薬剤師の早わかり法律講座 公開日:2016.12.27 薬剤師の早わかり法律講座

法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。

第11回 患者さんがお金を払ってくれない! 薬局の未収金を回収するには

薬局では、持ち合わせがないなどの理由で患者さんに薬剤の一部負担金を支払ってもらえず、未収金となってしまうことがあります。次回の来局時に未収金を支払ってもらえればよいのですが、なにかと理由をつけて支払ってもらえなかったり、未収金が残っているのに患者さんが薬局に来なくなってしまったりする場合もあるようです。近年は高額な薬剤もあることから、未収金も薬局経営において重要な問題になり得ます。
そこで今回は、薬局での未収金の回収について検討してみましょう。

まずは「内容証明郵便」で請求

未収金がある場合には、まずは電話や手紙等で催促するのが通常です。それで支払ってもらえればいいのですが、催促をしても支払ってもらえない場合はどうしたらいいでしょうか。
このような患者さんへの対応として、内容証明郵便(配達証明をつけたもの)による請求が考えられます。内容証明郵便とは、「いつ、誰から誰に、どんな内容の文書を送ったのか」を証明したいときに通常利用する特殊な郵便です。薬局が未収金を請求したことを証拠として残すことができます。内容証明郵便による請求は、特に法的強制力があるわけではないのですが、請求の意志を明確に示すことで相手にプレッシャーを与えることになり、事実上の効果は見込めます。これによって任意に支払ってくれる例もありますので、法的手続きを取る前によく利用されている手段です。

それでもダメなら「法的手続き」

内容証明郵便を送っても支払ってもらえない場合には、法的手続きとして、「少額訴訟」「督促手続」が考えられます。もちろん、通常の裁判を起こすことも考えられますが、これらの手続きに比べると時間も労力もかかってしまいますので、あまりおすすめできません。

少額訴訟とは60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として一回の審理で紛争解決をはかる手続きです。
督促手続とは申立人の申立内容だけを審査して、相手方に金銭の支払を命ずるもので、非常に簡単な手続きです。ただし、債務者が異議の申し立てをすると通常訴訟に移行します。

これらの手続きを行い、患者さんに対して薬局側が未収金を請求する権利をもっていること、すなわち患者さんに金銭の支払義務があることが裁判所において確定すれば、「債務名義(判決等)」を得ることができます。これは、請求権の存在や範囲、債権者や債務者が誰なのかを証明する公的な文書です。相手がお金を払ってくれない場合は、この債務名義に基づいて強制執行の申し立てを行うことができます。


法的強制力だけでは未収金は回収できない

しかし、ここで注意しなければいけないのは、少額訴訟や督促手続などの法的手続きによって権利が確定されても、すぐに未収金が回収できるわけではないということです。実際に強制執行でお金を回収するためには、さらに裁判所での手続きが必要になります。つまり、法的手続きを利用しても、さらに強制執行という手続きをしなければ、裁判所は未収金を強制的に回収してくれるわけではないのです。

この強制執行をするには、時間も労力も要しますし、患者さんに支払能力がなければ結局回収することはできません。したがって、これらの法的手続きを使うとしても、強制執行による未収金の回収を最終目標にするのはあまり得策とはいえません。これらの手続を使った上で、患者さんになんとか任意で支払ってもらう方法を模索したほうが良いでしょう。

そのような観点からいえば、裁判所に出向かずに書類だけでやり取りする督促手続よりも、実際に裁判所で審理が開かれる少額訴訟の方が適切かもしれません。督促手続の場合は裁判所が一方的に支払督促を送るだけですが、少額訴訟の場合は、裁判所に呼び出され、そこで協議することによって、患者さんが任意に支払う可能性があるからです。ただし、少額訴訟では、分割払いや支払猶予といった和解による解決を裁判所に勧められたり、そのような判決がされたりする可能性もあります。

支払いをする意志がない相手から、お金を回収することは簡単ではありません。労力や時間的コストも念頭におきながら、「どうするのが一番現実的か」を考えて法的解決手段を上手に利用できるといいですね。

次回は、薬局の未収金回収で注意しなくてはならないことや、今回ご紹介した法的手続き以外の回収方法を考えてみたいと思います。


赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。

薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。

薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

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