インタビュー 公開日:2021.06.24 インタビュー

「0402通知」で薬剤師に求められる意識変革とは~狭間 研至先生インタビュー

これからの薬局・薬剤師に求められる存在意義や、専門性・やりがいの追求などについて現役の外科医ながら多数の薬局経営も手がけるファルメディコ株式会社の狭間社長にお話を伺いました。

 

本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」特集2019年12月号巻頭インタビュー「0402通知から約6ヵ月、“対物から対人業務へ”における『今』と『これから』を聞く」P.1-2を再構成したものです。

お話を聞いたのは……外科医/ファルメディコ株式会社 代表取締役社長 狭間 研至さん
 

<プロフィール> ※2019年12月号掲載時点
昭和44年 大阪生まれ
PHBDesign株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本在宅役学会 理事長
医療法人嘉健会 思温病院 理事長
熊本大学薬学部・熊本大学大学院薬学教育部 臨床教授
京都薬科大学 客員教授
医師、医学博士

薬局ビジネスの変革期経営者も薬剤師も意識改革を

2015年10月に示された「患者のための薬局ビジョン」から4年、2019年4月には「0402通知」が発表され、“対物から対人業務へ”に対する具体的な対策やビジョンがより求められるようになってきました。それは現場の薬剤師だけでなく、薬局経営者にとっても同様です。

 

調剤報酬制度によって対物業務に重きを置いていた時代から変わろうとしている今、経営者にはビジネス戦略の見極めを行い、立地依存型の経営を改める必要があります。さらには、対人業務の充実のために経営方針を改革するために、現場の薬剤師やスタッフたちと新たなビジョンを共有していくような組織マネジメント力も問われるようになっています。薬剤師業務の効率化を余儀なくされる今後は、ビジョンの共有が成されなければ、長年支えてくれたスタッフたちとも袂を分かつことになるかもしれません。

現在は、地域医療の現場で医師として診療も行うとともに、一般社団法人薬剤師あゆみの会、一般社団法人日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育に、長崎大学薬学部、近畿大学薬学部、兵庫医療大学薬学部、愛知学院大学薬学部、名城大学薬学部などで薬学教育にも携わっている。

 

薬局のビジネスモデルが変貌する中、薬剤師の職能を効果的に発揮していくには、新たな仕組みづくりや意識改革を行い、さまざまな患者さんのニーズに寄り添える存在になっていくことが大切なのだと思います。薬剤師の皆さんは、自分が本当にやりたいことは何か、何のために薬剤師になったのか、もう一度一人一人が見つめ直す必要があるのではないでしょうか。

薬局ビジネスの変革期 経営者も薬剤師も意識改革を

対物から対人業務へのシフトにおいては、やはり薬剤師業務全体の効率を見直すことが大きなテーマとなってきます。機械化やICT活用の促進だけでなく、薬剤師以外の薬局スタッフ(Co-Pharmaceutical Staff:CPS)との連携をどのように進めていくかも課題です。

 

弊社でもそうした時代の潮流をつかみ、何年も前から取り組んでおりますが、幸い0402通知が示された際は、社員たちから「自分たちがやっときたことが記されている」「今後ますます安心して業務に取り組める」との声を聞くことができました。国から対物業務に対する効率化の仕組みが明確に示されたのは良いことだと受け止めています。

 

ただ、薬剤師には自分の仕事を他社に任せたり、マネジメントしたりすることに抵抗を感じる方が多いのも事実です。

 

そこで私どもでは、社内教育プログラムを作成し、検定制度を創設して人材教育を施しました。一方で、パートナー制度を確立し、CPSをパートナーと呼称し、下からジュニアパートナー、パートナー、ファーマシスツパートナー、プロフェッショナルファーマシスツパートナー…というキャリアに合わせたステージを設定しました。昇格に対するモチベーションだけでなく、下のパートナーへの教育に必要な要素を学ぶことにもつながっています。

 

また、一つ一つの作業工程と責任の所在を明確にできるよう業務の見える化を促進し、薬剤師が安心して仕事を任せられる仕組みづくりなども行っています。

 

薬を出した後まで見届けることが対人業務の基本であり、責任

もう1つ大事なことは、そもそも対人業務において薬剤師は何をすべきなのかを明確にすることです。これまで対物業務に専念してきたことから、薬剤師自身が、薬を渡した後のイメージを持ちにくくなっている現状があります。

 

そんな方々に私が伝えているのは、とにかく「服用できているか」「効き目はどうか」「副作用はないか」の3つをチェックして見極め、問題があれば医師にフィードバックすること。このサイクルを徹底するよう求めています。そうすれば前回処方の妥当性を評価することになり、必然的に次回処方の改善につながる可能性が高まりますよね。自分の一言が患者さんの症状の改善に影響するのは、怖さも伴いますが、それ以上のやりがいを感じられるはずです。

こうした薬剤師ならではの見立ては、ポリファーマシーによる副作用や残薬の問題にも関わってきます。例えばある薬では吐いてしまう患者さんがいたとします。薬剤師からの評価や疑義照会がない限り、医師は症状の一つだと判断してしまうため、さらに薬を処方してしまうことになります。ですが、薬剤師は吐く原因となる薬が何かを知っていますし、また最終的には薬剤師が投薬した薬で吐いているのも事実です。そこに対して薬剤師が責任を負うのは当然です。

 

実際、弊社の薬剤師に「もし自分の疑義照会で医師がその薬の処方をやめたらどう思う?」と尋ねると、やはり「直接患者を見に行って確認しないと不安です」と答えます。そうやって気づきをあたえることで、在宅訪問等の患者の状況を直接確認する意識も醸成され、やるべきことのイメージが持ちやすくなるという例もあります。

タスク・シフティングへの貢献など薬剤師に寄せられる期待も拡大

医師の働き方改革が注目される通り、現在の医師は多忙を極めるが故に、本来の診断業務よりも薬物治療の管理に追われてしまっています。病院の処方箋発行量や医師の再診料などの安さも原因の1つだと思いますが、本来、薬物治療管理は薬剤師が機能を発揮する領域のはずです。ですから、いかに医師の薬物治療管理の負担を薬剤師へタスク・シフティングできるかも薬剤師の対人業務の質向上をはかる上での重大な鍵と言えます。

 

 

もちろん、その際の安全性の担保は不可欠ですから、診断が必要な患者さんや急性期の患者さんは医師が担当し、薬剤師は薬物治療管理を含む投薬後のフォローと医師へのフィードバックを徹底することが求められます。

そもそも患者さんは薬が欲しいのではなく、症状を治したいわけですし、そこに根本原因があるのならその解決策を見出したいはずです。そのように患者さんのニーズに薬局や薬剤師がどう応えていくべきなのかを考えなければいけない時にきているのだと思います。

 

いずれにしても、ポリファーマシーや残薬の問題なども含め、国や医師などによる薬剤師への期待は高まっていると感じます。全国約17万人の薬局薬剤師と5万9000軒もの薬局という社会資源を、これらの社会課題とどう適合させ解決していくのか。現行の法律による制限はあるものの、その期待に応えるためにも薬剤師は非薬剤師をマネジメントしながら対人業務における役割や目的を明確化していくことが大切なのだと思います。

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2019年12月号