薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.11.25 薬剤師のスキルアップ

認知症研修認定薬剤師とは?申請要件・更新方法・症例報告・試験問題について解説

文:篠原奨規(薬剤師)

認知症の進行を早期に察知し、適切な薬学的支援を行うためには、認知症の専門知識や実践力を備えた薬剤師の存在が重要となります。こうした役割を担うのが「認知症研修認定薬剤師」です。本記事では、認知症研修認定薬剤師の概要や役割をはじめ、申請要件となっている研修内容、症例報告、試験内容、更新方法について解説します。

1.認知症研修認定薬剤師とは?

認知症研修認定薬剤師とは、認知症の患者さんやその家族などに対して、薬学的知見に基づいた質の高い支援を提供できる能力を備えた認定薬剤師です。日本薬局学会によって、2015年に創設されました。
 
創設の背景には「急速な高齢化に伴う認知症患者数の増加」という、日本が直面する課題があります。2015年に「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」(新オレンジプラン)が策定されており、2025年には認知症患者数が約700万人に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症を抱えることが推計されています。
 
本戦略において、薬剤師には認知症の早期発見に貢献し、かかりつけ医などと連携しながら適切な支援に結びつける役割が期待されています。国が求める質の高い認知症ケアを実践する薬剤師には、認知症に関する専門的な知識と、臨床現場での支援に役立つ実践的なスキルを体系的に習得していることが求められます。
 
新オレンジプランによって、今後求められる薬剤師の姿が提示され、その能力を持っていることを証明する資格として、認知症研修認定薬剤師制度が創設されました。
 
なお、認知症研修認定薬剤師の認定を受けた薬剤師の一覧は、日本薬局学会の公式サイトで公開されています。
 
参考:認知症研修認定薬剤師制度|日本薬局学会
参考:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)|厚生労働省
参考:認定者所在地|日本薬局学会

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2.認知症研修認定薬剤師の役割

認知症研修認定薬剤師は、認知症の早期発見に加えて、質の高い服薬指導や多職種との連携を通じて、高度な医療を提供する役割が求められます。ここからは、認知症研修認定薬剤師の役割について、詳しく解説します。

 

2-1.認知症の疑いがある患者の早期発見

認知症研修認定薬剤師に期待される重要な役割のひとつが、認知症の早期発見への貢献です。認知症は、疾患の特性上、患者さん本人が初期症状を自覚しにくいケースが多く見られます。日常的に患者さんと接する薬剤師だからこそ、些細な変化や以前との違いに気づき、治療開始のきっかけを作ることが可能です。
 
例えば「これまで正確に薬を管理していた人が飲み忘れや重複服用を繰り返すようになった」「薬の説明を理解するのに時間がかかるようになった」といった変化が見られる場合は注意が必要です。
 
認知症の兆候に気づいた場合、薬剤師がかかりつけ医への受診を促すことで、早期発見・早期治療につながる可能性があります。特に認知症は進行性の疾患であるため、早期に適切な対応を行うことが患者さんや家族の負担軽減にもつながります。

 

2-2.コンプライアンス維持に向けた服薬支援

認知症の患者さんにとって、医師の指示通りに服薬できるかどうか、いわゆる「コンプライアンス」の維持が大きな課題です。認知症になると、記憶力や理解力、判断力が徐々に低下し、処方された薬を正しく服用することが難しくなるためです。この課題に対し、認知症研修認定薬剤師は、患者さんの状態に合わせて様々な工夫を凝らし、服薬支援を行います。
 
例えば、複数の薬を服用している場合、一包化や服薬カレンダーの活用により、飲み忘れを防ぐ工夫を行います。また、自己管理が著しく困難な患者さんであれば、薬剤師が自宅を訪問して服薬状況を確認する「訪問薬剤管理指導」の活用も選択肢になるでしょう。
 
さらに、認知症の患者さんと接する中で、病識不足や薬への不信感から服薬を拒否されるケースも少なくありません。そのため、認知症研修認定薬剤師は、患者さんの心理状態を理解しようと努め、丁寧なコミュニケーションを心がける必要があります。

 

2-3.かかりつけ医など他職種との連携

認知症ケアを円滑に行うには、薬剤師が他の医療・介護職と連携しながら支援する体制が欠かせません。厚生労働省が策定した「新オレンジプラン」において、薬剤師、医師やケアマネジャー、訪問看護師、介護職員などと連携して、患者さんにとって最善の医療・介護サービスを提供する役割が期待されています。
 
