薬局の業務で起こるトラブルは、患者さんに健康被害が生じたり、場合によっては命にかかわる大きな問題になったりする可能性もあります。トラブルは起きないのが一番ですが、自分に落ち度がなくても、医師や他の薬剤師の過失によって発生した問題に巻き込まれてしまう可能性もあり、自分が注意していれば大丈夫だと言い切れるものでもありません。
業務で起こりうるトラブルについて、あらかじめ知っておくことは、リスクマネジメントの観点からも大きな意味があります。本格的なリスクマネジメントでは、リスクが発生する可能性やその場合の損失金額などを具体的に出し、それに基づいて対応方法を計画します。
それぞれの薬局でしっかりしたリスクマネジメントを実施できれば理想的ですが、そのような職場ばかりではないのが現実でしょう。とはいえ、日常の業務でトラブルが発生して自分がその当事者になる可能性は誰にでもあります。薬剤師が自分で自分の身を守るために、個人でできるリスクマネジメントとして法律についての知識を持つことは大きな意味があります。
また、この本のユニークな点は、調剤や医師とのコミュニケーションなど業務の中核となる問題以外のトラブルもカバーしていることです。「薬代を払ってくれない患者さんから未払い金を回収するには?」「患者さんがストーカー行為をしているが、通報しても良いものか?」といった、もし発生しても一体だれに相談すれば良いのか分からない出来事についても解説しています。さらに、人事に関する問題やスタッフの制服について、子供への事業継承の方法など薬局経営者に向けた情報まで盛り込まれ、この本を読んでおけば薬局で起こりうるトラブルは一通り把握できるようになっています。法律には複雑なことが多く、そこに書かれた文言を読んだだけでは理解できないこともたくさんあります。さらに薬剤師の業務には専門的なことが多いため、判断の難しいトラブルの発生する可能性が高いもの。この本の著者は、元薬剤師で薬局業務に熟知していながら、法律の専門家として活躍する現役弁護士というユニークな経歴の持ち主。そんな著者だからこそ書ける、薬剤師が本当に知りたい「薬剤師と法律」の情報が詰まった貴重な一冊です。