”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2024.01.16公開日:2022.07.12 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第82回 着色料、染料、漢方薬…何役もこなす「クチナシの実(山梔子、梔子)」の効能とは

クチナシは「三大香木」のうちのひとつで、甘くてエキゾチックで濃厚な花の香りは、一度かいだら忘れられません。「実」の部分はあまり目にする機会がありませんが、意外や意外、身近なところでさまざまなことに活用されています。今回は、漢方薬としてもいい仕事をしてくれる、「クチナシの実(山梔子、梔子)」について紹介します。

目次

1.着色料、染料、漢方薬として活用される「クチナシの実」

クチナシの実を見たことはありますか? 百聞は一見に如かず。クチナシの実はこちらです。白いお花の後に、濃いオレンジ色の実がなります。

クチナシの実は熟れても割れないのが特徴で、そのことから「クチナシ(口無し=口が開かない)」と名付けられたという説があります(諸説あり)。

日本においてクチナシの実は、栗きんとんの着色料として有名です。おせちの時期になると、スーパーでもクチナシの実が売られているのを見かけますし、漢方薬局にも「クチナシの実をください」という方が毎年訪れます。
 
クッキーや和菓子にも使われていますから、スーパーで黄色い飲食物を見かけたら、原材料の欄を見てみてください! 「クチナシ色素」と書かれていることがけっこうあります。
 
また、草木染の原料としても使われます。「クチナシ染め」といってクチナシの実を水で煮た赤茶色の煎じ汁に木綿などを浸けると、鮮やかな黄色に染まります。
 
中薬学でクチナシの実は、「山梔子(サンシシ)」と呼ばれ、中国・台湾の家庭や医療では、メンタルのトラブルにも、フィジカルのトラブルにも使われます。しかも内服にも外用にもなるのが山梔子のよいところです。

2.山梔子のはたらきは熱を冷ますこと

山梔子(サンシシ)は「清熱薬(せいねつやく)」に分類されています。
 
清熱薬はさらに、以下の5つに分類され、山梔子は「清熱瀉火薬」のうちのひとつです。

・清熱瀉火薬(せいねつしゃかやく)
・清熱燥湿薬(せいねつそうしつやく)
・清熱涼血薬(せいねつりょうけつやく)
・清熱解毒薬(せいねつげどくやく)
・退虚熱薬(たいきょねつやく)

また、多くの清熱薬が寒涼性であるように、山梔子も「寒性」であり、これは冷たい性質・冷やす性質・冷ます性質があるという意味です。生薬や食べ物には四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平」といいます。

■生薬や食べ物の「四気(四性)」 

山梔子の四気五味(四性五味)は「寒性、苦味」なので、次のような作用があることが分かります。

・寒性=冷たい性質。冷やす性質。冷ます性質。
・苦味=瀉(取り除く)、泄(せつ:体外に排出させる)、降(こう:降ろす)、燥(そう:乾燥させる)のイメージ。 

そして山梔子は、「心のグループ」「肺のグループ」「胃のグループ」に作用します。これを中医学では「心・肺・胃に帰経する」などと表現します。

3.山梔子はどんな時に用いられるのか(使用例)

山梔子は清熱薬として、とても優秀です。おおまかに(1)~(3)のような作用をもちます。

(1)瀉火除煩(しゃか・じょはん)作用
(2)清熱利湿(せいねつりしつ)作用・涼血解毒(りょうけつげどく)作用
(3)外用薬として

これらの作用はさまざまな疾患・状態に用いられますが、応用法をすべて説明するのは難しいため、ここでは、ほんの一部分だけ紹介したいと思います。具体的な例を見ていきましょう。

(1)「瀉火除煩作用」で心火を冷まし、心を落ち着かせる

山梔子は、「心火(心熱)」を冷ます(=瀉火・清熱)ことで、「心煩(しんはん)」の症状を除きます。
 
「心(しん)」に火が付くと、「心煩」の症状があらわれます。心(こころ)に火がついている状態をイメージしてみてください。火がついた原因が、虚でも実でも、また、精神的なことからくる熱か、はたまた外からやってきた熱かにも関係ありません。

「心煩」が比較的に軽いと、「気持ちが落ち着かない、じっくりできない、心のざわめき、胸騒ぎ、胸がざわざわする」という感じ、重くなると「集中力が無さ過ぎる、せっかち過ぎる、ソワソワし過ぎて待てない、1つの作業が完了できない」という感じになります。

