医療機器

薬事情報管理、もはやエクセルは限界‐「RIMS」で全社共有へ

薬+読 編集部からのコメント

一つのシステムで薬事情報を管理していく「RIMS」という概念。日本国内で導入している企業は約三分の一ですが、全社世界規模での医薬品情報共有が課題となる中、個人でのファイル管理は限界があると指摘されています。
ヨーロッパでは薬事情報の電子化、製品コードによる規格化が法制化されつつあり、日本企業も情報の一元管理に舵を切っています。

膨大な薬事情報を管理するために、エクセルを使い続けるのはもう限界――。「Regulatory Information Management」(RIM)という概念が海外から日本へ伝来されようとしている。紙から電子ファイルによる薬事申請に加え、欧州では医薬品情報を製品コードで標準規格化した「IDMP」の法制化に動き出す。複数国、複数地域で製造販売、承認申請を行う場合に、それぞれの国や地域の薬事規制を守るために全社的な情報共有が必要だが、担当者がエクセルで入力し、独自に管理しているのが現状であり、一つのシステムで薬事情報を管理していく「RIMS」への対応が急務だ。ただ、日本企業でRIMSを導入しているのはわずか3分の1に過ぎず、RIMSの認知度についても4分の1が「知らない」と回答するなど、企業内の脆弱な薬事情報管理が課題となっている。

 

最新情報分からず‐当時の担当者を捜索

 

医薬品の承認申請から承認取得までに要する期間は、10年前の2~3年から1年まで短縮している。医薬品の承認審査期間が短くなったことで、医薬品開発のスピードが加速し、薬事情報を収集・管理する業務が増大した。臨床試験で規制当局とのやり取りを記録・管理していくことはもちろん、医薬品の承認取得後も、効能追加のための臨床試験や、製造所や製造方法の変更が頻繁に行われるため、製品ライフサイクルマネジメント全体を管理しなければならない。

 

ただ、製薬企業が行う薬事情報管理をめぐっては、複数のシステムで同一の情報を重複して管理していたり、同一の情報であっても更新時期に差が生じるような問題が発生している。管理方法は各社で様々だが、最も多いのが薬事担当者がエクセルで入力し、独自のやり方で管理しているというものだ。頻繁に行われる薬事情報の変更も、その都度、担当者がエクセルで入力していく、「属人的」「手作業」で実施されるため、誤入力や入力漏れがたびたび発生し、そのミスに誰も気付けないという事態に直面している。

 

当局からの指摘事項への対応で明るみになり、薬事担当者が慌てるのもよくある話だ。再審査申請の場合、規制当局から指摘があれば、10年前の製品に関する情報を辿ることがあるが、情報の所在が分からず、まず製薬企業内で行われるのが“当時の担当者捜し”だ。

 

データを確認してみると、「入力されるべき情報が入力されていない」「情報が古いまま更新されていない」「必要とする薬事情報がどこに管理されているかが分からない」といった問題もしばしば見られる。ファイルを開けてみると、担当者でなければ読み解けない情報がズラリと並んでいる。過去に薬事情報を変更した履歴を追跡することは難しく、仮に追跡できたとしても、なぜ情報を変更したかの理由が分からない。そして一番怖いのが、データ紛失のリスクだ。

 

製薬企業のグローバル化が進み、薬事情報管理のリスクは増大している。製造販売権を保有する個々の製品に関して、販売している国・地域や、それぞれの国で承認を取得している適応症や規格、剤形、用量を確認するためには、現地のスタッフに電話やメールで確認しなければ分からず、多くの時間を費やすことになる。

 

販売している品目数が多ければ多いほど管理が大変になり、その薬剤が販売している国・地域が増えれば増えるほど、現地の法規制への対応に迫られる。薬事情報管理は紙からシステム化へと進んでいるが、管理すべき薬事情報が出てくるたびに新しいシステムを導入していたり、複数国、複数地域でそれぞれ異なるシステムを維持しているなど、一元管理とはほど遠い姿も浮かび上がる。

 

eCTD、IDMP‐規制対応で導入も

 

