キルギスで薬剤師国試創設~日本型教育モデルを導入
6年後の立ち上げ目指す
国際協力機構(JICA)は、中央アジアのキルギスで薬剤師国家試験の創設に向けたプロジェクトを開始した。国主導で医療従事者の育成を目指すキルギス保健省の要請を受け、キルギス国内にある三つの大学薬学部で共通卒業試験が行える体制を支援する。これら3大学に日本型の薬学教育モデルを導入し、新たなカリキュラムで学んだ薬学生が卒業する6年後には、薬剤師国試を立ち上げる計画だ。薬剤師の継続研修でも支援を行い、薬剤師の職能が発揮できる環境づくりにも手を貸す。
今回のプロジェクトは、JICAの「2018年度第2回中小企業・SDGsビジネス支援事業案件化調査」に採択されたもの。キルギスで質の高い薬剤師継続教育・国家試験を開発することを目標に、今年度にはトライアルとなる試験や研修を実施する。薬剤師国試予備校最大手「医学アカデミー薬学ゼミナール」の関連会社である薬ゼミ情報教育センターが協力企業として参画する。プロジェクト期間は今年5月31日から来年6月30日までの1年間。
キルギスは、旧ソビエト連邦の共和制国家であり、1991年に旧ソ連が崩壊後、医療分野への予算が充てられなくなり、医療制度が衰退した。それに加えて医師の高齢化も進み、国内で流通する医薬品の97%が輸入品で占められるなど、医療の質低下が大きな課題となっていた。
キルギスの人口600万人のうち、薬剤師は約5500人。キルギス国内に三つある5年制の大学薬学部を卒業すれば薬剤師になれるシステムを敷いているが、大学での教育は法律学や経営学が中心で、疾患や薬剤に関する教育を受けていないのが現状だ。
また、キルギス国内には薬局が乱立し、周辺国で安く調達した医薬品を患者に販売しているが、その中には日本では医療用医薬品として位置づけられているハイリスク薬も含まれており、抗生剤の過剰提供などが常態化しているという。薬剤師は販売員としての位置づけにとどまり、医療人としての職能を果たすことができず、きちんとした医療を患者に届けられていない実態がある。
キルギス政府は、こうした現状に危機感を抱き、16年に処方箋制度を導入し、医師を含む全医療従事者に国家試験の受験を目指す方針を打ち出した。薬剤師国試の創設に向けては日本の薬学教育や国家試験に強い関心を持ち、日本型モデルを参考とすることを強く要望。同国保健省とやり取りを行っていた薬ゼミがJICAに応募し、採択された。
同プロジェクトでは、キルギス政府が薬剤師国試を創設する上で実施が計画されている3大学の共通卒業試験を支援。薬ゼミが保有する数万問に及ぶ試験問題のデータベースから必要なものを選んで提供し、共通卒業試験の作成を支援していく。
3大学に対しては、薬剤師として必要な知識を学べる薬学教育のカリキュラムも開発する。
この1年間のトライアルで共通卒業試験の土台を作り、新たに開発した教育カリキュラムで学んだ学生が卒業する6年後には、薬剤師国試として立ち上げる構想である。
さらに薬剤師の継続研修もサポートする。キルギスでは昨年、薬剤師を含む医療従事者に対し、5年間で最大250時間にわたる継続研修の受講を義務づけている。
今回のプロジェクトでは、150人の薬剤師を対象としたe-ラーニングでの研修と継続研修に関する試験のトライアルを実施し、現役薬剤師に対する育成も支援していく。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
1991年の旧ソ連崩壊以降、医療制度の衰退が目立ち、薬局が乱立するキルギス共和国が薬剤師国家試験の創設に向けたプロジェクトをスタート。国内三つの大学薬学部に日本型の薬学教育モデルを導入し、共通卒業試験をが行える体制を目指します。日本型の新カリキュラムで学んだ薬学生が卒業する6年後には薬剤師国試も計画されています。キルギスの人口は約600万人で、うち薬剤師の数は約5500人とされています。