クロザピンで多剤併用減~統合失調症治療を適正化 岡山県精神科医療センター
岡山県精神科医療センター臨床研究部の薬剤師、北川航平氏らの研究グループは、同院に入院する統合失調症患者を対象に12年間の処方動向を解析した結果、抗精神病薬「クロザピン」の単剤処方率が37.3%に高まることで、抗精神病薬を3剤以上併用する症例は1%未満になったことを明らかにした。2剤以上の多剤併用も4人に1人に減少した。海外に比べて日本では同剤の使用が進んでいないが、北川氏は「これだけ薬物治療が変わるという結果を見てもらいたい」と話している。
東邦大学薬学部の松尾和廣教授らと共同で処方動向を解析した。同院で2010年から使用を始めたクロザピンの単剤処方率は経時的に伸び、20年には37.3%に高まった(表)。クロザピンを含む抗精神病薬の単剤処方率は、09年の24.4%から20年には74.6%に高まり、2剤以上の多剤併用の割合は09年の75.6%から20年には23.7%へと減少した(20年は抗精神病薬を服用しない患者が1.7%存在)
多剤併用のうち、2剤を併用する割合は09年の47.8%から20年の22.9%へと半減。3剤以上併用する割合は09年の27.8%から20年には0.8%へと大幅に低下した。
クロザピンは抗精神病薬の中で唯一、治療抵抗性の統合失調症に適応を持っている。同院でも同剤導入前は、治療がうまくいかない統合失調症には抗精神病薬の多剤併用で対応していたが、導入後は同剤の単剤投与でコントロールできる症例が増えた。その結果、「多剤併用で対処しなければならない症例が少なくなった」と北川氏は語る。
クロザピンは、海外に比べて日本での使用は進んでいない。23年12月時点の国内使用登録患者数は1万8210人で、統合失調症患者の2.3%に過ぎない。約3割は既存の抗精神病薬が効きにくい治療抵抗性であることを考慮すると処方率は極めて低い。
使用条件が厳しいことや副作用への懸念から使用が進まないとされる。生命に関わる副作用の無顆粒球症を早期に発見し対応するため、投与初期に原則26週間の入院が必要で、定期的な頻回採血や同症発現時に対応可能な医療機関との連携も求められるなど、医療従事者の負担は大きい。
同院は、岡山県の精神科医療の最後の砦とされ、症状が重い治療抵抗性の統合失調症患者を受け入れることが多い。治療にはクロザピンが欠かせないとの強い意思で院長や医師、スタッフが一丸となり同剤の使用を積極的に推進してきた。
同院の薬剤師は、クロザピンの副作用が出やすい時期や気をつけるべき点などをまとめた資料を作成し、スタッフと共有。勉強会を開くなどして周知している。薬物血中濃度の測定結果をもとに投与量を調整するなど、最適化にも深く関わる。こうした病院全体の適正使用の取り組みでクロザピンの処方率は経時的に高まった。
北川氏は「クロザピンをよく使う病院が結果を発信しなければならないと考えた。これだけ薬物治療が変わることを見てもらい、未導入の施設でも使ってもらえるようになれば」と語る。
松尾氏は「クロザピンの使用で治療抵抗性の統合失調症に対する選択肢が増え、多剤併用で副作用が出ている患者や、効かない患者がきちんとした生活を送れるようになる可能性がある」としている。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
岡山県精神科医療センターの研究グループが、統合失調症患者を対象に12年間の処方動向を解析した結果、抗精神病薬「クロザピン」の単剤処方率が37.3%に高まることで、抗精神病薬を3剤以上併用する症例は1%未満になったことを明らかにしました。