新型コロナ、被験者に不安感~治験参加意向は依然高く
■リモートや薬配送など課題
新型コロナウイルスの流行拡大で医療機関での臨床試験の受け入れが難しくなる中、治療の一環として治験に参加する被験者の不安も大きくなっているようだ。患者調査を手がける3Hクリニカルトライアルによると、新型コロナウイルス流行下でも治験参加意向のある人は全体の7割を占め、現在治験に参加している患者の多数が治験継続を望んでいた。一方で、医療機関に来院することで感染する不安感を持つ患者も多く、来院しなくても参加できるリモート治験の仕組みづくりなど被験者の安全性を確保しながら、治験を実施していく体制が課題となる。
国内の臨床試験をめぐっては、緊急事態宣言の発令以降、新規治験の自粛や現在進行中の治験で新規登録の中断が相次いでいる。
製薬企業担当者の施設訪問を不可とする医療機関が増加傾向にあり、緊急事態宣言対象区域外で治験を実施することで対応していた企業も対象区域が全国に拡大し、試験継続がより難しくなっているのが現状。新型コロナウイルス治療薬の開発が進む一方で、他領域での開発が停滞する可能性を危惧する声も出ている。
患者側では、治験参加の同意取得後に参加を取りやめたり、治験薬投与後でも来院したくないとの理由で脱落する被験者が一部見られているものの、参加を要望する声が多い。15~19日に3Hクリニカルトライアルが患者1860人を対象とした意識調査では、新型コロナウイルス流行下にあっても約7割を占める1338人は参加意向を示していることが明らかになった。現在も臨床試験に参加中の被験者については、約85%が「継続して参加したい」と回答し、治験継続を求めた。
これらの患者が臨床試験への参加継続を要望する理由としては「治験薬に効果がある」が最も多く、「治験参加による負担軽減費があるから」との参加動機を上回った。
治療の一環として、治験に参加する患者にとっては、来院による感染リスクに対する不安感よりも、治験参加を重視していることがうかがえる。
一方で、「臨床試験を辞退したい」と回答した全ての患者が「病院での感染が怖い」を理由に参加を拒んでおり、被験者の安全性を確保した治験実施体制の必要性が浮き彫りになった。
治験参加に対する抵抗感は、疾患領域によって異なる。製薬企業によると、特に生活習慣病や健康成人を対象とするワクチンの試験では、医療機関の訪問に対する抵抗感が大きくなるとの懸念も出ている。
また、プロトコルとは異なる対応が求められる場合に限り、被験者の安全性確保を目的に医療機関から患者宅に治験薬を配送する取り組みが始まっている。
3月27日に医薬品医療機器総合機構(PMDA)から治験依頼者に対して発出された「医薬品や医療機器などの治験実施にかかるQ&A」では、来院できない被験者が医療機関から治験薬を受け取れない場合、医療機関からの治験薬配送を特例的に認めた。
被験者側からも、今回の調査結果で「来院しなくても治験薬を受け取れる仕組み」を要望する声が多く、既に医療機関から被験者宅に治験薬を配送するよう要請された製薬企業もあるようだ。治験薬配送を行える体制の整備が急ピッチで進められている。
さらに、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、従来の来院型治験から遠隔参加可能なリモート治験へと移行する可能性がある。被験者からは「来院しなくても、自分で症状を入力することによって医療機関が副作用を確認できるシステム」を要望する声が上がり、製薬企業からは「リモートでのデータ確認、在宅での治験実施などを推進するべき」との意見が相次いでいる。
ただ、リモート治験にはデータの信頼性や被験者の安全性確保の面で実現までに課題が多い。
一部の企業からは「製薬企業の間で情報・対応案を収集し、企業単位ではなく製薬業界として、被験者保護のための具体的な方策を議論し、方針を定める必要があるのではないか」との意見も挙がっている。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
緊急事態宣言の発令以降、国内の臨床試験をめぐり、新規治験の自粛や現在進行中の治験で新規登録の中断が相次いでいます。医療機関での臨床試験の受け入れが難しくなる中、治療の一環として治験に参加する被験者の不安も大きくなっているようです。患者調査を手がける3Hクリニカルトライアルによりますと、新型コロナウイルス流行下でも治験参加意向のある人は全体の7割を占め、現在治験に参加している患者さんの多数が治験継続を望んでいます。その一方で、医療機関に来院することで感染してしまう不安感を持つ患者さんも多く、来院しなくても参加できるリモート治験の仕組みづくりなど、被験者の安全性を確保しつつ、治験を実施していく体制作りが課題となっています。