には専門的な知識と迅速な対応力が求められます。災害医療に興味がある薬剤師は、災害医療認定薬剤師の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。

 
🔽 災害薬事コーディネーターについて解説した記事はこちら

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。