エクセルによる管理から脱して、薬事情報の一元管理につながるRIMをシステムで管理していく「RIMS」に注目が集まっている。企業のRIMS導入メリットとしては、▽各国や各部門で管理されている情報の一元管理▽管理情報の重複解消▽国内外や部門横断的に最新の薬事情報を共有し、アクセスすることが可能――などが挙げられる。

 

RIMSの概念が生まれたのは2013年。それまで紙による申請文書で薬事申請を行ってきたのが、構造化されたXMLファイルとして電子文書で規制当局に申請する「eCTD」が要求事項になった。紙から電子化に移行する中で、自社が扱う医薬品に関する薬事情報をシステムで管理するという意識が出てきた。eCTDの新たなバージョン「v4.0」への対応は21年に受付が開始される運びで、新たに管理しなければならない要件が次々に出てきている。

 

さらに、医薬品情報を製品コードで標準規格化したIDMPが欧州で法制化に向けた議論へと進んできている。販売名ID、製剤のID、有効成分のID、剤形、投与経路、表現単位の用語や容量単位の用語と五つのID、用語、単位から構成されており、含まれる情報として化学構造や化学式、剤形・投与経路、製法、製造、材料、輸送ルート、流通・配送がある。

 

IDMPでは、全ての医薬品にコードを紐づけ、有害事象に対するシグナル検出が可能で、偽薬防止対策としても有用となっている。例えば、ある製造所で生産した原薬が原因で副作用を引き起こした場合に、それが含まれる製剤を販売している企業、原薬の出発物質を生産している製造所も特定でき、製造所が原因であれば、そこで生産している原薬を全て追跡できる。全てをコード化してデータを追跡できるのが規制当局側のメリットとなるが、こうした体制づくりにはまだまだ時間がかかる見通しで、いつ最終化されるかのメドは立っていない。ただ、いずれはこうした規制面での変化の波が、日本にも訪れるのは確実だ。

 

RIMSの認知度‐「初めて聞いた」が24%

 

製薬協の医薬品評価委員会電子化情報部会では、会員社を対象に日本でのRIMSの導入状況を調べた。外資企業13社中、「導入済み、または導入作業中」が11社と導入が進む一方、内資企業では43社のうち、「導入済みまたは導入作業中」が8社、「導入検討中」が6社となった。内資企業29社では「導入予定なし」と回答し、そのうち約9割の企業では導入検討にも至っていないという現状が示された。

 

グローバルで展開し、多品目を扱う製薬企業ほど導入意欲が強い。その一方、国内申請企業では、申請頻度や扱う薬事情報の情報量に照らし、「薬事情報を専用のシステムで管理する必要性が低い」との回答が複数社から見られた。整備された業務手順の下で薬事情報が管理されていれば、RIMSまで求めずとも日本当局への承認申請業務を遂行できるとの判断だ。

 

導入に慎重でも、情報収集には前向きなようだ。「RIMSをどの程度知っているか」という質問に対し、「初めて聞いた」が24%と4分の1を占め、「RIMに関する情報を入手したいか」の問いには、「はい」と回答したのが64%と、およそ3分の2が肯定的な意見だった。

 

電子化情報部会では、「まだ認知度が十分でないのが課題だが、情報を収集したいと思う企業が多いことが分かった。情報を一元管理していく必要性が現場レベルでは理解されていても、データの移行作業に時間やコストがかかる。全社的な導入が必要になるため、経営陣に理解してもらうことも大切」としている。

 

今後に向けては、企業規模の大小を問わず、規制対応のみならず、薬事情報を管理していく意識を高め、どうやって管理・運用していくかのプロセス構築を考えていかなければならない。日本の薬事申請は紙から電子化に向けた出発点に立ったばかりで、海外に比べると遅れている。

 

RIMSに特化したシステムを提供するITベンダーも存在している。ITベンダーが開発したシステムで企業が薬事情報を管理しているが、「企業側からベンダーに薬事情報を管理するためのシステムを提案し、ITベンダーがそれを開発していくという形が望ましいのではないか」という声も挙がる。日本の製薬業界が主導し、ITベンダーと協力しながら、RIMSの標準化を実現できるかが問われている。

 

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出典:薬事日報

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