薬剤師の早わかり法律講座 薬剤師の早わかり法律講座

法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。

第6回 薬剤師の応需義務

1. はじめに

薬局で調剤業務を行っているとさまざまな患者さんがいらっしゃいます。ほとんどの患者さんは問題ないと思いますが、まれに困った患者さんに出会うこともあるのではないでしょうか。
薬局によってはその患者さんの調剤をお断りしたいと考えることもあるようで、「このような場合、調剤を断れますか?」と相談されることもあります。そこで今回は、“薬剤師の応需義務”について説明したいと思います。

2. 応需義務

調剤を断りたいと思う患者さんがいても簡単に断れないと考えるのは、薬剤師に「応需義務(薬剤師法第21条)」があることをご存じだからだと思います。

薬剤師法
(調剤の求めに応ずる義務)
第21条 調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあつた場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。

この規定にあるとおり、調剤の求めがあった場合、薬剤師は「正当な理由」がなければ、拒否することはできません。ただし、応需義務があるのは、「調剤に従事する薬剤師」のみ。すなわち、調剤のできる薬局や病院など(薬剤師法22条)に勤務し、現実に調剤業務に従事している薬剤師だけです。

3. 正当な理由

薬剤師が調剤を断るには、「正当な理由」が必要になります。この「正当な理由」とは、社会通念に基づき、個々のケースに即して判断されると解されており、類型ごとに一義的に決めることはできません。ただし、この応需義務は、薬剤師が「調剤」を原則独占し、それによって「国民の健康な生活」を守る義務があることから課されていると考えられます。
したがって、この「正当な理由」は厳格に判断され、安易な調剤拒否は認められません。たとえば、「薬局の開局時間外」という理由はどうでしょうか。その場合、現実的には調剤することが可能ですので、調剤を断ることは認められないと考えられています。一般的に認められるとされる典型例は、薬剤師が病気のときといわれていますが、病気の程度によっては「正当な理由」と認められないこともあると思われます。

4. ガイドライン

この「正当な理由」は、前記のとおり、個々のケースでの判断が必要なのですが、薬局業務運営ガイドライン(厚生省薬務局長通知 平成5年4月30日 薬発第408号)に例が挙げられているので、参考になります。

ガイドラインが掲げる例

  • ア 処方せんの内容に疑義があるが処方医師(又は医療機関)に連絡がつかず、疑義照会できない場合。但し、当該処方せんの患者がその薬局の近隣の患者の場合は処方せんを預かり、後刻処方医師に疑義照会して調剤すること。
  • イ 冠婚葬祭、急病等で薬剤師が不在の場合。
  • ウ 患者の症状等から早急に調剤薬を交付する必要があるが、医薬品の調達に時間を要する場合。但し、この場合は即時調剤可能な薬局を責任をもって紹介すること。
  • エ 災害、事故等により、物理的に調剤が不可能な場合。

もちろん、これだけに限られるわけではなく、状況に応じてその他の場合でも認められるケースもあります。

たとえば、一部負担金を支払わない患者さんの場合。原則、「一部負担金を支払えない」というだけでは、調剤は断れないと解されています。もっとも、理由も明らかにせず未払いを続けるなど悪質な未払いが続くような場合や、その他の事情とあいまって応需しなくともやむを得ないという状況であれば、「正当な理由」が認められることもあるでしょう。

5. 「正当な理由」の判断

いずれにしても、「正当な理由」は厳格に考えられています。認められる場合は、極めて限定されることを前提にした上で、社会常識に基づいていまの状況を総合判断して、調剤を拒むことが正当かどうかを考えることが重要です。また、そのような状況が認められ、やむを得ず断る場合であっても、患者さんにその理由を説明するとともに、その後適切な調剤が受けられるよう配慮することも必要でしょう。

6. 応需義務に反してしまった場合

応需義務に違反した場合の罰則は、薬剤師法には設けられてはいません。しかし、罰則がなくても、応需義務違反を続けた場合には、「薬剤師としての品位を損するような行為のあつたとき」(薬剤師法8条2項)に該当するとして、業務停止等の処分を受けるおそれがあります。

また、薬剤師の応需義務は、一般的には公法上の義務(国から課せられている義務)として解されています。薬剤師と同様に医師に課されている診療義務の裁判例では、この義務を怠ったために患者さんに健康被害が起こったケースで、損害賠償を認めたものがあります。したがって、薬剤師が応需義務に違反し、そのために患者さんに健康被害があった場合には、損害賠償責任を負う可能性が高いと考えられます。

7. 薬剤の交付ができない場合

応需義務が課せられる一方で、薬局開設者には、薬剤の適正使用が確保できないと認められる場合には、薬剤の交付をしてはならないという義務もあります。

医薬品医療機器等法
第9条の3第3項
(調剤された薬剤に関する情報提供及び指導等)
薬局開設者は、第一項に規定する場合において、同項の規定による情報の提供又は指導ができないとき、その他同項に規定する薬剤の適正な使用を確保することができないと認められるときは、当該薬剤を販売し、又は授与してはならない。

この「適正使用が確保できない」との判断は薬剤師が行いますが、前提として応需義務があるため、“薬を交付してはならない理由”が認められるのは簡単ではないと考えられます。

ただし、薬剤師ができうる限りの対処(疑義照会をする、患者に説明する等)を行ったにもかかわらず、患者さんにそのまま薬剤を渡してしまうと健康被害が想定できるような場面では、話が別です。そのようなときは、「正当な理由」が認められて調剤を拒否できるだけではなく、「薬剤の交付をしてはならない」というより重大な義務も伴います。

調剤に従事する薬剤師は、国民の健康な生活を確保するために、基本的に調剤に応じなければなりません。一方で、薬剤師は患者さんに接する最後の医療従事者として、安全性を判断する立場でもあります。薬剤師の適切な判断によって、初めて薬剤が交付できるということも、認識しておく必要があるでしょう。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

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