知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第109回 「牡丹皮・丹皮(ボタンピ・タンピ)」の効能 メンタル・フィジカル両方の熱を冷まして血流も改善!
美しい女性の姿や立ち居振る舞いを、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と例えることがあります。どの花も、それぞれ根っこが漢方薬として使われます。今回は、中医学的な「牡丹皮(ボタンピ)」の効能や使われ方を紹介しましょう。
1.牡丹皮(ボタンピ)とは
牡丹皮はとても応用範囲の広い中薬で、使い勝手が良く、個人的にはかなり好きな中薬です。八味地黄丸・六味地黄丸・桂枝茯苓丸・加味逍遥散などの有名な処方にも配合されています。
日本では「牡丹皮」が一般的な読み書きですが、中医学の文章中では、単に「丹皮」と記載されることも多いです。
牡丹皮は、ボタン科ボタンの根皮(=根の皮)の部分のことで、主に乾燥させたものを漢方薬として用います。生の状態でも用いることもありますが、日本ではなかなか入手できません。
日本で流通している牡丹皮は芯抜きされているため、ドーナツのように輪っか状で、特徴的なかわいい見た目をしています。
牡丹皮(ボタンピ)の四気五味(四性五味)とは
中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。牡丹皮(ボタンピ)は「微寒性」です。
■生薬や食べ物の「四気(四性)」
牡丹皮(ボタンピ)の四気五味(四性五味)は「微寒性、苦・辛味」なので、次のような作用があることがわかります。
● 苦味=「瀉(しゃ):捨て去る」のイメージ。熱を冷ますイメージ。
「瀉火(しゃか)」「瀉下(しゃげ)」などの下向きのイメージ。下から(熱を)排泄させるイメージ。
● 辛味=「通」「行」のイメージ。「通す」「行かせる」「巡らせる」。
「活血(かっけつ)」「発散」「行気」する作用のイメージ。
また、牡丹皮(ボタンピ)は「心・肝・腎のグループ」に作用し、これを中医学では「心経・肝経・腎経に作用する(帰経する)」と表現します。
清熱薬(せいねつやく)とは
熱を冷ます作用を持つ薬物は清熱薬(せいねつやく)と言って、「清熱瀉火薬」「清熱燥湿薬」「清熱涼血薬」「清熱解毒薬」「退虚熱薬」のだいたい5種類に分類されます。牡丹皮は「清熱涼血薬」の仲間です。
中医学では、ひとことに熱を冷ますと言っても、「なぜ熱が発生したのか」「どのような性質を持つ熱なのか」によって、冷まし方を選びます。必要に応じて多種多様な清熱薬から選びとり、さらに、清熱薬以外の薬物も組み合わせ、体質にフィットするように仕立てます。
牡丹皮が所属する「清熱涼血薬」は読んで字のごとく、「熱を冷まして(清めて)、血を冷やす(涼しくする)薬」です。そのなかでも、牡丹皮はちょっと深いところの熱、ざっくり言えば血にこもった熱(=血熱:けつねつ)を冷ましてくれます。
2.牡丹皮(ボタンピ)はどんな時に用いられるのか(使用例)
では、牡丹皮の代表的な使用例を見ていきましょう!
