医療機器

VR、メタバース導入が加速~製薬各社、情報提供の新たな形に

薬+読 編集部からのコメント

医療施設への訪問が困難になったコロナ禍により、AI(人工知能)、VR(仮想現実)、さらにはメタバース(3次元仮想空間)を活用した医薬品情報提供活動、講演会開催が実用化の段階に入り、導入が加速しています。住友ファーマ、ツムラは情報提供活動にVRを導入。アステラス製薬はメタバースを活用した研究会・講演会のパイロットに着手しました。一方で、サービスを受ける側の医療機関も動き出しており、順天堂大学はメタバースを用いた「バーチャルホスピタル」の年内設立を発表しました。

AI(人工知能)、VR(仮想現実)、さらにはメタバース(3次元仮想空間)を活用した医薬品情報提供活動、講演会の開催が実用化の段階に入ってきた。医療施設への訪問が難しくなったコロナ禍により、導入が加速している。住友ファーマ、ツムラは情報提供活動にVRを導入。アステラス製薬はメタバースを活用した研究会・講演会のパイロットに着手した。一方で、サービスを受ける側の医療機関も動き出し、順天堂大学はメタバースを用いた「バーチャルホスピタル」の年内設立を発表した。オンライン、メタバースを用いる医療は、時間と距離に左右されないコミュニケーションの実現、医療の質を高める可能性があるとして業界内外の関心が高い。製薬企業も新たなステージでの活動が迫られる。

 

バーチャルMRを開発‐ツムラ

パソコンのモニターに現れた女性の姿をしたアバターは、一礼をして話し始めた。

 

「先生、いつも診療お疲れ様です。ツムラ漢方バーチャルMRの藤村杏(ふじむらあんず)です。今回も皆様に漢方を好きになってもらえるように分かりやすく一生懸命お話しします。今回はBPSD(認知症周辺症状)の精神神経症状における抑肝散の効果についてご紹介します」――。字幕付きで始まった説明は、製品概要、臨床研究結果、作用機序、副作用、使用上注意を要する患者像などスライドに沿って、約8分続く。

 

声の抑揚は機械的ではなく、人が話すよう。「よくかんさん」のイントネーションも違和感がない。まばたきもする。アバターが話していることを忘れるほどだ。「藤村杏」の名前、奈良県出身、34歳、MR歴10年のキャラクター設定までされている。名前、出身地は、ツムラの創業にちなんで付けられた。人間味と温かみを出そうと、2Dではなく、3Dアバターにし、音声の自然さにこだわって作り上げられた。

 

これはウェブ講演会運営・配信やAIのサービスを提供する木村情報技術と共同で開発した「ツムラ漢方バーチャルMR」である。通常、開発に半年程度かかるところを約3カ月で実装、3月30日に稼働した。医療従事者向け「ツムラメディカルサイト」に会員登録することで利用できる。

 

まずは「BPSDの精神神経症状における抑肝散の効果」について配信を始めた。今月には、さらに3つのコンテンツ配信を予定。説明資料は、日本製薬工業協会「医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領」に準拠した質が担保されたもので、MR活動に使用しているものを用いる。

 

バーチャルMRの開発は、コロナ禍で全国展開したオンラインによるMR活動・説明会に手応えがあり、もっと効率的に行えないか、十分に接触できていない医師ら医療従事者を含め、より多くの人に同社の漢方の価値を届けるにはどうすべきか、という思いから始まった。

 

ここで得られた反応、視聴データをリアルの活動とどう融合していくのかが課題となっている。コスト効果の検証、医療従事者の反応もこれからだ。

 

開発に携わったツムラ製品戦略本部学術制作部企画制作課の定金浩一氏は、「情報提供活動のデジタル化はさらに進む。バーチャルMRはその一歩。3Dアバター、AI音声は次のステップに行くためには必要だった」と話し、いずれ迫られる次の展開を見据えた開発だったことを明かす。

 

VRを使ったMR活動は、ツムラに先立つ1年前の4月、デジタル展開で先行する住友ファーマが始めている。医療従事者が仮想現実を映し出すスマートグラスを装着し、パーキンソン病、レビー小体認知症の症状や介助者の介助動作を体験できるもので、患者と医療従事者の共通認識の醸成を支援しようとMR活動に取り入れた。

 

そして今度は、ツムラによるMRを3Dアバター化した情報提供活動だ。技術応用のスピードは速い。

 

仮想空間で講演会‐アステラス製薬

アステラス製薬は1月21日、「メタバースを活用した先進的な情報提供手法の構築」を始めると表明。オンライン化は進んだが「双方向性・対面でのコミュニケーションのメリットを発揮しきれていない」として、同月からメタバース上の研究会・講演会のパイロットを始めた。将来的にはアバターを介し、会場とオンラインの両参加者のコミュニケーションを実現する構想を描く。

 

ウェブ講演会運営・配信を支援するブイキューブは1月12日、新薬発表など大規模講演会向けのメタバースイベントサービスを発表した。ライブ会場のような会場を仮想空間に制作、別会場のスタジオにいる演者があたかもその場にいるように話す。テレビのようなカメラワーク、ライティングを行い、飽きさせない工夫も。数社の導入が決まり、引き合いもあるという。

同社が4月21日に都内で行ったメタバースをテーマにした説明会は満席で、関心の高さをうかがわせた。同社の中村亜里沙氏は、「ウェブ講演会の新たな選択肢の一つとして検討していただきたい」と呼びかけた。

 

では、保守的と言われる医療機関側は、VRやメタバースによるサービスを受け入れるのか。その懸念を打ち破ったのが順天堂大学。4月13日、年内の「メタバースホスピタル」設立を発表した。

 

日本IBMと進める同構想は、バーチャルホスピタルを起点にメタバースを活用した患者・家族、医療従事者との交流、予約や問診に加え、治療、未来の自分との対話を通じた服薬アドヒアランスの向上、治験の被験者マッチングや治験説明・同意取得などのサービスを視野に入れる。具体化に向け製薬企業にも参加を呼びかけている。日本IBMは「3年で成果を出すことを目指す」と力を込める。

 

順大の新井一学長は、「対面診療、リモート診療、メタバースの三つがミックスすれば医療の質が上がるのではないか」と指摘。さらに、「IT活用により病院機能を高めていかなければわれわれ自身生き残れないという決意で行う」と実用化へ意気込みを見せた。

 

医療へのAI、VR、メタバースの応用は医療機関、医師ら医療従事者の動きを変え、サービスも変えそうだ。製薬企業もまた、新たなステージで活動をどう変え、どんな価値を提供するかが問われている。

 

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出典:薬事日報

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