
医療に欠かせない職種でありながら、どこか影が薄いと言われてしまうこともある、薬剤師という哀しき存在……。「あるある話」を通して、もっと知ってください。私たち薬剤師のこと!
薬剤師に「お薬ちょうだい!」と言われても…【薬剤師のあるあるシーン#14】

私が病院勤務だった頃、他部署の職員から「薬が欲しいんだけれど、内緒でもらえない?」とお願いされることがしばしばありました。「風邪をひいたから1回分だけ欲しい」「たくさんあるからいいでしょ」みたいな感じで気軽に頼まれるのです。もちろん、処方薬は処方箋がないと絶対に渡せないのですが、どう説明すれば角が立たないかと悩んだ時期もありました。
勤務先の病院ですから、有給休暇を使えば待ち時間なしで受診できるというメリットはありますが、わざわざ診察を受けて処方箋を書いてもらうとなると、やはり時間も手間もかかって面倒臭い……。その気持ちは分からなくもないのですが、どれだけ共感しても、法律で禁じられている以上、薬を渡すわけにはいきません。たとえ薬がたくさんあっても、それは病院のものであり、決して私のものではないのですから。
「処方箋がなければ渡せない」と正攻法で説明していた時期は短かったと思います。「そんなことしたら病院を辞めないといけなくなる」「薬剤師免許を取り上げられてしまうかも」「○○先生(診察してくれる先生)がいいって言ったら、すぐに渡します」などと切り返すのが常でした。結局は皆、本当はどうしなければならないか、よく知っているわけですから。
今思えば、若手時代の同僚との、一種の知恵比べのようなものでした。無茶を言い合えるのも、普段から職員の皆さんと良好な関係を築けていたからこそでしょう。これもまた、懐かしい思い出の一つです。

東北大学薬学部卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に勤務。現在はライターとして医療系編集プロダクション・ナレッジリングのメンバー。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。
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