「プル型報奨」へモデル事業か~抗菌薬開発の支援額検証
厚生労働省は、来年度から抗菌薬を販売する企業が薬剤耐性(AMR)対策に協力することで一定額の収入を国が支援する「プル型インセンティブ」のモデル事業をスタートさせる。製造販売業者からの公募により公衆衛生上脅威となる薬剤耐性菌の治療薬を選定し、日本におけるプル型インセンティブの実現可能性を具体的に検証し、新たな抗菌薬開発を促すのが狙いだ。今夏頃までをメドに事業開始を目指す。
厚労省健康局は、2023年度予算案でAMR対策の推進に昨年度の12億円から9億円増の21億円を充て、そのうち「抗菌薬確保支援事業」には新規で11億円を計上。抗菌薬の承認を取得した企業の採算性を確保するため、プル型インセンティブを試行的に導入する。
具体的には、公募により支援対象となる抗菌薬を選定し、専門家の意見・評価を踏まえ、抗菌薬の予測市場規模を設定。国から企業に抗菌薬の販売量を適正水準に維持するよう求め、その結果として生じた予測市場規模と実際の売上の差額は国が支援する。
スウェーデンを参考に
厚労省は、「主に医療制度の似通ったスウェーデンのモデル事業を参考に、日本独自の方法を検討したい」との方針。今夏頃までをメドに事業の開始を目指す考えだ。支援対象とする抗菌薬や菌種については「新たに検討会を立ち上げ、基礎系をはじめ研究開発や費用対効果などに詳しい有識者と議論する中で決めていきたい」としている。
AMRによる死亡者数は今後、世界中で増加すると見られており、何も対策を取らない場合、50年には1000万人の死亡が推定され、現在の癌による死亡者数を上回る試算だ。
新規抗菌薬開発には多額の費用を要する一方で、薬価の安さや耐性菌対策による他の薬剤に比べ適正使用が強く求められるため、販売上の制約などが事業上の課題となっている。
収益の予見性が低いため製薬企業の参入ハードルは高くなっており、国内の抗菌薬の承認数は1990~99年が27剤、2000~09年が16剤、10~19年が11剤と減少傾向にある。
国際社会でもAMRの増加と新規抗菌薬の開発数減は大きな課題と認識されており、その対応策として使用量に依らず、新規抗菌薬の上市に一定の対価が得られるプル型インセンティブの導入が議論されてきた。
21年に英国で開催されたG7財務・保健大臣会合では、各国にプル型インセンティブの実施を強く呼びかけ、現在スウェーデンと英国で試行プロジェクトが進行中、米国では検討段階にある。国内でも日本製薬工業協会やAMR対策に産官学民で連携して取り組むプラットフォーム「AMRアライアンス・ジャパン」が国に導入を提言している。
日本事業の目標として「日本におけるプル型インセンティブの実現可能性を具体的に検証すること」を掲げており、厚労省は「真に新規抗菌薬開発に必要な支援額を検証したい。耐性菌のことを考えると、単にたくさん製造すればいいというわけではなく、市場後の適正使用やその次の開発までを視野に入れなければならない」との考えを示す。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
厚労省は、医療制度の似通ったスウェーデンのモデル事業を参考に、「プル型インセンティブ」の導入を検討しています。抗菌薬の製造販売業者が薬剤耐性(AMR)対策に協力することで、一定額の収入を国が支援するという内容です。支援対象となる抗菌薬は公募によって選定される見込みで、日本独自の方法としてどのような方法が設定されるのか、動向が注目されます。