宝塚市内の受診で多剤抑制~調剤レセプト解析で明らかに
兵庫県宝塚市内の病院を利用する患者は、市外の病院を利用する患者に比べて多剤併用(ポリファーマシー)になりにくいことが、ビッグデータの解析によって明らかになった。宝塚市立病院薬剤部(写真、前列が吉岡薬剤部長)、宝塚市、近畿大学薬学部の研究グループが、国民健康保険の宝塚市在住患者(74歳以下)の調剤レセプトデータを解析したところ、多剤併用が少ない傾向が示された。宝塚市では2015年から多職種が連携し地域全体でポリファーマシーの適正化に取り組んでいる。研究グループは「取り組みの成果が数値として表れたのではないか」としている。
地域全体の取り組み反映
研究グループは、国民健康保険の宝塚市在住の患者(74歳以下)約2万人を対象に、15~18年の4年間における各6月の調剤レセプト請求データを調査。内服薬が28日以上処方された患者を抽出し、6剤以上の多剤併用に関係する因子をロジスティック回帰分析で解析した。
多剤併用のリスク因子として、▽性別▽年齢▽複数の病院・診療所の受診▽複数薬局の利用▽受診先の病院や診療所の所在地(宝塚市内か市外か)▽利用薬局の所在地(宝塚市内か市外か)▽公費扱い――の七つを設定。それぞれの因子が6剤以上の多剤併用に与える影響について傾向を調べた。
その結果、いずれの年の解析においても、宝塚市内の病院や診療所を受診することは、市外で受診する場合に比べて6剤以上の多剤併用を抑制することが明らかになった。18年6月分の解析ではオッズ比は0.55。宝塚市の住民は、近隣の西宮市や伊丹市などの医療機関を受診する機会も多いが、宝塚市内での受診は市外の受診に比べて多剤併用になるリスクを半減させることが分かった。
一方、「複数の病院・診療所の受診」「公費扱い」の2因子は、多剤併用を大幅に促進するリスクになることが明らかになった。「男性」「65歳以上」も多剤併用の促進因子になっていた。
「複数薬局の利用」や「利用薬局の所在地」については、今回の解析では多剤併用との有意な相関は認められなかった。しかし、今回の調査とは別に実施した、季節性変動の影響を受けにくい11月分の調剤レセプトデータ解析では、宝塚市内の薬局の利用は多剤併用を抑制する方向に作用することが示された。
宝塚市では15年以降、地域の関係者が一丸となってポリファーマシーの適正化に取り組む風土が段階的に醸成されてきた。宝塚市立病院薬剤部長の吉岡睦展氏が旗振り役になって、地域の多職種が集まる研修会や、病院と薬局の薬剤師が集まる研修会を頻回に開催。参加者は、ポリファーマシーの適正化に必要な知識や具体的な症例への対応法を修得し、顔と顔が見える関係も生まれた。
市内の基幹病院が、入院中に減薬した経緯や理由を記載した退院時薬剤情報提供書を送って地域で引き継いでもらったり、情報のフィードバックを受けたりするなど、情報共有も盛んになっている。吉岡氏は「14年以前の調剤レセプトデータがないので比較はできないが、15年以降われわれが病院や地域全体で取り組んできたことが今回の結果となって表れたのではないか。退院時薬剤情報提供書など、様々な情報を地域の関係者が共有することの重要性も間接的に証明されたと思う」と語る。
患者が高齢になるほど、ポリファーマシーは増え、大きな問題になる。研究グループは今後、75歳以上の後期高齢者についても同様の解析を実施したい考えである。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
患者さんが高齢になるほどポリファーマーシー(多剤併用)が増え、より深刻な問題に陥りやすいと言われる中、兵庫県の宝塚市内の病院を利用した患者さんは、市外の患者さんと比較してポリファーマシーになりにくいことがビッグデータ解析によって判明しました。宝塚市では4年前(2015年)より、多職種が連携しつつ地域全体でポリファーマシーの適正化に取り組んできました。早くもその成果が現れているのでは?との見方がされています。