【横浜薬科大 藤田氏ら】AIで薬局QIを自動算出~10月にも運用試験スタート
厚生労働省の研究班は、薬局薬剤師の対人業務の質評価指標「クオリティ・インディケーター」(QI)を運用していくための前向き試験を10月頃からスタートする。試験期間は3カ月間で、薬歴システムベンダー5社の協力を得て開発したQIスコアの自動算出システムを用い、薬局薬剤師が遵守すべき指針やマニュアルに記載されている内容の遵守割合を評価する。運用試験では多くの薬局に参加してもらい、QIスコアがケアの質の改善に活用できるかを検証する。
昨年4月から開始した厚生労働科学研究費補助金「薬局薬剤師の対人業務の質評価指標の開発(研究代表者:田口真穂横浜薬科大学准教授)」の一環として実施する。同研究の2年目に当たる今年度は、薬局薬剤師の対人業務の質を評価するためのQIを開発し、運用試験に向けた準備を進めており、薬歴システムベンダー5社が参画する。
運用試験で用いるQIは、薬局薬剤師が適切なケアを実施したかどうかの遵守率に着目して評価するプロセス指標である。評価方法は、「特定の疾患または問題を抱えている患者数」に対する「提供されるべきケアが提供された患者数」の割合を算出する。
薬剤師個人、薬局内、薬局間、地域の各単位において、継続的にQIスコアをモニタリングし、必要に応じて改善策を講じるなど様々な活用が可能だ。薬局版QIの先進国として知られているオランダでは、地方厚生局が低いQIスコアを持つ薬局を個別指導の対象として選定したり、保険会社がQIスコアの上位50%の薬局に追加報酬を付与したりするなど、様々な目的で運用されている。
一方、国内では、薬局薬剤師の対人業務の質を評価するQIは運用されていないのが現状。研究班はQIの運用に向け、薬局薬剤師の対人業務の質とアウトカムの関係性評価に挑んでいる。薬局を利用する患者の病状改善やQOL向上した事例があったとしても、薬局薬剤師の功績かどうかを判断することはできない。
そのため研究班は、対人業務の質とアウトカムの関係性を評価することに向け、「疑義照会の内容および算定回数」に着目した。昨年、疑義照会の内容を整理・分類する分類表を開発しており、運用試験では分類表を用いながら、プロセス指標であるQIスコアとアウトカムに設定した「各種加算の算定回数」との関係性を検証する。
運用試験で用いるQIは全部で約200種類。高齢者の医薬品適正使用の指針や薬局における疾患別対応マニュアルをもとに薬剤師のケアの質に関わる内容をリストアップし、医師、薬剤師の評価を経て開発した。
また、欧州を中心とした臨床薬学研究団体のPCNE(ファーマシューティカル・ケア・ネットワーク・ヨーロッパ)が開発した18種類の薬局版QIも用いる。18種類のQIは、運用試験と同じタイミングで日本を含めた20カ国の薬局で一斉に検証することになっている。
AIを導入した薬歴システムが登場する中、運用試験に先立ち、研究班は大規模言語モデルを用いたQIスコア計算ロジックを開発している。ベンダー5社の薬歴システムを利用している薬局の協力を得て進めているこの取り組みは、QIスコアの自動算出システムのほか、疑義照会内容の自動分類システムの精度評価も行っている。
自動計算されたQIスコアは、薬局薬剤師自身が確認できるようフィードバック用のウェブアプリも同時並行で開発中である。
QI運用試験の責任者を務める横浜薬科大学研究員でシドニー大学在籍の藤田健二氏は、「薬局薬剤師にとって負担にならず、かつケアの質向上につながる実用的なシステムを構築することで、日本の薬局薬剤師の業務改革の転換点にしたい」と話している。
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出典:株式会社薬事日報社
薬+読 編集部からのコメント
厚生労働省の研究班が、薬局薬剤師の対人業務の質評価指標「クオリティ・インディケーター」(QI)を運用していくための前向き試験を、2025年10月頃からスタート。試験期間は3カ月間で、QIスコアの自動算出システムを用いて、薬局薬剤師が遵守すべき指針やマニュアルに記載されている内容の遵守割合を評価します。