例えば、服薬状況の変化や副作用の兆候をいち早く察知した場合、速やかに医師へ情報提供を行うことで治療方針の見直しにつなげられます。また、服薬介助に不安を抱える介護職員に対して、薬の特徴や飲み方を分かりやすく説明し、安心感を与えることも薬剤師の重要な役割です。
 
参考:認知症研修認定薬剤師制度|日本薬局学会
参考:認知症の人への服薬介助の工夫|認知症の人と家族の会
参考:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)|厚生労働省

3.認知症研修認定薬剤師になるには

認知症研修認定薬剤師になるには、研修を受講し、症例報告を行った上で、認定試験に合格しなければなりません。ここからは、認知症研修認定薬剤師になるために知っておきたい、申請要件や研修内容、症例報告、試験問題について解説します。

 

3-1.申請要件

認知症研修認定薬剤師に申請するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

 

● 日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格と見識を備えていること。
● 日本薬局学会の正会員であること。
● 薬剤師としての実務の経験を3年以上有すること。
● 日本薬局学会が指定する認知症領域のe-ラーニングを20単位以上有していること。
● 日本薬局学会が認定するワークショップで6単位有していること。
● 認知症サポーターを取得していること。
● 認知症の人への介入事例を1例以上3例まで提出すること。
● 別途実施要項に定める認定試験に合格していること。(合格認定証を添える)
● 薬剤師認定制度認証機構等で認められた研修認定薬剤師を取得していること。
● 職場長(薬剤部科長あるいは薬局長等)の同意があること。
● 上記の認知症領域のe-ラーニング、ワークショップで単位取得開始後、4年以内に申請すること。

 

参考:日本薬局学会認知症研修認定薬剤師制度規程|日本薬局学会

 

3-2.研修内容

認知症研修認定薬剤師になるには、e-ラーニングとワークショップを受講して、所定の単位を取得しなければなりません。
 
e-ラーニングは、メディカルナレッジで提供されます。受講対象となるのは、受験資格を得るために指定された60講座です。30分1コマが1講座となり、1単位取得するには3講座必要であるため、60講座全て(合計20単位)を取る必要があります。また、各講座には確認試験も含まれています。
 
ワークショップは、基礎編・応用編の両方を受講する必要があります。e-ラーニングと同様、1単位あたり90分(1コマ)で構成されており、1日に取得できる単位は最大3単位までです。なお、ワークショップの参加には事前申し込みが必要です。年間スケジュールは日本薬局学会の公式ホームページに掲載されているため、あらかじめ確認の上、申し込み期限までに申し込むようにしましょう。ワークショップの受講料は、1単位当たり税込2,000円(非会員の場合3,000円)です。
 
なお、取得した単位は、初めて取得した月から4年間有効です。
 
参考:日本薬局学会認知症研修認定薬剤師制度実施要項|日本薬局学会
参考:認知症研修認定薬剤師 認定の流れ|日本薬局学会
参考:日本薬局学会 認知症研修認定薬剤師制度 Q&A|日本薬局学会

 

3-3.症例報告

認知症研修認定薬剤師の認定試験に進むためには、症例報告が必要です。症例報告では、申請者本人が実際に認知症患者さんのケアに関わり、薬学的介入を行った事例を記載します。
 
提出する症例数は、1症例以上3症例までです。報告書の書式は日本薬局学会のホームページで提供されており、定められたフォーマットを使用しなければなりません。
 
症例報告書は、認知症研修認定薬剤師制度専用のメールに送付します。査読後には受諾確認メールが届くため、添付ファイルが受信できるアドレスを使用しましょう。
 
参考:各種書類|日本薬局学会
参考:認知症研修認定薬剤師 認定の流れ|日本薬局学会
参考:日本薬局学会 認知症研修認定薬剤師制度 Q&A|日本薬局学会

 

3-4.試験問題

認知症研修認定薬剤師の認定試験は、年に1回実施されます。「学科試験」と「面接試験」の2つで構成されており、両方に合格する必要があります。
 
学科試験では、e-ラーニングの講座内容を中心に出題され、「認知症予防専門士テキストブック」と「認知症予防専門テキスト」からも出題されることが予告されています。各テキストの出題範囲は、以下のとおりです。

 

● 「2025年学科試験 認知症予防専門士テキストブック出題範囲」
(出題対象)1章〜6章、7章のうち(1)、(5)、(6)、(7)、(8)
(出題対象外)8章
 
● 「2025年学科試験 認知症予防専門テキスト出題範囲」
(出題対象)1章~5章、7章、9章
(出題対象外)6章、8章、10章、11章、12章

参考:2025年 学科試験出題範囲について|日本薬局学会
 
面接試験では、症例報告書をもとに、薬剤師としての判断力や対応の根拠、多職種からの情報収集能力を問われます。患者さんへの関わり方や薬学的介入の意図などを論理的に説明する力が求められるでしょう。
 
