コロナ研究で被災地復興へ~南相馬市にサテライト新設【福島県立医科大学】
福島県立医科大学は、新型コロナウイルス感染症等の抗体研究を進め、2~3年後をメドにコロナに対する抗体医薬品の実用化を目指す。東日本大震災の被災地である南相馬市に同大学医療・産業トランスレーショナルリサーチ(TR)センターの「浜通りサテライト」を新設。浜通り地域で活動する医薬品関連企業との産学連携を通じて日本発のコロナ治療薬を創出すると共に、被災地での産業活性化につなげる。TRセンターの高木基樹教授(写真)は、本紙のインタビューに応じ、「感染症関連や国際研究の教育拠点を作り、ワクチンの治験を浜通りでできるようになれば良い」と震災からの復興に意欲を示す。
2年後には抗体薬実用化
福島医大TRセンターは血液に含まれる体内侵入物に対する多くの抗体を1回の検査で調べる技術「蛋白質マイクロアレイ」を開発。蛋白質マイクロアレイ技術を血液中の新型コロナウイルスに対する抗体を取り出す技術として応用し、新型コロナウイルスに対する診断薬・医薬品の開発を目指している。
11月下旬に新設したTRセンターの浜通りサテライトに新型コロナウイルスの中和抗体や癌など抗体産生分野の研究班を移し、各種抗原や抗体の作製、ゲノム解析などに取り組む。高木氏は「コロナに対する抗体を治療薬として形にしたい。ただ、世界的な物資不足やGMP基準の厳しさなどから増産が難しく、最短でも1年半はかかる。2~3年後を目標にしたい」との見通しを示す。
中長期的な視点として、浜通りサテライトを拠点に新興・再興感染症に対する抗体の取得や癌抗原に対する抗体の研究も視野に入れる。市街地の複合施設内に入居するサテライトでは、バイオセーフティレベル(BSL)2相当の実験室を4部屋設け、現在は半数の実験室を使用している。
現在、空きとなっている半数の実験室は将来的に周辺企業との共同研究に活用したい考えだ。震災と原子力発電所事故の影響を受けた浜通り地域の産業活性化を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の一環として新設された経緯もあり、浜通りで活動する医薬品、医療関係企業の支援やコンサルティング、共同研究の実施を通じて医薬品関連産業の活性化を図る。
実際、mRNA医薬品の受託製造(CDMO)企業「アルカリス」が相馬市内に製造拠点の建設を進めており、2023年からの稼働を予定している。同社との協力について、高木氏は「具体的なものは何も決まっていない」としつつ、「蛋白質マイクロアレイに精通した人材が来れば、例えば2年半かかっていたものが1年半に短縮するエコシステムを構築できる。われわれの進出をきっかけに、他の企業やアカデミアも浜通りに進出しやすくできるようにしたい」と話す。
福島県は、震災からの復興事業として「福島医薬品関連産業支援拠点化事業」に取り組んでおり、生体由来加工試料とその解析情報を有償で提供して医薬品産業の活性化を狙いとしており、TRセンターは同事業の中核に位置づけられている。
同事業で得られた研究成果は、コロナの罹患経験者から取得したIgA抗体を利用したマスクやスプレーの製品化や衛生用品、牛乳の開発など畜産分野にも展開する方針だ。
高木氏は、震災から10年が経過した現在も復興は道半ばにあるとした上で、「どんな産業がこの地に集積すれば日本や世界の将来のためになるかを考えたい。感染症関連や国際研究の教育拠点を作り、ワクチンの治験を浜通りでできるようになれば良い」との展望を示した。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
福島県立医科大学が東日本大震災の被災地である南相馬市に同大学医療・産業トランスレーショナルリサーチ(TR)センターの「浜通りサテライト」を新設。浜通り地域で活動する医薬品関連企業との産学連携を通じて日本発のコロナ治療薬を創出すると共に、被災地での産業活性化につなげます。福島医大TRセンターは血液に含まれる体内侵入物に対する多くの抗体を1回の検査で調べる技術「蛋白質マイクロアレイ」を開発した実績があり、今後は新型コロナ感染症等の抗体研究を進め、2~3年後をメドにコロナに対する抗体医薬品の実用化を目指します。