医療

箱出し調剤、実現には課題~利害関係者の合意必要 日本薬学会年会

薬+読 編集部からのコメント

日本薬学会年会の薬剤調製の効率化や高精度化をテーマにしたシンポジウムで、箱出し調剤の利点や課題について意見交換が行われました。各演者は実現に向け、利害関係者間で箱出し調剤の必要性について話し合い、合意する必要があると強調しました。

日本薬学会年会が3月26日から4日間、福岡市で開かれ、薬剤調製の効率化や高精度化をテーマにしたシンポジウムで関係者は、箱出し調剤の利点や課題について意見を交わした。箱出し調剤には患者に渡した医薬品を追跡できるトレーサビリティの向上や、調剤業務の効率化などの利点がある一方、製造設備の変更を強いられる製薬企業や、処方日数設定の自由度が損なわれる医師などからの反対も見込まれる。各演者は実現に向け、利害関係者間で箱出し調剤の必要性について話し合い、合意する必要があると強調した。

日本では個装箱を開封して取り出したPTPシートを渡す方法や、一包化による調剤が行われているのに対して、欧州各国のほか中国などでは、一定の期間分のPTPシート等が入った個装箱を開封せず患者に渡す箱出し調剤が実施されている。海外の状況を受けて日本でも現在、厚生労働科学研究で箱出し調剤の妥当性の検討が進んでいる。

 

薬局薬剤師の立場から原靖明氏(フィールド代表取締役)は、箱出し調剤について「取り揃えを簡素化できるほか、トレーサビリティが明確になり、箱のGS1コードで、どの患者にどの箱の薬を渡したのかを確実に追跡できる」と利点を語った。

 

一方、箱出し調剤では投与日数設定の柔軟性が損なわれてしまうため、原氏は「リフィル処方箋の中で、薬局側に投与日数もある程度委ねてもらえれば運用できるのではないか」と提案した。

 

このほか課題として、一包化調剤を行う場合には、従来に比べて個装箱を開封する手間が増えるため、対策としてバラ錠での供給が必要になる。製造設備の変更などで製薬企業の負担が増え、患者も従来とは異なる薬の管理方法に対応する必要があるなど、影響は多方面に及ぶことから、原氏は「薬剤師だけではなく、行政も含めて取り組まなくてはならない問題」と投げかけた。

 

製薬企業での勤務経験がある菊池正彦氏(熊本大学大学院生命科学研究部客員教授)は、欧州では1992年のEU指令によって全ての医薬品には製造ロット番号や使用期限をラベルに記載することが定められて箱出し調剤が進んだとし、「欧州各国でもバラ調剤から箱出し調剤への移行期があった」と言及。「日本もやろうと思えばできるのではないか」と話した。

 

医薬品の箱を開封することは担保された総合的な品質を下げることにつながるため、個装箱を開封せずに患者に渡す箱出し調剤は、品質確保の面で利点があるという。

 

一方、実現に向けては、製薬企業や処方日数設定の自由度が損なわれる医師などから様々な抵抗が想定されるとし、「ステークホルダーでビジョンをしっかり作り、共有することが重要」と語った。

 

日本薬科機器協会の立場から湯山正司氏(ユヤマ専務取締役)は、日本での調剤のあり方として「箱出し調剤も一つの選択肢と考える」と報告。ただ、「課題はある」とし、「医師や患者のニーズはあるのか。入院での調剤、施設や在宅での調剤には不向き。残薬の問題は必ず発生する。物流コストや在庫スペースの増加という課題もある」と述べ、これらの課題解決には「まだパワーが必要」と私見を語った。

 

各演者の講演後、調剤の効率化をめぐってフロアから「効率化することで薬剤師の雇用は減るのではないか」との声が上がった。

 

原氏は「効率化しないことを選択することはできない。今の仕事がなくなって暇になるのではなく、在宅医療への関与など新しい仕事を探せばいい。逆に業務を効率化しておかないと、そういう仕事が回ってこなくなり、薬剤師そのものが必要ないという可能性が出てくる。その方が怖い」と呼びかけた。

 

入江徹美氏(熊本大学大学院生命科学研究部特任教授)は「全国の薬局から話を聞く中で、効率化を図っている薬局では『それで薬剤師を減らすことはしない、やることは山ほどある』と言っていた。業務の質を高めようと思えば薬剤師は必要だと思う」と話した。

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出典:株式会社薬事日報社 

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