職域を超えた薬薬連携を目指し有志が研修会
医療費・薬剤費の高騰、ポリファーマシーとそれに伴う有害事象、廃棄される大量の飲み残しの薬。こうした医療の現状に対し、「薬剤師」として何かできないか、「薬剤師」という医療資源の十分な活用につながっていないのではないか――。こうした考えを持った薬剤師が集まり、平成28年度日本医薬品情報学会課題研究班(研究代表者:橋本貴尚氏、仙台市医療センター仙台オープン病院薬剤部)では「医薬品情報(DI)担当者の研究教育能力を高める研修プログラムの開発」をテーマに、今年度研究を行ってきた。その一環として、同研究班は4日に仙台市内で医薬品情報をめぐる研修会を開催し、病薬・開局の薬剤師から日々の活動紹介が行われたが、改めて“薬薬連携”の重要性、これまで以上に職域を超えて情報共有を進めていく必要性が強調された。
必要なDI専門家の情報共有‐宮城県内の施設にアンケート
日本医薬品情報学会課題研究班メンバーは、橋本代表のほか、副代表に菊池大輔氏(東北医科薬科大学病院薬剤部)、そして渡辺善照(東北医科薬科大学病院薬剤部長、同大学薬学部臨床薬剤学教室教授)、畑中貞雄(東北医科薬科大学病院臨床研究支援センター長)、栃窪克行(仙台市医療センター仙台オープン病院薬剤部副部長)、新沼佑美(広南会広南病院薬剤部)、村井ユリ子(東北大学大学院薬学研究科准教授、同大学病院薬剤部副薬剤部長)、小原拓(東北大学病院薬剤部)の各氏で構成する。
この課題研究班とは、日本医薬品情報学会の支援を受け、同学会が指定する1年間(延長時は2年間)の企画研究を行う。橋本氏らは「医薬品情報(業務)の標準化」と「薬剤師全体のベースアップ」の二つのテーマを定め、今年度について1年間活動を行ってきた。ここでの「標準化」とは、『医薬品情報を取り扱う専門家として薬剤師全体が一丸となり、患者にとっての安全・安心・最高の薬物治療を実践するために切れ目のない支援体制の確立に向けた情報共有』と位置づける。
また、研究班メンバーは薬剤疫学、医薬品情報、臨床研究・治験、医薬統計などの各領域を専門に持ち、学会発表や論文執筆、研修会・勉強会などを精力的に実施するなど、豊富な経験を有している。そこで、情報共有体制の確立と同時進行で、各薬剤師が求めるニーズに対して可能な支援を“気軽”に受けられる体制作りを目指した。
今回の研修会(宮城県病院薬剤師会との共催)は、いろいろな考え方を持つ薬剤師が集まって、情報共有しようというのが趣旨で、「演者と参加者の双方から得た知見が、今後の薬剤師の情報活用、そして情報共有のあり方に貴重な示唆を与えてくれ、それが“近未来の医薬品情報の一つのカタチ”につながっていくことを期待して企画した」(橋本氏)という。
テーマは「患者さんにとっての安全・安心・最高の薬物治療のための医薬品情報を考える」とし、▽健康食品の情報に関する取り組み(NPO法人ふぁるま・ねっと・みやぎ理事長戸田紘子)▽小さなDIから大きな効果(塩竃市立病院薬剤部佐藤昌博)▽薬局で行う腎機能評価(つばさ薬局多賀城店渡邊愛)▽抗凝固薬適正使用のための情報共有(広南病院薬剤部新沼佑美)▽がん専門病院での医薬品情報業務の取り組み(宮城県立がんセンター薬剤部治験・臨床研究管理室江刺晶央)▽仙台市薬剤師会の「ハートヘルスプラザ」について(オオノひかり薬局福室店藤田尚宏)――の各職域からの発表が行われた。
まず橋本氏からは、宮城県病薬の会員施設を対象とした調査と、仙台市薬の会員施設を対象とした調査を統合して検証した「医薬品情報の認識に関するアンケート結果」が報告された。前者は主として病院、後者は主として薬局が対象であり、母体の異なる二つの集団のDI業務の現状や認識を把握し、共通点や差異の検出を試みた。
調査対象は、県病薬が122施設のうち回収72施設、仙台市薬が760施設から回収した109施設のうち薬局薬剤師105施設とした。項目は「DIの収集・管理・加工・提供の現状」と「機会があれば学んでみたいこと」などを聞いている。
論文読解能力という視点からは、「学んでみたい」として挙がった項目は「医薬統計」が県病薬61%、仙台市薬47%、「文献の批判的吟味の仕方」が県病薬54%、仙台市薬51%、「文献検索の仕方」が県病薬59%、仙台市薬62%、「論文を読むための超基礎知識」が県病薬61%、仙台市薬57%──で、論文読解に関してはニーズの高さを示唆している結果であった。
