インタビュー 公開日:2020.07.21 インタビュー

薬剤師が携わる認知症ケアの最前線【薬剤師と在宅医療】

在宅に限らず高齢者介護・介助の現場で増加する認知症。千葉県内の住宅街エリアにおいて在宅医療・介護のサポートを行っているメディスンショップ蘇我薬局では認知症の患者さんへの対応も多いといいます。薬剤師にできる認知症ケアについて、現場で活躍する雑賀先生にお話を伺いました。

 

※本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医薬情報おまとめ便サービス」特集2019年5月号 P.3-4「薬剤師が携わる認知症ケア」を再構成したものです。

お話を聞いたのは……メディスンショップ蘇我薬局 管理薬剤師 雑賀匡史先生
 

<プロフィール> ※2019年3月取材時点
2007年3月
東邦大学院臨床病態学研究室卒業
2007年4月
Canada Edmonton University of Alberta
(カナダエドモントン州立アルバタ大学)薬学部留学
2009年4月 山王病院入職
2010年8月 山王病院退職
2010年9月 メディスンショップ蘇我薬局入職
千葉市薬剤師会理事、在宅介護委員会委員長千葉県薬剤師会地域医療連携推進委員会委員、 適正使用委員会委員
・認知症ケア学会所属
・認知症ケア専門士
介護支援専門員(ケアマネジャー)

薬剤師が認知症の人に関わる意昧

在宅で介護されている介護者の方々が負担に感じる介護・介助 行為についての調査(下記)では、「問題行動への対処」36%、「排泄の介助」25%、「入浴の介助」18%、「服薬の介助」12%、「食事の介助」7%、「衣類着脱の介助」2%と報告されています。この結果からもわかるように、私たち薬剤師が認知症の人と関わるということは、同時に介護者の人とも関わることになります。患者様だけではなく介護者も同時にケアすることが求められます。

 
■介護者が感じる服薬介助負担のアンケート調査

鈴木弘道et al 社会薬学(Jpn.J.Soc.Pharm.)vol.32 No.2 2013

服薬をシンプルにする処方提案

認知症になると服薬忘れが目立ってきます。介護者が服薬介助している場合は、毎日の服薬で疲労を抱えていることも少なくありません。医師の処方内容について、医学的・薬学的な面から処方提案できる職種は、薬剤師を除いて他にはいません。服薬時点をまとめたり、剤形変更やポリファーマシー是正の提案など、服薬アドヒアランスを向上するための提案をすることで、認知症の人だけでなく、介護者の心身の健康を同時に支えることができます。

 

・1日5回服用の処方内容を 1日1回にまとめる
・ヘルパーや介護者がいる時間帯に服用時点変更
・内服薬から外用剤に変更 など

認知症ケアの基本的な考え方

認知症ケアの基本に、「パーソン・センタード・ケア」という考え方があります。これはイギリスの心理学者が提唱した考え方で、「認知症の人を一人の人として尊重し、その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行う」というものです。

 

認知症の人を介護する際に「何もわからない人」「特異な行動をとる人」「すぐに忘れてしまう人」といった考え方で接するのではなく、その人の人生観や生きてきた背景を考え、相手の立場を想いながら接しましょう、という考えです。

 

薬剤師が服薬指導する時にも有効で、いくつかポイントを押さえておけば誰にでも簡単にコミュニケーションをとることができます。

 

■コミュニケーションのポイント
・否定しない
・ゆっくり話す
・同時に二つのことをしない、言わない
・曖昧な表現を避け、短い言葉ではっきり話す
・相手の言葉が出てくるまで待つ
・相手を敬った言葉遣いをする
・上方や後方から話しかけない(相手の視線の先に自分が入ってから話しかける)
・不穏、興奮時は上手に話題を変えていく など

居宅での服薬管理

居宅で服薬管理をするにあたり、認知症の人の場合には注意が必要なことがいくつかあります。たとえば、お薬カレンダーで管理する場合ですが、ご本人の見当識(日時・場所の把握)が障害されていると、お薬カレンダーに配薬された薬を1日のうちに何日分も服用してしまうことがあります。そのような場合には医師、介護者と相談し、必要に応じて保管場所を変更したり、プラセボ薬の利用などが効果的なことがあります。

薬剤師にもできる認知症ケア

軽度の認知症の人は自身にも、記憶力が衰えている自覚があります。それだけに、私たちの会話が理解できないと、どんどん不安そうな表情を見せ、自信を失っていきます。そんな時、昔の話をしてもらいます。半世紀以上も前のことを、昨日のように話してくれます。私が訪問しているおばあちゃんの話です。

 

戦時中、学食で味も素っ気もない不味い人参が出て、残したかったけど残すと先生に殴られるから困ってさ。幸い、隣の子も人参が嫌いで意気投合して、二人で新聞紙に包んだの。さて、どこに捨てるか? あの頃はボットン便所だったから、そこヘポイッ。いい隠し場所でしょ。

 

80年以上も前のエピソードです。話を聴いているこちらも自然と笑顔になりましたし、この記憶力を素直に讃えると、おばあちゃんはいつの間にか不安な表情から笑顔にかわっていました。昔のことを覚えているということは、短期記憶を失って自信喪失している人にとっては、心の支えになるのだと思います。

 

実は、これは回想法と呼ばれる認知症ケアの一つです。ロバート・バトラーというアメリカの精神科医が提唱した心理療法です。ケアというと介護職の役割だと思いがちですが、薬剤師にも簡単にできる認知症ケアの一つです。注意すべきポイントは、嫌な思い出を無理やり掘り起こさないこと、趣味などの好きなことを自由に話してもらうことです。薬剤師にも簡単にできる認知症ケアを活用して、薬と同時に笑顔も提供したいですね。

 

■回想法とは
アメリカの精神科医ロバート・バトラー氏が 提唱した心理療法。過去の懐かしい思い出や経験を誰かに話したり、お互いに語り合ったりすることで脳が剌激され、精神的な安定 につながると期待されています。マンツーマンで行う個人回想法と複数人で行うグループ回想法に分けられ、認知症の進行予防のために実践されています。

 

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出典:株式会社ネクスウェイ「医薬情報おまとめ便サービス」特集2019年5月号