薬剤師会

薬学教育にIPE導入を‐6年制抱える課題解決に効果

薬+読 編集部からのコメント

2007年から医学部、看護学部、薬学部の3医療系学部でIPEプログラムを実践している千葉大学。千葉大学病院の石井伊都子薬剤部長が「IPEを導入すればコミュニケーションの問題は自ずと解決する」と、薬事日報のインタビューで語りました。

基礎科目の重要性も訴え‐千葉大病院・石井薬剤部長

石井氏

 

千葉大学病院の石井伊都子薬剤部長は、本紙のインタビューに対し、専門職連携教育(IPE)の導入が6年制薬学教育の抱える課題解決に向けたカギになるとの考えを示した。千葉大では、2007年から医学部、看護学部、薬学部の3医療系学部でIPEプログラムを実践しており、「IPEは医療人としての基礎的なコンピテンシー」と位置づけている。石井氏は、IPEで実践的な臨床教育を行う一方で、基礎科目をこれまで以上に重視していく必要性を強調。「まず薬学部としては、サイエンスの力を身につけることが大切。IPEを導入すればコミュニケーションの問題は自ずと解決する」と述べ、薬学教育で基礎学力を強化することの重要性を訴えた。


 

2006年の薬学教育6年制の導入により、臨床薬剤師養成に向けた医療人教育の重要性が叫ばれるようになった。その翌年に千葉大IPEがスタート。同じ医療現場で異なる文化と言語を互いに理解し、コミュニケーション能力、倫理的感受性、問題解決能力の連携力を身につける教育プログラムの実践が始まった。

 

千葉大IPEでは、1年次に患者と触れ合う「ふれあい体験実習」(ステップ1)、2年次に実際の医療現場での連携のあり方を見学する「フィールド見学実習」(ステップ2)、3年次では医療現場で起こり得る対立と葛藤を解決する「対立と葛藤の解決」(ステップ3)、4年次では模擬患者の希望を汲み取り、最前線の医療専門職に相談しつつ、退院計画を立てる「退院計画立案」(ステップ4)などの課題が与えられ、その体験を通して医療人として必要な実践的能力を身につける。

 

石井氏は「医療の中では文化と言語の違いが大きな支障となる。それを学生の時から共有する体制を作ることが重要」とIPEの意義を語る。実際、IPEを「医療人としての基礎的なコンピテンシー」と位置づける。実際、病院が教育の受け皿になるため、実務実習の立ち位置が全く変わってくるという。「学生を受け入れることにより、教員も自分たちが受けていない教育を行わなければならない。それを吸収し、教えた学生が医療人として育っていくという良い連鎖ができてきたのではないか」と手応えを語る。

 

千葉大薬学部のシラバスでは、専門科目のチーム医療I~IVがIPEのステップ1~4に該当する。これらで臨床教育をカバーしているが、石井氏は「今後は薬学教育の中に、様々な形のIPEがあっていいのではないか」との考えを示す。

 

また、千葉大のように系統立てたプログラムを4年間の長期にわたって積み重ねる方式ではなく、短期間で少人数のIPEでも効果があるとの論文もある。石井氏は「まずどんな形でも集まって、IPEを実践してみることも刺激になると思う」と提言する。IPEを通じて、病院実習も参加型の内容に大きくシフトしてきており、「ただ学生に見学していなさいという実習を行う時代は終わった」との認識だ。

 

一方で、石井氏は、薬学教育における基礎科目の重要性を強調する。「6年制導入時にヒューマニズム教育が非常に重視されたが、今まで日本の薬剤師が力を持ってきたのは、基礎学力をしっかり叩き込んできたためだと思う。生物化学、物理化学、有機化学などの基礎科目を学習してきたからこそ、低分子化合物からバイオ医薬品へと急激な進歩を遂げた新薬にも対応できてきた」と話す。

 

その上で「まず薬学部としては、きちんとしたサイエンスの力を身につけることが重要。患者対応でも、科学に裏打ちされた対応が必要になる。処方提案を実践するにしても、基礎学力があってこその提案で、そもそも調べる能力や考える能力がなければ処方を設計できない」と話す。

 

折しも現在、薬剤師国家試験対策に偏重したカリキュラムが問題視されるなど、6年制薬学教育の様々な課題が指摘されている。こうした薬学教育が抱える課題解決に、IPEの導入が寄与すると考えられている。医療人としての基礎的な能力を身につけるIPEを実践して臨床教育を充実させると共に、基礎学力の強化が求められていると石井氏。そのためには、薬学部の教員がIPEを吸収し、学生に教えていくという壁を乗り越えられるかだと課題を指摘している。

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出典:薬事日報

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