”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2023.02.28公開日:2016.11.29 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第18回 陰陽学説~陰陽のバランスを崩すと病気に(6)陰陽両虚証

どちらも足りない場合は? ~陰も陽も弱っている人について~

陰陽のバランスの崩し方について、前回は「虚熱証」についてお話ししましたね。今回は、「陰も陽も赤線に達せず、不足しているパターン=陰陽両虚証(いんようりょうきょしょう)」について学んでいきましょう

「陰陽の両方が赤線に達していないパターン」は「陰陽両虚証」

⑥のイラストを見てみましょう。陰と陽のどちらもが共に赤線(健康ライン)に達しておらず、不足しています。

邪気が旺盛で、正気が不足していない状態=実証
正気が不足して、邪気はない状態=虚証

なので、⑥は虚証になりますね。

⑥は正常状態に比べて、陰が不足している状態(陰虚:いんきょ)であるとともに、陽が不足している状態(陽虚:ようきょ)といえます。

“陰虚証”かつ“陽虚証”の状態を、中医学では、
【陰虚証】+【陽虚証】=【陰陽両虚証(いんようりょうきょしょう)】といいます。

以前お話しした、中医学の治療における大原則、
「不足(虚)を補い、過剰(実)を瀉す(しゃす)」
を思い出しましょう。「多ければ取り除く、少なければ補う」でしたね。
今回の「陰陽両虚証」にあてはめれば、「足りない陰陽を補う」のが治療方針になります。

陰陽両虚証の例

陰陽両虚証は、陰陽のどちらかが弱い状態から、状況がひどくなって陰陽の両方が弱まった状態です。陰の弱りが陽にも及び、あるいは、陽の弱りが陰に及び、結果として陰陽が共に弱まってしまいます。このメカニズムは、「陰陽互根の性質」に由来するものです。
患者さんによく問診し、陰が弱ったのが先か、陽が弱ったのが先か、どちらのパターンで陰陽両虚証に至ったのかを分析します。それによりどちらがより根が深いのか、根本的な問題がみえてきます。

陰陽両虚証になりやすいケースとしては、全身が衰弱傾向にあり状況がひどくなったケース、症状や疾患が長期にわたったケースがあります。したがって、陰陽両虚症は高齢の方や慢性病の方に多い傾向にあります。陰陽両虚証では、陰虚と陽虚の症状の両方が現れます。

陰陽両虚証の治し方

陰陽がともに不足した状態ですので、治療法は、「陰陽をともに補う」方法となります。
また、同じ陰陽両虚証でも、「陰虚>陽虚」「陰虚<陽虚」「陰虚=陽虚」など、バランスの違いもありますので、ひとりひとりに応じた治療が必要です。

⑥のイラストでは、「陰虚=陽虚」(陰虚と陽虚の程度は同じくらい)ですので、どちらに偏ることもなく平補(へいほ:熱にも寒にも偏ることなく、平均的に補う)します。

そのほか、「陰虚>陽虚」(陰虚の程度が陽虚よりひどい)の場合は、陽を少し補いながら、陰をしっかり補う漢方薬を選びます。
陽を少しでも補う必要があるのは、単に不足した陽を補うだけでなく、陽によって新たな陰も生まれるからです。

このことについて、第11回でお話した陰陽の性質「陰陽互根」を振り返ってみましょう。

治療においても陽を補いたい際には“補陽薬(ほようやく:陽を補う生薬)”だけを配合するのではなく、同時に“補陰薬(ほいんやく:陰を補う生薬)”も配合します。これは「陰中求陽(いんちゅうきゅうよう)」といって、陽のみを補うよりも、同時に陰も補った方が陽が育ちやすくなるためです。第11回より抜粋

同じく、「陰を補う」とは単純に陰を補うだけではなく、陰の中から陽が生まれることを意味し、これを「陽中求陰(ようちゅうきゅういん)」といいます。それゆえ、陰陽が両方とも不足している場合はバランスよく同時に補うと、どちらも育ちやすくなります。

症状・病気の進行や改善具合・季節(自然界の陰陽の移り変わり)に応じて、陰陽のバランスは変化します。そのため、状況に応じて使う薬や量を調整していく必要があります。

最近では、若い人の間でも過労・夜更かし・睡眠不足などによって陰陽どちらも弱っている方が増えてきました。特に近年増えている不妊症の患者さんによくみられるように感じます。
身体が発する小さなサインに気づき、早めに手を打つことで「未病先防」し、陰陽両虚に至るのを防ぎたいものです。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/