(2)陰血不足による虚熱に:清熱涼血
(3)瘀血による婦人科症状・打撲外傷に:活血散瘀
(4)虫垂炎や皮膚化膿症に:活血散瘀
(5)肝鬱化火(ストレス・メンタルの熱)のよる色々な症状に:清肝火
(1)血熱による各種出血に:清熱涼血
熱邪が人体の深い部分(血分(けつぶん)と言います)に入ってしまった場合には、皮下出血・吐血・鼻出血などの出血や、夜間発熱、舌質絳(こう:舌がやたらと真っ赤)などの症候があらわれます。出血性の感染症もここに含まれます。何年か前に世界を震撼させたエボラ出血熱などの感染症がイメージしやすいかもしれません。
血熱によって出血している状況に、過去には犀角地黄湯(さいかくじおうとう)という処方が用いられてきました。場合によっては命を救うほどの、頼れる処方でした。
処方名にある「犀角(さいかく)」はサイの角のことです。非常によく効く中薬ですが、乱獲によって絶滅危惧状態になってしまい、ワシントン条約で使用を禁じられています。現在では用いてはならない中薬のひとつです。
(2)陰血不足による虚熱に:清熱涼血
慢性病の陰虚による発熱や、感染症の後期に出る夜間の微熱などに用いられます。
代表方剤は、
● 知柏地黄丸(ちばくじおうがん)
● 清骨散(せいこつさん)
などです。
陰血不足による虚熱によって、月経前に発熱する場合にも、牡丹皮が用いられます。
知柏地黄丸は日本でも製品化されています。知柏地黄丸のベースは、牡丹皮が含まれる処方である六味地黄丸(地黄・山薬・山茱萸・牡丹皮・茯苓・沢瀉)です。
(3)瘀血による婦人科症状・打撲外傷に:活血散瘀(かっけつさんお)
瘀血(おけつ・血の滞り)による無月経・月経痛・腹腔内腫瘤(子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症・卵巣嚢腫など)に対して、ほかの生薬と組み合わせて用います。
代表方剤は、
● 折衝飲(せっしょういん)
● 芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)
● 芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
● 膈下逐瘀湯(かくかちくおとう)
などです。
桂枝茯苓丸は日本でもさまざまな剤型があります。ただし、ほとんどのメーカーで桂枝→桂皮、赤芍→白芍と、本来の処方構成(桂枝・茯苓・桃仁・牡丹皮・赤芍)とは異なる生薬を用いています。個人的には臨床において、桂皮は体質に合わないけれど桂枝は大丈夫、という人を結構見かけるため、気になる点ではあります。
赤芍は活血しますが、白芍はあまり期待できません。日本に存在する数ある活血剤(エキス顆粒剤)のなかでも、桂枝茯苓丸は比較的にマイルドな効き目のように個人的には感じます。瘀血の程度に応じて、適した活血剤を選択するとよいでしょう。
🔽 白芍について解説した記事はこちら
膈下逐瘀湯は日本にないものの、少し似た処方の「血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)」が丸剤等であります(牡丹皮は含有しませんが)。
箇条書きしたそのほかの処方は、日本ではエキス顆粒剤があります。
また、打撲による内出血や外傷による切り傷は、「脈外の血」であるため「瘀血」にあたります。打撲・外傷の腫脹・疼痛に対して、赤芍・乳香・没薬などと用います。
代表方剤は、
● 折衝飲(せっしょういん)
などです。
折衝飲は日本でも製品化されており、よく用いられます。
(4)虫垂炎や皮膚化膿症に:活血散瘀
瘀血と熱が合わさって固まった「瘀熱蘊結(おねつうんけつ)」による腸廱(ちょうよう:虫垂炎など)の腹痛・便秘に対して、大黄・桃仁・冬瓜子などと用います。
代表方剤は、
● 腸廱湯(ちょうようとう)
などです。
大雑把に言えば、便秘があれば大黄が入っている大黄牡丹皮湯を、便秘がなければ腸廱湯を用います。下腹部の色々なデキモノにも用いられます。どちらの処方も日本で製品化されています。
また、牡丹皮は、皮膚化膿症の腫脹・疼痛、アトピー性皮膚炎・乾癬・ニキビなどの色々な皮膚病のうち、血熱がある状況に非常によく用いられます。
(5)肝鬱化火(ストレス・メンタルの熱)のよる色々な症状に:清肝火(せいかんか)
