インタビュー 公開日:2020.10.28 インタビュー

オンライン資格確認が2021年3月開始! 厚労省担当者に聞いたメリットと意義

マイナンバーカード対応が始まる前に知っておきたいしくみと注意点

マイナンバーカードを使ったオンライン資格確認が2021年3月からスタートします。保険資格の確認を皮切りに、薬剤情報の閲覧や電子処方せんへの対応までも視野に入れた、次世代データヘルス基盤の第一歩となるオンライン資格確認。厚生労働省保険局医療介護連携政策課保険データ企画室の大竹雄二室長、同・太江俊輔保険データ企画係長に今、薬局が取り組む意義やメリットを聞きました。

入力作業の負担軽減や返戻防止にメリット

 

まず3月からスタートするのは、保険資格のオンライン資格確認です。オンライン資格確認を導入すると、保険資格をその場ですぐに確認できるため、保険証の入力作業が不要になります。また、資格過誤による返戻や、再申請できないことによる未収金の減少効果も期待されています。

 

「従来は、紙の保険証を見ながら受付で手入力をする必要があり、大きな事務負担が発生していました。オンライン資格確認を導入すれば、受付での入力作業が不要になる上に、資格過誤による返戻はなくなるのが大きなメリットです」(大竹室長)

 

「受付での業務負担を大きく減らす効果が期待される」と強調する大竹雄二室長。

 

日本薬剤師会によれば医科・歯科・調剤で年間約20億件のレセプトのうち、約500万件の返戻が発生しています(2014年度)。これがなくなることは薬局の経営に大きなインパクトがあるといえそうです。

災害時にも患者情報を閲覧

 

このほかにも2021年10月からは、レセプトにもとづいて過去3年間分の薬剤情報の閲覧が可能になります(医科では特定健診情報の閲覧も可能)。薬剤情報をリアルタイムに共有することは、重複投与の防止など薬物療法の安全性に大きく貢献します。

 

この薬剤情報の閲覧が力を発揮するのは災害時です。災害時は、保険証やお薬手帳など自分の受診歴、服薬歴を示すものを何も持たずに避難する状況が想定されます。この時、オンライン資格確認を導入している薬局であれば、患者がマイナンバーカードを持っていなくても、特例的に資格端末で患者情報を閲覧できるのです。

 

またオンライン資格確認のシステムは、2022年度から運用が始まる見込みの電子処方せんの基盤となることが想定されています。まさに今後、患者情報を共有するためのデータヘルス基盤の構築にむけた第一歩といえそうです。

精度の高い顔認証システム

 

実際の運用は、まず患者が来局したら、患者自身がマイナンバーカードをカードリーダーに設置。その後、「4桁の暗証番号」もしくは「顔認証」のいずれかの方法で本人確認を行います。さらに「薬剤情報を薬剤師などが閲覧することに対する同意取得」の画面で、同意取得が行われます。

 

顔認証の精度は非常に高く、「暗証番号忘れなどによる混乱は起こりにくい」と大竹氏は説明します。またマイナンバーカードは患者自身がカードリーダーに置くため、受付で預かる必要はなく、セキュリティ面での不安はないということです。

 

■カードリーダーを用いた受付・資格確認の流れ

厚生労働省「オンライン資格確認導入の手引き」より

 

「患者さんは暗証番号と顔認証のいずれかを選べるため、定額給付金の申請時にみられたような、暗証番号を忘れたことによる混乱は起こりません。またセキュリティに対して不安を感じる声も耳にしますが、基本的にマイナンバーカードは患者さんご自身がカードリーダーに置いて操作するため、受付で預かる必要はないのです」(大竹室長)

すべての薬局にカードリーダーを無償提供

 

今回、オンライン資格確認を導入するにあたって、顔認証付きカードリーダーは、申請すればすべての薬局に1台無償提供されます。またシステムの改修費用も補助が出るなど、費用面では手厚いサポートが用意されています。

 

カードリーダーは3タイプの機種から選べる。

 

補助金の金額は薬局の規模に応じて2パターンです。

 

大型チェーン薬局(グループで処方せんの受付回数が月4万回以上の薬局)は21.4万円が上限、大型チェーン薬局以外の薬局は32.1万円を上限に、システムの改修費用などが負担されます。

 

補助金の対象となるのは、次のようなものです。

 

①マイナンバーカードの読取・資格確認等のソフトウェア・機器の導入

②ネットワーク環境の整備

③レセプトコンピュータ、電子カルテシステム等の既存システムの改修等

薬局の費用負担は約10万円

 

厚労省の試算によれば、薬局がシステムを改修するための費用は約40万円。そのため大型チェーン薬局以外では、10万円程度の負担でオンライン資格確認のシステムを導入できる見込みです。

 

薬剤師でもある太江俊輔保険データ企画係長。システムの浸透には「一般の方にご理解いただくことも重要」と話す。

 

補助金の申請受付は2023年の3月末まで。ですが2021年3月から実際に、マイナンバーカードを持った患者が窓口にやってくることが想定されるため、「その時になって『うちの薬局ではマイナンバーカードには対応していません』ということがないよう、早めの準備をして欲しい」と太江係長は呼び掛けます。

オンライン対応薬局にはステッカー

 

なお厚労省ではオンライン資格確認への対応薬局に対して、ステッカーを掲示して患者に周知するほか、ウェブサイトなどで検索できるようにすることを検討しています。

 

高い利便性が見込まれるオンライン資格確認ですが、気になるのはマイナンバーカードの普及率。せっかくシステムを導入しても、利用者が少なければ絵にかいた餅に終わってしまいます。

 

「マイナンバーカードの申請枚数は3000万枚に迫る勢いです(8月27日現在)。これは決して少ないボリュームとはいえません。またマイナンバーカードを持つ年齢層をみると、運転免許証を返納して写真付き身分証がなくなってしまった高齢者が、身分証として利用しているケースが多いことがわかります。このことからも薬局に来る患者さんが、マイナンバーカードを持参するケースは少なくないと予想しています」(太江係長)

 

すでにポータルサイト上では、カードリーダーの申し込みがスタートしていて、今後は順次、オンライン資格確認の利用申請、補助金の申請がスタートします。導入を迷っている場合は、まずポータルサイトに登録だけすることもできます。アカウントを登録すると、オンライン資格確認に関する最新情報がメールで送られてくるようになります。

 

「オンライン資格確認ってなに?」「よくあるお問い合わせ」など「オンライン資格確認」の基本情報も充実している。

情報の閲覧範囲は今後、拡大の可能性も

 

医療機関・薬局と支払基金など、患者を中心とした関係者をネットワークで結ぶ、次世代データヘルスネットワークの第一歩ともいえるオンライン資格確認。現状では薬局で閲覧できるのは過去の薬剤情報に限られますが、厚労省では現在、情報の閲覧範囲について議論を進めていて、今後、閲覧範囲がさらに広がっていく可能性も秘めています。

 

「将来的に広く医療者間で患者情報を共有し、より安全で安心な医療を提供するための第一歩として、ぜひとも積極的に取り組んでいただきたいと思います」(大竹室長)


取材・執筆/横井かずえ

医療ライター。医療系の専門紙「薬事日報」の記者として13年間、日本医師会、日本薬剤師会、厚生労働省などを担当。独立後は医療・介護・ヘルスケア分野を中心に取材、執筆。現在は、医師向けドキュメンタリー誌や介護情報誌『あいらいふ』、ケアマネ向け在宅情報誌『ふれあいの輪』などで執筆するほか、ニッポン放送・草野満代の『健康あるあるWONDER4』などで一般向けの情報発信を行っている。

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