医療

AIで処方監査を効率化~添付文書から参考情報提示 姫野病院薬剤科

薬+読 編集部からのコメント

福岡県八女郡にある姫野病院薬剤科が、2025年夏から人工知能(AI)を活用した処方監査の試験運用を開始。薬剤師は添付文書等の根拠データからAIが抽出した情報を参考に監査業務を実施し、監査時間の大幅な短縮や精度の向上につながっています。

福岡県八女郡に位置する姫野病院(病床数140)薬剤科は、今夏から人工知能(AI)を活用した処方監査の試験運用を開始した。薬剤師は、添付文書等の根拠データからAIが抽出した情報を参考に監査業務を実施する。監査時間を大幅に短縮できる上、人が見落としがちな情報も提示されるため、監査の精度が高まる。年内に本格運用を開始したい考え。病棟業務を充実させて患者対応に注力する。

医師が電子カルテに入力した処方情報に対して、薬剤師はAIを活用して処方監査を行う。患者を選択して、画面メニューから「添付文書を元に推論」の項目をチェックすると、システムは電子カルテから処方や患者の情報を自動で取得し、プロンプトと呼ばれるAIへの指令文書を書き出す。

 

その後、薬剤師が送信ボタンをクリックすると、システムは監査の根拠となる添付文書等のデータと一緒にAIへプロンプトを送信する。

 

これらの情報をもとにAIは、薬剤師が監査をするために必要な情報を各種データから1分ほどで拾い上げて提示する。薬剤師は提示された情報を参考にして監査を行い、必要に応じて疑義照会などを実施する。

 

システムが電子カルテから自動取得するのは、処方情報のほか、年齢や性別、アレルギー情報、既往歴、現在治療中の病名リスト、症状リスト、検査結果リストなどの患者情報。根拠データとして、医薬品と対応病名、禁忌、相互作用、用法・用量の各データと腎機能別薬剤投与量の情報を使用する。

 

患者情報と根拠データは、アプリケーション同士を連携させるAPI経由でAIへ送信する。AIの解析材料を送信データのみに制限することで、AIが誤った回答を出力するハルシネーション(幻覚)の抑制を実現するほか、有料のAPI利用でAI側の学習利用を制限して患者情報の漏洩を防いでいる。

 

AI導入に当たって、同科は根拠データをそれぞれ購入してデータベースを作成した。電子カルテの処方・患者情報を自動で取得してプロンプトを作成し、根拠データと合わせてAIへ送信する仕組みを構築した。

 

電子カルテを内部開発しているため費用を抑えることができ、初期費用は数万円程度だった。API利用料は1件当たり約5~20円で済む。

 

同院は2次救急指定病院で、薬剤科は薬剤師5人とアシスタント5人体制となっている。外来処方箋は原則院外発行としている。

 

従来の監査は、電子カルテから検査値などを確認し、持参薬などと合わせて、処方内容が禁忌に該当しないかなどを添付文書で調べて一人ひとり手作業でチェックしていた。高齢患者も多く、複数の医療機関を受診していたり、服薬数が10種類以上に及ぶケースも見られ、1人当たり15~20分を要することもある。薬剤師は日々数時間の残業を強いられ、病棟での患者対応に十分な時間を割けないという課題があった。

 

同院は、看護計画をAIで作成するなどAI利用を推進しており、薬剤科も2年ほど前から処方監査でのAI利用を検討してきた。精度などを検証した結果、実用可能と判断し、7月から大規模言語モデルを用いて試験的に運用を始めた。

 

3カ月間で1人の薬剤師が50人ほどに試した。薬剤科の照崎真帆氏は「多少のエラーがあったり、添加物の微量成分まで警告するなど過剰な反応も見られるが、人が見落としがちな部分までチェックしてくれる」と効果を述べ、「AIの活用で監査業務の時間を大幅に短縮できる。入院患者との面談に時間を割けるようになり、処方の有効性や副作用の可能性を把握しやすくなった」と話す。

 

今後、順次システムを更新する計画としている。現在は患者が複数の医療機関を受診している場合、他の病院で処方された内容はお薬手帳などを参照して手入力している。他にも一部の情報を人の手で入力しており、自動入力できるようにする。年内には薬剤師全員での本格的な運用開始を目指している。

 

同院を経営する医療法人八女発心会の姫野信吉会長は、「病棟では看護師の業務の1割が薬剤絡みとなっている。AIを活用することで薬剤師の病棟業務の時間を確保し、看護師の薬剤がらみの業務に関してタスクシフトするなど、病院全体での効率化を実現していきたい」と展望を語る。

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出典:株式会社薬事日報社 

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