「精神的ストレス(気張る・気負う・緊張・不満・理不尽・悩み…など)」があると、肝気の巡りが悪くなります。これを、肝気鬱結(かんきうっけつ)、略して肝鬱(かんうつ)と呼びます。
肝鬱に至る状況は、短期間で猛烈な精神的ストレスがあるケース、長期に渡ってストレスにさらされたケース、過ぎ去った過去のストレスがいまだに深く残っているケース…など、さまざまです。さらに、たとえやりたいこと・楽しみにしていることであったとしても、期限が近い・仕事量が多すぎる・荷が重い・気負い過ぎ…などの精神的ストレスはかかるものです。
「気」は身体を温める作用を持つため、肝気の巡りが悪くなることで詰まった「気」は、熱を持ち始めます。これを、肝気鬱結(肝鬱)により熱に変化したという意味で、「肝鬱化火(かんうつかか)」といいます。「肝熱(かんねつ)」とか「肝火(かんか)」と呼ぶこともあります。
肝熱とは、要するに「メンタルの熱」です。腹が立って「頭に血がのぼる」「カッとなる」状態や、マンガで描かれるような、目が吊り上がって、鼻息が荒くなって、顔が真っ赤になって、額に青筋があるような状態が、わかりやすい肝熱のイメージです。
肝火のエネルギーはとても強く暴力的で、暴発しやすいです。それゆえ、全身のいろいろなところで悪さをします。燃え上がる火のように、肝火も上へ上へ、人体の上のほうに症状があらわれやすい傾向にあります。
肝気鬱結の症候としては、抑うつ、怒りっぽい、胸悶(胸がスッキリしない)、ため息、脇胸部・乳房・少腹部の脹痛、呼吸が浅い(息を吐くのはできるけれど、思いっきり吸えない)、月経不調、咽喉部の梅核気(ばいかくき:ノドに梅の実の核が詰まっているような、飲みこめない何かが詰まっている感じ。閉塞感)、脈弦(弦をはじくような脈)…などがあげられます。
肝気鬱結+化火=肝鬱化火があると、肝気鬱結の症候に加えて、中医学でいう“熱っぽい感じ”が加わります。これはフィジカルの熱もメンタルの熱も含むニュアンスがあり、西洋医学でいう体温計でわかる“発熱”のみを意味しているわけではありません。
例えば、イライラがますます強い、怒りっぽい、頭痛、眼が脹ったように痛い、口が苦い、脇肋部灼痛、睡眠の質のさらなる低下、皮膚や粘膜に炎症が起きやすい、舌辺紅、脈弦数…なども“熱っぽい感じ”です。
いつもイライラして、ひとにあたる人は、肝火が燃え盛っているのかもしれません。職場に一人や二人はいるかもしれませんね。よく観察してみてください。あぁ、これが肝火かぁと分かるはずです。逆に、理不尽な思いをして言いたいことはあるけれど抑え込んでいる人は、その肝熱の矛先は自分自身に向かうように感じます。ストレスを溜め込むとほんとうによくありません。どうにもならないときは、漢方のちからを借りるのもひとつです。
長くなりましたが、牡丹皮はこういった肝熱を冷ます働きがあります。もちろん、単品では難しく、他の生薬と組み合わせて使うことで効果が発揮されます。
代表方剤は、
です。
逍遥散(しょうようさん)に牡丹皮と山梔子を足したもので、日本では、加味逍遥散(かみしょうようさん)の名前で知られています。
🔽 山梔子について解説した記事はこちら
結構多いケースとして、肝気鬱結のみで熱を帯びていない場合は、牡丹皮と山梔子で冷やす必要がないため逍遥散を用います。冷やす必要のないケースに対して加味逍遥散を用いてしまうと、冷えてしまって下痢などのトラブルが起きることもたまにありますので、注意が必要です。
このように、その原因が、実熱であろうと、陰血不足による虚熱であろうと、メンタルの熱であろうと、はたまた瘀熱であろうと、どの熱にも対応できるのが牡丹皮のよい点です。
🔽 実熱について解説した記事はこちら
🔽 虚熱について解説した記事はこちら
3.牡丹皮(ボタンピ)の効能を、中医学の書籍をもとに解説
ここでは中薬学の書籍で紹介されている牡丹皮の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。
牡丹皮(ボタンピ)
【分類】
清熱涼血薬
【処方用名】
牡丹皮・丹皮・粉丹皮・酒丹皮・炒丹皮・丹皮炭・ボタンピ。
【基原】
ボタン科Paeoniaceaeのボタン Paeonia moutan SIMS (=P. suffruticosa ANDR.) の根皮。