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「心煩」がもっと重くなると「煩躁(はんそう)」という状態になります。「煩」は「心煩」を指し、「躁」という字がはいると、「肉体症状がでてくる」ことを意味します。「じたばたする・いつも動いている・いつも立ったり座ったりして静かに座っていられない」など、落ち着きの無さが動作となってあらわれます。
 
このような「心火」が原因の「心煩」「煩躁」に対して、山梔子を用います
 
例えば、熱病(外感により引き起こされる熱性病)で、心煩、胸のあたりが不快、煩躁、不眠などの症状があるときに、山梔子を含む処方を用いることがあります。山梔子は、心・肺・胃経の火邪を取り去って(消し去って)、除煩(じょはん=煩を除く)してくれます。

そのほか、「肝火」による目の充血、腫脹疼痛、口が苦い、口乾、胸が熱苦しいなどの症候にも、菊花(きくか)・黄芩(おうごん)・竜胆草(りゅうたんそう)などとともに用います

【ケーススタディ:在宅勤務中のストレス】
 
コロナ禍で在宅勤務になったことでストレスを抱える患者さんが来局されました。仕事上の悩み事や心配事などストレスが強くあって、気持ちがいつもざわざわして落ち着かない、焦燥感があって考えがまとまらない、イライラ、気分の落ち込み、不眠などの症状があり、脈弦(弦を弾くような脈)、舌の赤みが強い(特に、心の状態を表す舌の尖端部分、次いで、肝の状態を表す舌の両脇=部分が真っ赤)など、心火・肝火が燃え盛っている方でした。
 
山梔子入りの処方のエキス顆粒剤だけだと、その方の心火・肝火を冷ます量に足りなかったため、エキス顆粒に加えて、クチナシの実をお茶にして飲んでもらったところ、少しずつ心火・肝火がとれてきて、舌の赤みも減って、気持ちも落ち着き、不眠も解消しされたようでした。
 
このような、精神的なストレスで、心火(心熱)や肝火(肝熱)があって、心煩の症状があるときにも山梔子を含む処方を用いたりします

 
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(2) 「清熱利湿作用」「涼血解毒作用」

山梔子には、熱を冷ましつつ、湿気をさばく「清熱利湿(せいねつりしつ)」作用があります。これを利用して、湿熱の黄疸に用いたり、膀胱湿熱(尿路感染症など)による排尿痛・排尿困難・尿の混濁などに用いたりします。
 
また、山梔子には、血(ち)の熱を冷ます涼血(りょうけつ)作用があります。血分(けつぶん)といって、ちょっと深いところに入ってしまった熱(=血熱(けつねつ))を冷まします。例えば、血熱(けつねつ)が原因の各種出血(吐血・鼻血・血便・血尿・皮下出血など)に対して、大黄(だいおう)・黄連(おうれん)・黄柏(おうばく)・側柏葉(そくはくよう)などと一緒に用いて、涼血して止血します。

そのほか、山梔子には「解毒」作用もあります。熱毒(ねつどく)による皮膚化膿症に対して、黄連(おうれん)・黄芩(おうごん)・金銀花(きんぎんか)・連翹(れんぎょう)などと用いられます。
 
山梔子は心火(心熱)がある時に頼りになる存在です。日本の臨床現場では、皮膚・粘膜系の赤みや炎症のトラブルがある時や、精神的な症状がある時などに、山梔子がよく用いられるように思います。

(3)外用の消炎剤 昔ながらの湿布薬「糾励根(キュウレイコン)

打撲・捻挫による腫痛・疼痛や、火傷・熱傷などに、生の山梔子の粉末を水で練ってペースト状にして外用薬としても使用します。
 
日本では、山梔子を含む製品化されたものとして、「糾励根(キュウレイコン・キウレイコン)」という外用薬があります。昔ながらの粉末状の湿布薬で、山梔子・黄柏(おうばく)など10種類の生薬が配合されている濃い緑色の粉末です。これをホットケーキ生地くらいのゆるさになるまで水で溶いて、糾励根専用のシートや要らない手ぬぐいに塗って、肌に貼り付けて使います。

糾励根の添付文書の効能には、「鎮痛、消炎の目的を以て、下記に効果があります。神経痛、ロイマチス、肩凝り、腰痛、うちみ、くじき、肺炎、感冒、肋膜炎、腹膜炎、痔疾、歯痛、扁桃腺炎、乳腺炎」とあります。ロイチマスとはリウマチのことです。
 
