AIと対話し服薬指導訓練~VR空間で容態急変に対応
名城大学薬学部は今月上旬から、人工知能(AI)や仮想現実(VR)技術を活用した2種類の教材を4年生の演習で使い始めた。文部科学省の昨年度補助金で、患者を模したAIとの音声の対話で服薬指導を訓練できる教材や、VR空間内で患者の状態を評価し、最適な薬を選択する経験を積む教材を独自に開発した。自宅での服薬指導の反復練習や、容態が急変する患者への対応を経験できるなど、従来の教育では十分に手が届かなかったことを補えると期待している。
AIを活用した服薬指導の教材は、専用ウェブサイトに接続して使用する。薬学生は、オンラインでの服薬指導を想定した6症例のシナリオから一つを選択。その患者の薬歴や処方箋、経過や課題などに目を通して開始ボタンを押すと、患者のCG画像が現れる。
患者に向かって音声で問いかけると、音声で返答がある。音声対話を通じて必要な情報を聴き取ったり、服薬説明をしたりする仕組み。疑義照会の必要性の有無も判断する。
服薬指導を終えると、すぐに対話を自動的に解析し100点満点で採点した結果が表示される。患者の体調や思い、副作用症状を確認できたか、疑義照会の判断は的確だったかなど多数の項目をコンピュータが評価。「必要な確認や説明が十分にできていなかった」などのフィードバックコメントも示される。
教員はシステム構築に当たって想定問答データベースを作成した。AIは質問への回答をデータベースから選んで音声で出力する。質疑応答の精度は学習で向上するという。
医薬品情報学研究室の大津史子教授は「単なる説明ではなく、必要な情報を収集し、手元の情報を含めて総合的に評価する訓練を積めるようにした」と話す。
例えば、腎血管性高血圧でエナラプリルを服用する30代女性の症例。同剤の妊婦への投与は禁忌だが、対話の中で妊娠の有無を聴取できるかが焦点になる。
医薬品情報学研究室の大津史子教授は「単なる説明ではなく、必要な情報を収集し、手元の情報を含めて総合的に評価する訓練を積めるようにした」と話す。
例えば、腎血管性高血圧でエナラプリルを服用する30代女性の症例。同剤の妊婦への投与は禁忌だが、対話の中で妊娠の有無を聴取できるかが焦点になる。
1症例の音声対話は5~10分を想定。4年次前期に学内で学生一人ひとりに経験してもらうほか、4年次後期には学生が自宅などでも自由に使えるようにする考えだ。質問への回答は画一的ではなく、ランダムに枝分かれするように設計した。様々な変化があるため、学生は服薬指導を繰り返し練習できる。
臨床薬学教育・研究推進センター実践薬学IIの牛田誠准教授は「服薬指導の練習は、模擬患者など相手となる人が必要で、これまでその機会は限られていた。今回のシステムで学生が1人でも練習できるようになる」と強調する。
大津氏は「リアルの体験に勝るものはない。実際にできることをAIやVRで置き換えるのではなく、実際にはできないことや、回数を重ねられないことにAIやVRを活用しようと考えた」とコンセプトを語る。
一方、VRを使った教材は、高い臨場感で患者の状態を評価し、最適な薬物療法を提案する能力の重要性を理解してもらうことを目的に開発した。
学生はVRゴーグルを装着し、両手にコントローラを持ってVR空間内の処置室に入る。目の前のベッドにはアナフィラキシーや喘息の患者が横たわっており、苦しそうな息づかいも聞こえてくる。
症状が急速に進行する中、酸素飽和度や心拍数等のバイタルサインを評価し、最適な薬剤を考えて一覧表から選び、投与する。バイタルサインは薬剤の投与を反映して刻々と変化。それを評価した上で、必要に応じて薬剤を追加する。10分経つとフィードバック画面に移行。30分後の患者の結果が示され、薬物治療の成否が分かる。
VRゴーグルを30台用意した。4年次前期の演習で学生一人ひとりに経験してもらうほか、5年次の実務実習後の活用も検討している。同センター実践薬学Iの黒野俊介教授は「緊急時の対応を簡便に繰り返し学習できる方法はないかと考え、教材を開発した」と話す。
実務実習先で学生が緊急時の患者の対応を見ることは難しい。学内の人体シミュレータ3体でアナフィラキシーの患者への対応を学ぶ演習を行っているが、準備が大変で頻回の活用は難しい。4~5人のグループでの演習になるため、十分に経験できない学生も存在するなど、様々な課題があった。
目の前に患者がいるような臨場感のある今回の演習を通じて、学生に何が不足しているのかを自覚してもらい、学習意欲を高めたい考えだ。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
名城大学薬学部が7月上旬より、AI(人工知能)やVR(仮想現実)技術を活用した2種の教材を4年生の演習で使用開始しました。自宅における服薬指導の反復練習や、容態が急変する患者への対応を経験できるなど、従来の教育では十分に手が届かなかったことを補えると期待されています。