CROが被験者募集戦略‐ビッグデータ活用で成果
治験デザインのコンサルも
IQVIAサービシーズジャパンは、医薬品の流通データや患者分布データを分析することで、治験実施計画(プロトコル)に最適な実施医療機関を絞り込む「次世代型の臨床開発アプローチ」を通じて、早期の被験者組み入れを図り、臨床開発のスピードアップを後押しする。ビッグデータを基盤に、治験の入り口となる医療機関選定や被験者募集戦略を支援し、治験の推進とコストの抑制へとつなげる。海外では乳癌を対象とした国際共同治験で、医療機関決定までの期間を25%短縮したケースもあり、日本でも同等の成果を示したい考え。将来的にはビッグデータから最適なプロトコルを検討するコンサルティングサービスも視野に入れる。
治験をめぐっては、プロトコルが複雑化し、医療機関の選定が難しくなっている。臨床試験コスト全体の10%は、治験に参加した医療機関が契約した症例数を集積できず、試験途中で施設を再選定したことでかかる費用であり、コスト高や開発期間の長期化へとつながる要因となっている。同社では、ビッグデータから治験の対象疾患となる患者や専門医を地図上で施設ごとに分布させるインフラを構築し、精度の高い医療機関選定に取り組んでいる。
海外では成果を創出している。ある乳癌を対象とした国際共同治験では、次世代型の臨床開発アプローチにより、治験を行う医療機関の候補リストを作成。実際に治験実施医療機関が決まるまでの期間を従来の12カ月から9カ月に短縮した。別の精神疾患の試験では、従来の方法と比べ、患者登録率が60%増える結果を出したものもある。
日本では、ビッグデータを用いた医療機関選定手法と、従来の専門家が介入する手法を組み合わせた被験者募集戦略を提供していく。IQVIAのビッグデータを用いて、治験実施施設とそこで組み入れが可能な被験者候補者数を割り出した後、疾患の専門家が、候補施設の医師と被験者の候補者のみならず、治験の実施の可能性について調べた上で施設選定を行う。被験者候補者を集めるプロセスでは、MRなどが収集した情報を軸としていた従来の手法に比べ、スクリーニングの精度が上がったという。
同社臨床開発事業本部長の品川丈太郎氏は、次世代型の臨床開発アプローチが、患者数が多い疾患だけではなく、「希少疾患の治験でも利用できることが分かった」と手応えを語る。治験実施施設の周辺で条件に合った患者がいれば、近隣施設の医師から治験実施施設に紹介してもらうネットワークも活用している。
治験実施医師の確保も重要な課題だ。癌の免疫チェックポイント阻害剤のように、各社が同一の創薬標的因子を対象に化合物の開発をこぞって進める領域もあり、治験実施施設や医師、被験者のターゲットも重なるため、競争の激しさで、治験を早期に開始するのがより一層難しくなる。こうした場合にCROの担当者が、影響力のあるキーオピニオンリーダーの医師に対して化合物の魅力を理解してもらうための情報提供を行い、治験を加速させる方向だ。
次世代型の臨床開発アプローチや、患者の治験参加の促進を担当する荻野珠樹氏は、「競合薬剤と創薬標的蛋白質は同じでも、医師による試験の優先順位の決定に資するような、化合物の差別化となる情報を正確に提供することが大切」と述べ、競合内における“明確な差別化”が重要との認識を示した。
グローバル本社では、ビッグデータから治験デザインを検討していくコンサルティングサービスに参入する構想を打ち出しており、日本も追随していく。治験開始段階で質の高いプロトコルを作成できれば、試験途中で計画を変更することなく、治験をスムーズに行えることができ、コストの適正化を図られる。
多様なアプローチで希少疾患・難病、患者中心の医薬品開発にもチャレンジする。希少疾患・難病では、アジアで肝細胞癌を対象に、日本を含む9カ国2500人のレジストリを構築した。患者中心の医薬品開発に向けた取り組みでは、患者やその家族に対してウェブ上での治験説明から参加同意取得までが可能なITツール「eコンセント」の導入も具体化に向け既に検討や協議を重ねている。
品川氏は、今後CROが果たすべき役割として、「徹底的な効率化を進めると同時に、ITツールを用いた新しい臨床試験手法やデータの利活用により、付加価値を高める提案をしていかなければならない」と話している。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
患者分布データや医薬品の流通データなどのビッグデータを利用して、治験実施計画(プロトコル)に最適な実施医療機関を絞り込むサービスをIQVIAサービシーズジャパンが進めています。
治験時には、人数が足りないなどの理由で治験施設の再選定が必要となることなどにより、費用がかさむことがあります。データ解析により、より費用を抑え、効率的に治験を進めることによって所用時間の短縮も期待されます。