私の育った家では、カゼをひいて咳が残ると、よく胸に貼り付けられました。兄弟全員、嫌でしょうがなかったのですが、確かにはやく治った記憶があります。あまりに古風な湿布薬のため、はじめての患者さんは半信半疑で使い始めますが、リピーターが多い隠れた名薬です。なんと、温シップとしても、冷シップとしても使えます。
 
糾励根は、使い方のコツがありますので、興味のある方は購入店によく教わると良いでしょう。

4.山梔子の効能は? 中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている「山梔子」の効能を見ていきましょう。
 
効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

山梔子(さんしし)

【分類】
清熱薬

【出典】
神農本草経

【処方用名】
山梔子、梔子、山梔、山枝、枝子、炒梔子、焦梔子、黒梔子、山梔皮、山梔仁、サンシシ、越桃

【基原】
アカネ科RubiaceaeのクチナシGardenia jasminoides ELLIS、またはその他同属植物の成熟果実。球形に近いものを山梔子、細長いものを水梔子として区別する。

【性味】
苦、寒

【帰経】
心・肺・胃・三焦

【効能】
瀉火除煩(しゃか・じょはん)・清熱利湿(せいねつ・りしつ)・涼血解毒(りょうけつ・げどく)

【応用】
1.
熱病の心煩(しんはん)、鬱悶(うつもん)、躁擾不寧(そうじょうふねい)に用いる。梔子は、よく心・肺・胃経の火邪(かじゃ)を消し、煩躁(はん・そう)を除く。淡豆鼓(たんとうし)とあわせて用いると、宣泄邪熱(せんせつ・じゃねつ)・解鬱除煩(かいうつ・じょはん)する。
処方例)梔子鼓湯(しししとう)

もし、火邪熾盛(かじゃ・しせい)で、高熱による煩躁(はんそう)、神昏(しんこん)、譫語(せんご)があれば、黄連(おうれん)、連翹(れんぎょう)、黄芩(おうごん)などの涼血解毒(りょうけつ・げどく)・瀉火除煩(しゃか・じょはん)の薬を配合する。
処方例)清瘟敗毒飲(せいうんはいどくいん)

2.
肝胆湿熱(かんたん・しつねつ)の鬱結による黄疸、発熱、小便短赤などの証に用いる。梔子は清利湿熱(せいり・しつねつ)・利胆退黄(りたん・たいおう)の効能がある。
茵蔯蒿(いんちんこう)、大黄(だいおう)を合わせると利湿(りしつ)・退黄(たいおう)作用が増強される。 
処方例)茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)
もし、 黄柏(おうばく)を配合したら清除湿熱(せいじょしつねつ)の作用が増強される。
処方例)梔子柏皮湯(ししはくひとう)

3.
血熱妄行(けつねつもうこう)の吐血、衄血(じくけつ)、尿血(にょうけつ)などに用いる。梔子は涼血止血(りょうけつ・しけつ)の作用がある。茅根(ぼうこん)、生地(しょうじ)、黄芩(おうごん)と共に用いる。

このほか、生梔子の粉末を水あるいは酢で糊状に練って湿布する。外傷性の腫痛に消腫止痛作用がある。

【用量】
3-10g。外用は適量。

【使用上の注意】
脾虚(ひきょ)で便溏(べんとう)のもの、少食のものは使用を禁じる。

 
※【処方用名】【基原】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より引用/【分類】【処方用名】【出典】【性味】【帰経】【効能】【応用】【用量】【使用上の注意】は『中医学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの

このように、山梔子は、「心火」を冷まし、湿熱・血熱・熱毒にも対応できる優れものです。また、内服薬・外用薬の両方に活用できます。

苦寒性のため、胃腸虚弱の方(特に、胃腸が弱く、冷えて、軟便・下痢傾向のもの、食べる量が少ないもの)は気をつけましょう!
 
数年前に、山梔子の副作用として「腸間膜静脈硬化症」が添付文書に追加されました。中医学の効能効果をもとに使用する際は、必ず、専門家にご相談のうえ、ご利用ください。

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参考文献:
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光貢迪(編著)、小金井信宏(訳)『中薬の配合』東洋学術出版社2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・創医会学術部(主編)『漢方用語大辞典』燎原 1995年
・高金亮(監修)、劉桂平・孟静岩(主編)『中医基本用語辞典』東洋学術出版社 2008年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割(渡辺賢治ほか)
[添付文書]糾励根

 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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