ドラッグストア薬剤師がストレスを感じる瞬間とは?
薬剤師のみなさんは仕事中どんな時にストレスを感じますか? 今回は「ドラッグストアで働く薬剤師のストレス」を例に、前回に引き続きシニア産業カウンセラー・キャリアコンサルタントとして活躍し、薬剤師のお悩み相談を数多く担当してきたという坂口育実さんにストレスを軽減させる思考法と感情のセルフケア法についてお聞きしました。
1. 薬剤師がストレスを感じる瞬間
ドラッグストアでの業務は接客、レジ、商品管理、商品陳列、清掃業務など多岐にわたります。調剤併設型のドラッグストアで調剤業務のみを行う場合もあると思いますが、多くの場合、ドラッグストアの業務も合わせて行っているでしょう。次に紹介するのは、シニア産業カウンセラー・坂口育実さんが実際にドラッグストアに勤務する薬剤師から受けた相談の事例です。
►ドラッグストアに勤めるA美さんのお悩み【相談事例】
ドラッグストアで働く一般職のBさんに、しばしば商品の陳列や書類の整理などの仕事を頼まれるA美さん。断れずにしぶしぶ手伝ってはいるものの、「薬剤師の仕事ではないことを、なぜ自分がやらなくてはいけないのか…」と内心モヤモヤした気持ちでいっぱい。強いストレスを感じています。
「専門外の仕事だから」と、Bさんからの依頼をバッサリと断ることもできますが、つい手伝ってしまい、ストレスを感じているというA美さん。この時、A美さんの心理状態はどのようになっているのでしょうか。
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2. ストレスを感じる原因とは?
元々、業務内容は契約時に明記、あるいは確認されていることが基本です。
ただ、今回のケースのようにA美さんが専門外の仕事を頼まれてストレスを感じる原因は、A美さん自身が薬剤師とはこういう仕事をするものだ(それ以外のことはしなくていい)という思考があるためだと坂口さんは指摘します。まずは自分の思考のクセを知り、ストレスを感じにくくする心の状態にすることが大切なことです。
「認知行動療法」による思考のクセと呼ばれる「自動思考」は、日常の様々な場面に応じて、自分の意識とは関係なくとっさに湧き出る考えやイメージのことで、自分の物事の受け止め方のクセのようなものです。「認知行動療法」とは、自分の「自動思考」を理解して、「それ以外の考え方はできないか」と自分の思考のクセではなく現実的・合理的・適応的・客観的に捉える思考に修正することで、思考のパターンを広げ、ストレスに対応できる心の状態をつくる心理療法のことです。
例えば、上司にあいさつをして返事を返してくれなかったとき、「無視された」と思う人と、「気づかなかっただけなのかな」と思う人とでは、ストレスの感じ方が大きく変わってきます。
「無視された」と悲観的に物事を考えるクセのある人は、「気づかなかっただけなのかな」という思考パターンもあることを知っておくことで、ストレスを軽減させることができます。
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3. ストレスへの対処法は?
前述したA美さんのケースを例に、「自動思考」と「認知対応療法」を確認してみましょう。
1 品出しの仕事を頼まれ、とっさに「やりたくない」「なんで私が……」と拒否する思考が芽生え、憂鬱になる(自動思考)。
2 薬剤師の仕事は調剤に関することのみで、それ以外の業務はやる必要がないと思っている(自動思考)。
3 確かに品出しの仕事は薬剤師の仕事ではない、ただし今の職場を選んだのは自分。自分は、薬剤師であるとともに、このドラッグストアに勤務している社員でもある(現実的・合理的・適応的・客観的思考)。
4 ドラッグストアに勤務する社員という立場で考えると、状況によっては薬剤師の仕事以外の業務もやる必要があるのではないか(現実的・合理的・適応的・客観的思考)。
5 薬剤師以外の仕事で自分が協力した方がいい仕事にはどんなことがあるのだろう(現実的・合理的・適応的・客観的思考)。
A美さんの思考のクセは、1・2(自動思考)の段階で止まっているために、薬剤師の仕事以外をする際にストレスがたまってしまいます。ですが、ここから3~5(認知行動療法)の段階へと発展させていくとどうでしょうか。最後にはどこまで協力できるかという考え方に変化しています。このように、認知行動療法によって自分が許容できる幅が広がると、自ずとストレスが軽減され、職場での人間関係も円滑にまわっていくでしょう。
自分のなかでできることとできないことの線引きを明確にした上で、それでも協力できないと思うことを頼まれた場合は、「それはできません」と正直に伝え、なぜできないのか、話し合いの場を持ってみましょう。その際には、前回ご紹介したアサーションをぜひ参考にしてください。まずはお互いが気持ちよく働ける道を探り、その結果どうにもならなければ、転職など、次のステップを考えてみてはいかがでしょうか。
4. ストレスのセルフケアをしよう
日々さまざまなストレスにさらされるこの時代、自分自身の感情のセルフケアも大切だと坂口さんはいいます。
「ヨガやストレッチ、ゆっくりと入浴をするなど、すぐにできるリラクゼーション方法を複数用意しておくといいでしょう。日々の出来事やストレスを紙に書き出すことは、気持ちの整理をつけたいときにはおすすめです。ストレスを感じやすい方はまじめな性格の方が多いので、自分に厳しくすることに慣れています。ただ自分で自分を大切にすることができない人は、人にも優しくすることはできません。自分が自分を一番大切にし、しっかりと自分を認めてあげることが大事なことではないでしょうか」(坂口さん)
また、悩みがあるときは悪い思考ばかりが浮かび、負のスパイラルに陥りがちです。そんな時は、悩む時間を区切るようにするといいでしょう。
「仕事から帰宅して悩みごとが頭から離れない時は、30分間などと時間を決め、考えがまとまらなくてもそこで一度頭をリセットするようにします。1日の最後にはいい気持ちになって休んでいただきたいので、就寝前にリラクゼーションを行い、どんなに小さいことでもいいので、今日のよかったことや楽しかったことを考えてみましょう。『電車に遅れずにのれた』『事故もなく1日過ごせた』『おいしいコーヒーが飲めた』など、どんな些細なことでもかまいません。日々の些細なできごとに感謝できる思考パターンを身につけておくと、仕事でストレスを感じることがあったとしても、落ち込み過ぎずに日々を過ごすことができるようになりますよ」(坂口さん)
感情のコントロール方法を身につけたり、日々セルフケアを行ったりすることでストレスに負けないしなやかな心をつくることができます。「自分ばかり仕事を押しつけられる」「上司が自分の意見を聞いてくれない」など職場の人間関係で不満がたまっている薬剤師のみなさんも、一度思考のクセを見直してみることで気持ちよく仕事に取り組めるかもしれません。
監修/坂口育実 取材・文/上野真依
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