“申請・承認ラグ”が頭打ち~日本の新薬開発に陰りか
厚労調査事業で判明‐中間年改定の影響懸念
新薬開発で米国、欧州の申請・承認時期から日本が遅れる“申請・承認ラグ”がこれまでの短縮傾向から直近数年間で頭打ちになっていることが、厚生労働行政推進調査事業「薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境及び流通環境の実態調査研究」(研究代表者:北里大学薬学部成川衛教授)の調査結果で明らかになった。外資系製薬企業が実施する国際共同治験への日本の参加率も2021年は割合が低下していたことが判明。新型コロナウイルス感染症の影響も一因と見られるが、18年度の薬価制度改革以降に行われた薬価改定が影響し、日本での開発優先順位を下げた企業が増えた可能性もある。
調査は、薬価制度の見直しが医薬品の開発環境に与えてきた影響を多面的に評価するため、臨床試験の実施状況や新薬の国際的な開発タイミング、国際共同試験への日本の参加状況などを調べたもの。
08年4月から今年3月末までに国内で承認された288品目を対象に、米国との申請ラグを調べたところ、08年度を承認年度とする品目では41カ月、19年度は9カ月と継続的な短縮傾向が示されていたが、20年度は19カ月と前年度から10カ月間の遅延が確認された。承認ラグについても08年度が58.5カ月、19年度は17カ月と改善していたが、20年度は28カ月に悪化した。
日欧間でも20年度の申請ラグ、承認ラグが長くなっていたほか、日米間・日欧間の申請ラグ、承認ラグが6カ月以内である品目の割合も増加傾向にあったが、この数年間は頭打ちになっている。
10年度から試行的に導入された新薬創出等加算は申請ラグと承認ラグの短縮を牽引した。18年度の薬価制度改革で新薬創出等加算の対象品目が絞り込まれ、その後に制度改革や薬価改定が相次いで行われた影響が申請・承認時期の遅れとなって現れてきた可能性もある。
さらに、国内で医療用医薬品売上高上位10位までの外資系企業が実施した国際共同治験で日本の参加率は08年以降、数・割合共に着実に増加したが、21年は減少に転じた。米国と欧州1カ国が参加した2277試験のうち日本が参加したのは36%、中国が参加した試験割合20%は上回った。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって臨床試験の実施状況に変化が生じた可能性があることから、「結果については慎重な解釈・検討が必要で、継続して評価を行っていく必要がある」としている。
懸念されているのが中間年薬価改定だ。製薬企業を対象とした近年の薬価制度改革の影響に関するアンケート調査で、開発中の品目について日本での開発を断念、保留したものが「ある」「近い将来にある可能性が高い」と回答した企業が、大手20社では3年前の前回調査から増加して9割に上り、要因として中間年薬価改定が挙げられた。
また、日本への投資優先度、開発中または販売品目の市場規模予測の確実性について多くの企業が「低下した」と回答し、要因についても「中間年の薬価改定」が前回調査から大幅に増加した。
研究代表者の成川氏は、「新薬創出等加算の試行的導入で日本の新薬研究開発の環境は好転してきたが、中間年改定などで事業の予見性が低下し、直近1~2年で環境の改善に陰りが見えるような兆候が示されていることは懸念材料。日本のポジショニング低下や新薬開発の遅延、承認申請・上市時期の遅れが顕在化する兆しを早期に掴み、対応策を講じていく必要がある」と訴える。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
厚生労働行政推進調査事業「薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境及び流通環境の実態調査研究」の調査結果によりますと、新薬開発で米国、欧州の申請・承認時期から日本が遅れる“申請・承認ラグ”がこれまでの短縮傾向から直近数年間で頭打ちになっていることが判明しました。新型コロナ感染症の影響も一因と見られていますが、2018年度の薬価制度改革以降に行われた薬価改定が影響し、日本での開発優先順位を下げた企業が増えた可能性もあります。