本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」特集2017年4月号P.7-9「鹿児島県の女性の健康サポート薬局の取組み」を再構成したものです。
――「女性の健康サポート薬局」事業開始のきっかけと現状についてお聞かせください。
宮之原さん もともとは厚生労働省が推奨する「健康日本21」の施策のひとつ“性差に配慮した健康づくりを支援し、受診・相談しやすい医療環境の整備”に位置づけられて始まりました。それを鹿児島県では「健康かごしま21」とし“女性の生涯を通じた総合的な健康づくりの支援や正しい知識の普及、ニーズに合わせた相談対応策”などを目的として活動しています。
公益社団法人 鹿児島県薬剤師会 常務理事 宮之原真理さん
実のところ、47都道府県のなかでも鹿児島県は、がんの検診率が低いんですね。働く女性が増加する昨今、乳がんや子宮がんなどの早期発見につながる検診率をアップさせたいという事も取り組みの重要なポイントとなります。
こうした啓発は県から薬局に配布されるリーフレットやピンクリボンのポスターで、だいぶできたと思います。また、「女性の健康サポート薬局」というネーミングから、女性が気軽に立ち寄ったり、安心して健康相談のできる薬局だという認知度も少しずつですが、上がっていると思います。
――今後の展望についてお聞かせください。
宮之原さん 現在、県内の薬局は850軒。うち、「女性の健康サポート薬局」は、まだ31軒なんです。実際に手を上げてくださる薬局は100軒以上あるのですが、指定までのハードルが高いことがネックです。指定条件は6つあり、全てを満たさねばなりません。例えば「健康かごしま21推進薬局である」ことのなかでの、禁煙支援薬剤師がいる薬局である(編集注:本取材後、要件から外されることになりました)とか、指定要件がいささか厳しすぎることが県下各市町村に点在していかない要因かと……。現在、健康増進課に緩和のお願いをしているところなんです。
また、鹿児島県薬剤師会では鹿児島県からの委託で「女性の健康支援セミナー」を開催していますが、先の指定要件のひとつにもある公開講座のほか、20歳前後の学生が対象の講座にも力をいれています。思春期から老年期にかけての女性の体のサイクルを通じ、若いうちから自分の体のことをよく知ってもらうことが狙いです。最近は42年ぶり(編集注:2017年取材時)に梅毒が急増していますが、性感染症や月経周期と妊娠力についてなど、凝縮された60分の講演には大きな反響があります。今後も女性が興味あるテーマを発信していきたいですね。それから、いまは医薬分業の結果“薬局は処方箋薬をもらいに行く所”“ドラッグストアは売薬を買いに行く所”そんなふうにとらえられがちですが、本来「薬局」は医薬品調剤をするだけでなく、病気になる前に健康相談をする所。いわば、「町の保健室」といった役割を担う場所でありたいと考えています。
――ニーズに合った医療の推進とは?
岩下さん 例えば、若い女性が市販のロキソニンSを購入しに来られた場合、「どこが痛みますか? 頭痛ですか?」など薬を服用する目的を聞きます。月経痛があまりにひどい場合は子宮内膜症の可能性も有り得るので、注意が必要なんですね。放っておけば、不妊症に至るケースも少なくはありませんから。どうしても若い女性は婦人科に行く事を恥じらって敬遠してしまいがちですが、とりあえず診察に行ってみて、がんの早期発見となった事例も結構、あるんです。ですから、声かけは常にするようにしています。妊娠中や授乳中の方が飲む薬や、更年期治療でお医者様から勧められたホルモン補充療法(HRT)のお薬についても詳しく説明します。
鹿児島県「あすなろ薬局」岩下弘美先生
――安心して個人情報相談できる窓口とは?
