薬剤師の在宅業務は患者さんの生活、ひいては人生に入り込む仕事。やりがいがあると同時に、死に直面することもあり、精神的に落ち込むことも…。薬剤師の在宅医療に対し「やりたくない」「辛い」といったネガティブな印象を抱く薬剤師さんへ――薬剤師の在宅業務を15年以上手がける熱血薬剤師薬剤師・加藤健司さんがアドバイス。
在宅医療の辛さは着ぐるみで乗り越える
「薬剤師の在宅訪問は、患者さんのドラマを紡ぐ脚本家のようなものだ」
薬剤師として在宅業務に長年のキャリアを持つ加藤健司さんは、前回のレポートで在宅医療のやりがいについて語ってくれました。
しかしその一方で、薬剤師の在宅医療は「やりたくない」「辛い」という思いも理解できるといいます。
「在宅医療では、終末期の患者さんに寄り沿うこともあり、死に直面することも…。
感情移入しすぎると仕事が辛くなってしまうんです」
薬剤師が在宅医療にかかわるには、プロフェッショナルとしての意識が大事だといいます。
「薬剤師はあくまでもスタッフの一員で、家族ではありません。医療従事者のプロという観点を忘れてはいけません。
しかし私も在宅に慣れていないころは、死に直面し、冷静な自分を保てなくなることも多かったですね」
そこで加藤さんが編み出した方法は――。
「業務中は薬剤師という着ぐるみを着て、その役を演じるようなイメージを持ちます。
そして一歩引いたところから、客観的に状況を観察することで、医療のプロとして薬剤師が解決すべきことが見えてきます」
訪問先の自宅では、ゴミが山積していたり、家族がもめていたり、認知症の患者さんの部屋には驚くようなこともあるそう。
「薬剤師の着ぐるみを着て仕事のスイッチを入れることで、最初は辛かった現場が、回数を重ねるうちに、だんだん面白いと思えるようになりました。
次に訪問したときは何が起こるかな? と楽しみに変わるんです」
そして、仕事が終わったら、着ぐるみをさっと脱いで気持ちを切り替えるのだといいます。
「在宅の仕事は辛いことも多い分、患者や家族を幸せに導く素晴らしい仕事。患者さんから感謝され、やりがいも大きいんです。
在宅のキャリアを積むうちに、患者さんの問題点や悩みが見えるようになり、ポリファーマシーにより患者さんに感謝され、薬局へも貢献できるのです」
お話を聞いたのは…薬剤師 加藤健司さん
みよの台薬局グループ 薬局事業本部副本部長。2002年にみよの台薬局グループで本格的に在宅医療に着手。2016年に総合メディカルグループとなり、現在は約1万2000人の在宅患者を抱え、業界を牽引。「在宅は患者を幸せにする素晴らしい仕事」を信条に、薬学生や若手薬剤師を育成している。趣味はレース観戦とお酒で、特にビールが大好き。
取材・文/中条礼子 コミック/なとみみわ