受験料は11,000円(税込)で、指定の口座への振込が必要です。
 
参考:日本薬局学会認知症研修認定薬剤師制度実施要項|日本薬局学会
参考:認定試験について|日本薬局学会

 

3-5.合格率と難易度

認知症研修認定薬剤師認定試験の直近の合格率や難易度に関する情報は、公式サイトでは公表されていません。
 
日本保険薬局協会の会報誌「NPhA49号」によると、第1回試験では受験者が90名、合格者が60名で、合格率は67%であったことが紹介されており、この数値から考えると、合格するためには適切な準備と対策を行う必要があるといえるでしょう。
 
参考:認知症研修認定薬剤師の第1回認定試験に60人合格|日本保険薬局協会会報誌

 

3-6.申請方法

認定申請では、以下の資料をメールか郵送で提出します。

 

● 認定申請書
● 日本薬局学会正会員 会員証
● 薬剤師免許証の写し
● 薬剤師認定制度認証機構等が認めた研修認定薬剤師証明証の写し
● 認知症研修認定薬剤師試験合格認定証の写し
● 認定申請料振込明細の写し

 

なお、認定申請は認知症研修認定薬剤師試験合格認定証の有効期限内に行う必要があるため、注意しましょう。認定申請料は、11,000円(税込)です。
 
参考:日本薬局学会認知症研修認定薬剤師制度実施要項|日本薬局学会
参考:認定申請について|日本薬局学会

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4.認知症研修認定薬剤師の更新方法

認知症研修認定薬剤師は、3年ごとの更新制です。更新の際には、以下の要件を満たす必要があります。

 

● 3年の間に所定の更新プログラム合計10単位以上を取得すること。年に1単位は必ず取得することとする。
● 認知症の人への介入事例(本学会の定める書式)を1例以上提出すること。
● 次の項目から選び、参加・参画すること。1回の参加・参画で1単位とし、3年間で3単位とする。
 o 日本薬局学会学術総会等の学会等で認知症関連の演題での発表を行う。
 o 本制度のワークショップにファシリテーターとして参加する。
 o 認知症関連の地域活動に参加・参画し、実施報告書を提出する。
 o 認知症対応力向上研修伝達講習会(都道府県・市町村・薬剤師会主催等)への参加。
● 認知症関連専門学会、地方会等の認知症をテーマとする研修会や、その他薬学の学会、医療関連の学会に参加すること。また、受講推奨研修会として「老年期認知症研究会」の中央研究会または地区研究会に1回以上参加する。また、本制度ワークショップに再度受講者として参加することもできる。各1回の参加を1単位とし、合計6単位以上取得すること。
● 更新申請時に日本薬局学会の正会員であること。

 

更新手続きでは、認定更新料11,000円(税込)を支払い、認定期限の前後1カ月の間に、下記の申請書類を提出しなければなりません。

 

● 認定更新申請書
● 日本薬局学会正会員 会員証
● 薬剤師認定制度認証機構等が認めた研修認定薬剤師証明証の写し
● 症例報告書(介入事例)1例
● 学会抄録写し等演者・演題の確認できる資料、またはファシリテーター参加証、地域活動実施報告書
● 地方自治体発行の「認知症対応力向上研修」伝達講習会修了証書の写し
● 認知症関連の研修会参加証明書写しまたは参加費領収書写し等と聴講した内容(概要)の報告書、「老年期認知症研究会」中央研究会または地区研究会の本会申告用参加証明書、本制度ワークショップ修了証写し等、参加を証明する書類
● 認定更新料振込明細の写し

参考:日本薬局学会認知症研修認定薬剤師制度実施要項|日本薬局学会

5.質の高い認知症ケアの実践を目指して、認知症研修認定薬剤師を目指そう

認知症研修認定薬剤師は、認知症の患者さんやその家族などに対し、薬学的知見に基づいた質の高い支援を提供できる能力を備えた薬剤師です。認知症の早期発見やコンプライアンス維持に向けた服薬支援、かかりつけ医など多職種との連携を通じて、高度な医療を提供する役割が求められます。認知症研修認定薬剤師を申請するためには、所定の研修を受講し、症例報告を行うとともに、認定試験に合格しなければなりません。3年ごとの更新制で、所定単位の取得や症例報告、地域活動などが求められます。認知症ケアにおいて専門性を発揮したい薬剤師の方は、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

 
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執筆/篠原奨規

2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。