岩下さん プライバシーに関わる内容など、ほかの人に聞かれたくないご相談は予約をしていただければ、別室でじっくり伺います。この、“とにかく聴く”ということが、薬剤師の仕事で大切なことなんですよ。とくに更年期の患者さんは相談時間が長いので、対応しきれない病院や薬局も多いんですが、患者さんにしてみれば“吐き出したい”という思いが強いわけで、相談後“すっきりしました”と元気に帰られる方も多いです。一方、家事、育児、仕事に追われているお母さんがたや若い人はスマホ検索の情報を信じてしまうようですが、正しい情報もあれば、誤った情報もあるというのがネットの世界なので……。心配事があったら相談してほしいと思います。
――女性のライフステージに合わせた指導とは?
岩下さん 「あすなろ薬局」では血液検査データなどから生活習慣予防に繋がるお話もさせていただくことがあるんですよ。GPT(ALT)が10以下の人に乳がん患者が多いと聞いています。また、妊娠中の検査は将来の予防検診ともいえて、妊娠中に血圧が高いと更年期に血圧が高めになる人もいます。ですから、「塩分は控えましょうね」「体重を増加しないように注意しましょうね」などのアドバイスを早くからすることができるんです。できれば、病院と同じように、薬局に栄養さん栄養士さんが1人いて、栄養指導ができるようになるといいなと思います。
――働く現代女性への検診のすすめかたは?
岩下さん 昔に比べ、いまは仕事を持つ女性の数がとても増えました。フルタイムで働く方などは会社での健康診断があるのでまだ安心ですが、パート雇用の場合、ご自身で自己管理をしなければならない――とくにご家庭をお持ちの方はご主人やお子さんを優先してしまい、自分の健康面は後回しにしてしまいがちです。お産が終わった後は婦人科で検診を受ける機会も減りますし、気がついたら更年期障害だったという場合も少なくはありません。また、「自分はまだ若いから大丈夫」という過信も要注意です。
「あすなろ薬局」は鹿児島県内で唯一、日本女性医学学会認定、女性ヘルスケア専門薬剤師、更年期と加齢のヘルスケア学会認定、シニアメノポーズカウンセラーが相談に応じている。
実際にこんなことがありました。毛深いことをお悩みになられ、皮膚科でレーザー治療を受けていた女性がいらっしゃったんですね。でも、なんとなくおかしいな……原因はホルモンの異常からきているんじゃないかな? と思ったんです。そこで婦人科の受診をすすめてみたところ、子宮頸がんの初期だったんです。婦人科と同様、若い女性は大腸の検査や痔の検査なども恥じらいがあるものです。でも、具体的に検査の説明をしたり、女医のいる病院をご紹介するようにして、なるべくひとりでも多くの方に検診をしてもらえるよう努めています。検診を受けて異常がなければ、それで安心できますしね。
――目指すべき薬剤師の姿というものはどういうものでしょう?
岩下さん 勉強熱心な薬剤師さんはとても多いのですが、アウトプットがうまくできていないと感じることがあるんですね。客観的に薬剤師という職業がどう見られているか、自分の苦手分野を知るためにも薬剤師さんだけの勉強会ではなく、もっと外に出てみるといいと思いますね。そして、仕入れてきた情報を患者さんに還元していくことが大事だと思います。
いろいろ勉強した結果、どんな薬剤師になるかは自分自身で決めていくことですが、大切なことは、自分のライフステージに合った学び方、勤務形態を心がけることですね。子育て中の場合は無理せず、勤務時間を午前中にするなりして軸足を育児に置いて子どもに寄り添えばいいんじゃないでしょうか。結局は誰のためにこの仕事をしているかということですから。好きで取得した仕事であれば、焦らず自分の暮らしに合わせて続けていただきたいと思います。
――今後の課題とは?
岩下さん 例えば女性の場合、動脈硬化の危険因子である喫煙は男性よりも影響受けやすいんですね。そういった話も処方されたお薬の説明時にアドバイスをしているのですが、いわゆる保険調剤のシステムとして、処方薬に関わる薬学的視点から説明をしないと点数にはならない。いわゆる保険調剤の点数とニーズがリンクしないという点があります。そこが今後の課題でしょうか。
出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2017年4月号