動物病院に薬剤師職能拡大~看護師の教育や業務管理も
地域薬局へ波及可能性
獣医療が専門化・多様化する中、動物病院で働く薬剤師という職能が新たに登場してきた。実際に従事しているのは少数だが、動物病院での医薬品管理や医師への処方提案で病院経営者や獣医師からの信頼を勝ち取り、さらには診療の補助を行う看護師の教育から業務マネジメントまで活躍の幅を広げている。大学薬学部教員の中にも将来的な獣医療における薬剤師需要を見込み、研究に着手する動きが出てきた。動物病院に薬剤師が定着すれば地域にも波及することが予想され、関係者からは「飼い主(人)とペット(動物)をサポートする機能を持った薬局も登場するのではないか」と期待する声が出ている。
全国の動物病院で勤務する薬剤師は10人程度だが、じわりと増えているという。獣医療ではヒト用医薬品が多く使われ、薬剤師にも好機が生まれている。
名古屋市守山区にある動物医療センターもりやま犬と猫の病院の薬剤師である大塚登志喜氏は、病院薬剤師を経験後、2022年2月から同院で勤務している。大塚氏が勤務する前は医薬品が計画的に発注されていなかったり、在庫管理についても医薬品棚で整理されず、十分に管理されていない状況だったという。
こうした環境は動物病院では珍しくなく、大塚氏は誰でも調剤できる調剤棚を整備したり、在庫管理業務も効率化した。薬の使い方やその選択についても薬剤師が得意とする薬理学を武器に獣医師と話し込むほどの関係を構築し、看護師に対する教育や業務マネジメントまで任せられている。
動物病院で獣医師と同様に多いのが看護師だ。昨年に愛玩動物看護師が国家資格化されたが、看護師がどんな業務をすべきか明確にしている施設は少ない。「獣医療でやるべき業務が確立されていないからこそ、薬剤師が活躍する伸びしろがある」と言い切る。
千葉・東京を中心に展開する苅谷動物病院グループ市川総合病院の薬剤師である園部俊輔氏も、入職した看護師に対する新人研修、看護師全体に向けた勉強会の講師を担当する。薬剤師が動物病院で頼られる存在であるからこそ、「動物病院の薬剤師という仕事をもっと社会に知ってもらいたい」と社会的認知が必要と訴える。
動物病院の薬剤師に関する研究論文は例がなく、大学薬学部教員の中でも研究に着手する動きも出始めている。獣医療における薬剤師ニーズなどについて研究を行う東北医科薬科大学薬学部臨床薬剤学教室助教の金野太亮氏は、「薬剤師が獣医療スタッフの一員としてチーム獣医療を行うことは、伴侶動物の薬物療法の質を向上できる可能性がある」と期待する。
また、昭和薬科大学臨床薬学教育研究センター実践薬学部門講師の神林弾氏も、研究をスタートする。今後開催される町田市薬剤師会との生涯学習講座では、動物病院で働く薬剤師をテーマに研修を行う。神林氏は「現場の薬剤師だけではなく、学生からも参加したいとの声が出ている」と話す。
動物病院で薬剤師が活躍できる領域は一定程度あるものの、獣医療で薬剤師が得意とする業務は認知されていない。薬剤師の人件費を支払ってでも採用したい動物病院は限定される。新たな活路としては、活躍の場を動物病院にとどまらずに薬局にも広げていく構想が考えられる。
動物病院の調剤薬局では「12薬局」が事業を展開しているが、神林氏と大塚氏は、動物病院に薬剤師が定着した後に目指すべき姿として、「人と動物を一緒にサポートできる地域の薬局が出てくること」と口を揃える。処方箋調剤に依存した薬局が多い中で、ヒトと動物のハイブリッド型薬局が実現すれば、「一つのモデルになる」と期待する。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
「動物病院で働く薬剤師」という職能が新たに登場してきています。動物病院で勤務する薬剤師は全国で10人程度と少ないものの、大学薬学部教員の中にも将来的な獣医療における薬剤師需要を見込み、研究に着手する動きが出てきています。