インタビュー 公開日:2021.03.23 インタビュー

薬剤師を含めた「チーム」で在宅医療に向き合う、桜新町アーバンクリニックの取組み

2009年に在宅医療部が立ち上がった桜新町アーバンクリニック(東京)では、薬剤師がドクター、看護師、ソーシャルワーカー、介護士と連携して在宅医療に取り組んでいます。在宅医療において薬剤師に何が求められ、どのように他職種と連携しているのか――同クリニックの取組みについて3回に分けてインタビューの様子をお届けします。第1回目の今回は、同クリニック院長の遠矢純一郎先生のお話です。

 

本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」特集2017年5月号特集「わたしの在宅医療の取組~薬剤師が在宅医療に参画する意味~」P.7-8を再構成したものです。

東急田園都市線・用賀駅からほど近い場所にある「桜新町アーバンクリニック 在宅医療部」。各世帯それぞれの健康管理を支援する、地域に密着した“ファミリードクター”をコンセプトとする「桜新町アーバンクリニック」の、在宅医療専門の部署です。

 

一歩中に足を踏み入れると、通常のクリニックとは異なる光景に驚くのではないでしょうか。診療室もなければ院長ありません。デスクが並び、医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなどが自由に座ってなごやかに打ち合わせをしています。しかも、デスクとデスクの間にはパーティションがありません。

 

院長の遠矢純一郎先生は「ここでは、在宅医療に関わる全てのスタッフが『フラットな関係』です。患者を訪問したケアマネジャーやソーシャルワーカーが、すぐに担当の医師や看護師に状況を話せるように間仕切りもなくしました」と語ります。「在宅医療の中心には患者や家族がいて、それを支えるみんながいます。みんなが丸く円を作るようなイメージで、誰とでもいつでもコミニケーションできるようにしています」(遠矢院長)。

 

桜新町アーバンクリニックでは様々な職種が、みなチームとなって活躍しています。「在宅医療は医師だけでできるものではありません。薬剤師など他の職種との連携が重要です。連携をより強固にするため、様々な職種の人たちを院内に迎え、それぞれの立場から院外の連携先とのやり取りをしてもらっています」(遠矢院長)。

 

医師や看護師だけではなく、在宅医療に関わる全ての人たちと一緒に最善を尽くす。「人が中心の在宅医療」を目指す桜新町アーバンクリニックの取組みなのです。

 

患者に寄り添う「家庭医」として

――在宅医療部がスタートした経緯を教えてください。

遠矢先生(以下同) 桜新町アーバンクリニックを運営する医療法人社団プラタナスが設立されたのが2000年です。「家庭医療を実現する」という想いで、「用賀アーバンクリニック」からスタートしました。2004年頃から、徐々に来院できない患者、寝たきりの方が増えてきたこともあり往診をするようになりました。2006年には「在宅療養支援診療所」の制度ができ、各地で在宅医療への取組みが本格化してきましたが、その前から往診で取組んでいました。

 

桜新町アーバンクリニック 医師・院長 遠矢純一郎先生

 

私が桜新町アーバンクリニックの院長になったのは2009年で、同時に在宅医療部を立ち上げました。用賀アーバンクリニックの頃と同様に地域の方々にとっての「かかりつけのお医者さん」、患者に寄り添いながら在宅で診療する「家庭医」の機能を提供したいと考えたからです。

 

在宅医療部がスタートした頃は私と看護師1名で、週1回、午後を休診にして在宅医療に回っていました。それが1年後にはドクター3名、看護師3名になり、現在ではドクター10名、看護師13名、さらに、薬剤師、ソーシャルワーカー、介護士など様々な職種の人たちにも在宅医療部に来ていただき、今では在宅医療に関わる多くの人がひとつの「チーム」となって在宅医療に取り組んでいます。

在宅医療とは患者の「気持ちに寄り添う」こと

――医師として在宅医療で心がけていることは?

通常の医療は病気などの治療が目的です。例えば盲腸なら手術するし、肺の病気ならそこを治療します。ところが在宅医療とは、その人が暮らしている場所で、病気を抱えながらも家で暮らしたいという患者の「気持ちに寄り添っていくこと」なのです。私は医師ですが、医師だけで患者や患者の家族を支えられるものではないと強く感じています。看護や介護も重要で、むしろそちらの重要性が高いのが在宅医療だと考えています。

 

 

在宅医療を希望される方々の多くは、高齢者やがんの終末期にあり、限りある時間を自分らしく、より良く生きることを望んでおられます。進行していく病状や身体機能の低下で生じる不安や生活の大変さを、医療と看護、介護が一体となって支えることでそれらが軽減されると、押し込められていたその方やご家族の笑顔や喜びが引き出されてくる。そのためにベストを尽くすのが在宅医療の本質と思っています。

在宅医療の中心には「人」がいる

――クリニックに薬剤師がいるのはなぜですか?

病院での治療と異なり、在宅医療の現場は患者の「生活の場」になります。救急治療室も手術室もなく、特別な医療設備や高度な検査機器もありません。在宅医療の中心には患者がいて、それを支える家族がいて、ソーシャルワーカーや介護士、看護師、薬剤師、医師など在宅医療に関わる「人」たちがいる。そうした人たちが連携し、患者やその家族の情報を共有し、みなで支えていく。地域の様々な職種との連携には、事業所ごとにいろんな事情や体制の違いなどもあり、単に情報共有していればよいというものではない難しさがあります。そのため当院では薬剤師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー等を院内に有しており、地域との連携をよりスムーズにするためのコーディネーター役を担ってもらっています。

薬物治療が中心の在宅医療の現場で高まる重要性

――在宅医療の現場で薬剤師への期待は?

在宅医療では、例えばがんの終末期の患者は投与する薬の量も種類も次々に変わっていきます。モルヒネを投与することもあります。どの薬をどう飲めばいいのか、患者を支える家族も混乱してしまうことが多い。そんな時に薬剤師がいると、在宅医療の現場で大きな安心感になります。

 

また、私たち医師が気になるのは処方をした後に薬がきちんと効いているか、副作用が出ていないかといったことです。しかし、毎日、患者の様子を診には行けないのが実情。そんなときに、現場に出向いた薬剤師からの患者の報告が非常に貴重な情報になります。在宅医療の質的な向上が求められていく中、薬の専門家であるだけでなく、患者と医師をつなぐパイプ役としても薬剤師への期待が高まっているのです。

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2017年5月号

 

桜新町アーバンクリニックで活躍する医療者へのインタビュー、第1回は院長の遠矢純一郎先生のお話を紹介しました。第2回は薬剤師、第3回は看護師・ケアマネジャー・社会福祉士へのインタビューをお届けします。