フォーミュラリにAI活用~薬剤師と同等の情報抽出力 戸田中央メディカルケアグループ
関東で29病院を展開する戸田中央メディカルケアグループ(TMG)は、今月からフォーミュラリ作成や更新時に生成AIの活用を開始した。TMG所属の新座病院の薬剤師である金井紀仁氏らが行った研究で、AIが論文から必要な情報を的確に抽出する能力は薬剤師と同等であることを実証できたとして、フォーミュラリ作成時の基礎資料作りに用いる。AIの一種であるマイクロソフトのCopilot(コパイロット)に論文から▽試験デザイン▽主要評価項目▽安全性――など7項目の情報を抽出するよう指示したところ、薬剤師が抽出した情報との一致率は高かった。
TMGは、薬剤師中心のワーキングで20領域以上のフォーミュラリを作成し傘下の病院で運用している。同じ領域の薬剤の使用優先度を推奨するフォーミュラリの作成段階で、各薬剤を横並びで評価する基礎資料作りは欠かせない。薬剤師が各論文から必要な情報を抽出し基礎資料を作っているが、対象領域の拡大に伴い年1回更新時の作業負担増が課題になっており、AIの活用を見据えて能力を検証した。
TMGの過活動膀胱治療薬フォーミュラリ作成時に用いた一般論文36報からランダムに抽出した論文8報を対象に、コパイロットと薬剤師で8論文からそれぞれ必要な情報を的確に抽出する能力を比較した。
各論文から抽出する情報は、▽試験デザイン▽組み入れ基準(年齢、性別、疾患等)▽除外基準(併存疾患、薬剤等)▽試験薬と対照薬(薬剤、用法用量)▽実際に投与された患者(年齢、性別、併存疾患等)▽主要評価項目名や数値▽安全性(重大な副作用名・数値等)――の7項目。
コパイロットには論文を添付し、プロンプトで「添付の論文を1~9の手順通りに詳細にまとめてください」として「主要評価項目が記載されている文章をそのまま抜き出した文章と日本語訳を記載し、主要評価項目名と数値を試験薬と対照薬に分けて表にする」など具体的手順を指示した。
薬剤師はこれまで通りに論文を読み、必要な情報を抽出してまとめた。結果の一致度を評価できる指標「カッパ係数」を用いて2人の評価者がコパイロットと薬剤師の回答一致度を評価した結果、その値は0.89と高い一致度を示した。
論文8報の中で抽出対象となった全176項目のうち、薬剤師とコパイロットが共に正答したのは129項目で、薬剤師が正答し、コパイロットが「回答なし」として見逃したのは3項目。一方、コパイロットが正答し、薬剤師が「回答なし」として見逃したのは4項目だった。情報の重要性を踏まえて敢えて抽出しない等の理由で薬剤師とコパイロットが共に「回答なし」としたのは40項目で、両者の行動は一致していた。誤答はなかった。
今回の研究結果を受け、論文から必要な情報を的確に抽出するコパイロットの能力は薬剤師と同等であるとして、今月からワーキングはフォーミュラリ作成や更新への活用を開始した。
薬剤師が評価に用いる論文を選定した上で、必要な情報を抽出する作業をコパイロットで実施し、その結果を薬剤師がチェックして必要に応じ修正を加える。
金井氏は「薬剤師が行った場合、一つの論文で30分から1時間ほどかかるが、コパイロットの作業は5分で終わる。その後、薬剤師がチェックする時間を合わせても15分くらいで済むと思う」と強調。作業の効率化によってフォーミュラリの領域拡大や更新に取り組みやすくなると期待する。
一方、日本医薬品情報学会でも、金井氏を研究責任者とする課題研究班が今年度に発足した。今回の研究と同じ枠組みでChatGPT(チャットGPT)を対象に研究が進んでいる。
今年度中に研究を終了し、チャットGPTに指示を与えるプロンプトの内容や具体的な活用手順などをまとめて公開する計画。より多くの人が使用しやすいチャットGPTでも同様の結果が得られることを示し、臨床現場での活用を促したい考えだ。
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出典:株式会社薬事日報社
薬+読 編集部からのコメント
関東で29病院を展開する戸田中央メディカルケアグループ(TMG)は、AIが論文から必要な情報を的確に抽出する能力は薬剤師と同等であるという研究結果を受け、2025年8月からフォーミュラリ作成や更新時に生成AIの活用をスタートしました。