中国産は産地によって名称が異なり、気味がかなり異なる。日本産の芯抜き品が品質もよく安定している。
【性味】
苦・辛、微寒。
【帰経】
心・肝・腎。
【効能と応用】
1. 清熱凉血
・熱入営血の夜間発熱・皮下出血・吐血・鼻出血・舌質が絳などの症候に、犀角・生地黄・赤芍などと用いる。<方剤例>犀角地黄湯。
・慢性病の陰虚発熱や、熱病の後期で余熱が陰分に伏し夜に微熱が出るときに、青蒿・鼈甲・知母などと用いる。<方剤例>青蒿鼈甲湯・知柏地黄丸・清骨散。
・血虚による月経前の発熱にも,山梔子・青蒿・地骨皮・熟地黄・白芍などと使用する。
2. 活血散瘀
・瘀血による無月経・月経痛・腹腔内腫瘤などに、桃仁・赤芍・当帰・紅花などと用いる。<方剤例>桂枝茯苓丸・膈下逐瘀湯。
・打撲外傷による腫脹・疼痛に、赤芍・乳香・没薬などと使用する。<方剤例>牡丹皮散・牛膝散・折衝飲。
・痰熱蘊結による腸廱(虫垂炎など)の腹痛・便秘に、大黄・桃仁・冬瓜子などと使用する。<方剤例>大黄社丹皮湯・腸廱湯。
・火毒瘡廱(皮膚化農症)の腫脹・疼痛にも、金銀花・連翹・紅藤・蒲公英などと用いる。<方剤例>銀花解毒湯。
3. 清肝火
肝鬱化火による熱感・頭痛・目の充血・頬部の紅潮・口が乾く・月経不順などの症候に、山梔子・柴胡・白芍・当帰などと用いる。<方剤例>加味逍遥散・丹皮野菊湯。
〔臨床使用の要点〕
牡丹皮は苦辛・寒で清券の気を有し、苦楽で血熱を清し辛散で行務し、清芬の気で透達する。清熱血・止血して瘀器させず、散務活血して安行させないので、血熱帯に常用し、熱入営血の斑疹・血熱吐衄・血滞経閉・損傷務血・腫毒などに適する。また、清芬の気により陰分の伏火を清透するので、陰虚発熱・無汗骨蒸や肝酵火旺にも有効である。
【用量】
6〜12g、煎じて服用するか、丸剤や散剤に入れて用いる。
【使用上の注意】
血虚有寒、妊婦、月経過多には適さない。
※【分類】【処方用名】【基原】【効能と応用】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用/【性味】【帰経】【用量】【使用上の注意】は『中薬学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの
牡丹皮は、「実熱」「虚熱」どちらにも用いることができるうえに、メンタルの熱とフィジカルの熱の両方を冷ますのが得意です。しかも、なんと活血作用もあるため、熱があるから温めたくないけれど、血流は良くしたい! という苦しい状況に、非常に重宝します。
活血作用を持つ中薬は温めがちな中薬が多いなかで、牡丹皮は冷やしつつ活血し、しかも瘀血による腫瘤(デキモノ)がある場合も対応可、さらにはどのタイプの熱でも使えるという、非常に心強い存在なのです。
4.牡丹皮(ボタンピ)の注意点
『中薬学(上海科学技術出版社)』の牡丹皮の【使用上の注意】に、
“血虚有寒、妊婦、月経過多には適さない。”とあります。
「血虚有寒(けっきょゆうかん)」とは、「血虚(血の不足)」で、「寒(=冷え)」がある状態のことです。
牡丹皮は微寒性のため、冷たい性質・冷やす性質を持ちますので、血虚有寒の証に、単独で用いるのは向きません。ただし、血虚で冷えがあっても、他の温性の中薬と組み合わせれば問題ないこともあります。
また、血流を促進するため、妊娠中や月経過多には用いない点にも注意が必要です。
牡丹皮は日本では医薬品扱いとなります。ご興味のある方は、まずは中医学の専門家にご相談なさってみてください。
参考文献:
・小金井信宏(著) 『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・内山恵子(著) 『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年
・丁光迪 (著), 小金井 信宏 (翻訳) 『中薬の配合』 東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健 (編集) 『中医飲食営養学』 上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年