次に、プレゼン技術と学会発表の視点からは、「学んでみたい」として挙がった項目は、「情報提供・プレゼンテーション技術」が県病薬72%、仙台市薬72%、「日常業務の成果を学会発表につなげるコツ」が県病薬56%、仙台市薬28%。「DIの現状」として挙がった項目では、「全国規模の学会に参加し情報収集を行う」が県病薬50%、仙台市薬26%、「地元・近隣の研修会の参加し情報収集を行う」が県病薬70%、仙台市薬72%──であった。
地元の研修会は両者とも7割を超える人が参加している状況だったが、全国規模の学会となると両者に大きな差があり、学会に行ける(行く)人がいつも決まっていることが考えられた。そこで、「全国規模の学会に参加し情報収集を行う」という回答を施設の薬剤師別に集計すると、県病薬は「5人以上」83%、「2~4人」63%、「1人」27%、仙台市薬は「5人以上」40%、「2~4人」23%、「1人」14%で、施設の薬剤師数に強く依存していることが分かった。
薬薬連携の視点からは、「学んでみたいこと」として「他施設のDI事例」を県病薬は79%、仙台市薬は57%が挙げている。「DIの現状」としては、「ホームページ上で採用薬情報などを公開している」は県病薬が9%、仙台市薬が14%、「周辺薬局・施設と協同の勉強会を開催している」は県病薬23%、仙台市薬26%──となり、他施設のDI事例は特に病院薬剤師で強いニーズがうかがえた。今は不十分だが、いずれ情報共有してみたいという点では両者は一致していた。
高い“他施設との連携”ニーズ‐「スキル」学び合う場が必要
これらのアンケート結果から、橋本氏は「論文読解やプレゼンテーション技術に関するニーズは高い一方、研鑽の場となる全国規模の学会には病院・薬局問わず、施設の薬剤師数に依存して十分に参加できていない実態が明らかとなった。現状では専門薬剤師などの単位を取得できる機会は、学会(学術大会)か大都市圏の勉強会参加がほとんどであり、薬剤師としての考えを発表する“スキル”を身に付ける機会を身近に設けるため、地元開催の働きかけも必要。これは施設個々では進めにくく、薬剤師会などの組織同士の連携が不可欠。また、他施設との情報共有に関するニーズも決して少ない数字ではなく、今後は業務・学術の両面で各薬剤師会とも連携しながら薬薬連携の一層の促進を図り、地元での存在意義・貢献度を高めていくことが重要と考える」と強調した。
各職域からの取り組み報告では、戸田氏が薬局店頭とNPO活動を通じて「昨今は健康食品の効能・効果に関して、実態と大きく異なるような宣伝が散見される。薬剤師が薬と食品に関して、エビデンスに基づいた情報をしっかり提供することの意義は大きく、今後も広く薬剤師や薬学生にも呼びかけ、情報交換の中から共有できる確かな情報を集積していきたい」と述べたほか、渡邊氏からは薬局内(長町店、多賀城店)で腎機能検査値・薬物療法の評価・生活指導の要点などの学習を行い、処方監査、服薬説明、薬歴の記載についてのマニュアルを作成していること。藤田氏からは、現在認知症疾患に絞って活動を続けている仙台市内の「ハートヘルスプラザ」薬局の状況が紹介された。
病院側からは、佐藤氏が塩竃市立病院全体の処方と検査値とを関連づけ見える化し、個々の処方に介入することで大きな効果を得ていること。新沼氏は、入院中にワルファリン製剤を内服している患者に「ワーファリン手帳」を発行している取り組み。江刺氏は、リスク管理計画(RMP)を利用した副作用集積システムの構築などDI業務に関する取り組み事例が、それぞれ紹介された。
これらを受け、研究班副代表の菊池氏は「DIは情報の受け手(患者、医療従事者など)のニーズに合わせて、カスタマイズされて最適化されていくものだと思う。特にDIに関するエビデンスの創出は本研究班のテーマでもあり、各施設で最適化されたDIは当該施設にとどまることなく、情報を共有化するという意味でも学会発表や論文化を検討していただきたいと思う。将来的にエビデンスの創出という意味では、薬局間(病院、保険薬局、漢方薬局、相談薬局など)における幅広い意味での薬薬連携を検討していければと考えている」と総括した。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
2017年2月4日(土)、宮城県仙台市で医薬品情報をめぐる研修会が開催されました。病院薬剤師・開局薬剤師から日々の活動紹介が行われ、医療費・薬剤費の高騰、ポリファーマシー、飲み残し薬の廃棄といった医療の現状に対し、“薬薬連携”で情報共有を進めていくことの重要性、必要性についても触れられたということです。