薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2025.11.27公開日:2025.11.26 薬剤師のためのお役立ちコラム

薬剤師国保とは?社会保険との違いやメリット・デメリットを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師国民健康保険(薬剤師国保)と社会保険(社保)では、結局どちらがお得なのか疑問に思う方もいることでしょう。薬剤師国保は、自治体が運営する国民健康保険(国保)と大きな違いはありません。しかし、社保とは扶養制度や保険給付などにおいて違いがあります。また、薬剤師国保の保険料は、従業員や事業主などの区分によって異なります。本記事では、薬剤師国保の概要や加入資格、メリット・デメリットについて紹介するとともに、薬剤師国保・国保・社保の保険料や保険給付などの違いを解説します。

1.薬剤師国保とは?

薬剤師国保とは、各地域の薬剤師会が運営する国民健康保険のことです。正式には「東京都薬剤師国民健康保険」のように自治体名が冒頭に加わります。薬剤師国保は、主に個人経営の調剤薬局で働く薬剤師や医療事務スタッフ、その家族が加入することが多い医療保険です。
 
薬剤師国保のほかにも、公的医療保険には以下のようなものがあります。

 

保険の種類 加入者
薬剤師国保 薬剤師や薬剤師関連の企業のスタッフ、その家族など
国民健康保険 自営業者や年金生活者、その家族など
協会けんぽ 中小企業の従業員、その家族など
健康保険組合 大企業の従業員、その家族など
共済組合 公務員、その家族など
船員保険 船員、その家族など
後期高齢者医療制度 75歳以上

参考:我が国の医療保険について|厚生労働省

 

日本では国民皆保険制度を採用していることから、国民は公的医療保険への加入が義務付けられています。そのため、薬剤師も何らかの公的医療保険に加入しなければなりません。

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2.薬剤師国保の加入資格

薬剤師国保に加入するためには、企業側と従業員側がそれぞれ要件を満たす必要があります。ここでは、東京都薬剤師国保を例に、企業と従業員の加入資格について解説します。

 

2-1.企業

東京都薬剤師国保に加入できるのは、個人事業所を開局し、かつ常時5人未満の従業員を雇用している企業です。法人事業所や従業員を5人以上雇用している事業所は、基本的に協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)へ加入しなければなりません。
 
ただし、薬剤師国保にすでに加入している個人事業所が法人になった場合は、健康保険適用外承認を受けることで薬剤師国保の加入を継続できます。

 

2-2.従業員

従業員が、東京都薬剤師国保に加入するためには、以下の要件を満たす必要があります。

 

■東京都薬剤師国保の加入資格要件
要件1 東京都薬剤師会の会員であって、東京都内に所在する薬局又は医薬品販売業の開設者および管理者
要件2 東京都薬剤師会の会員であって、薬剤師の業務に従事する者
 
【例】
● 調剤薬局や病院などに勤務する薬剤師
● 薬剤師を育成する教育機関の講師
● 学校薬剤師
● 診療報酬明細書等の審査に関わる薬剤師 など
要件3 組合員が開設する薬局等の従業員
 
【例】
● 医療事務
● 登録販売者 など

 

薬剤師国保は、薬剤師資格を持たない人も一定条件を満たすことで加入できる医療保険です。ただし、薬剤師国保を運営する各地域の薬剤師会によって、細かな条件が異なる場合があるため、詳しくはホームページなどを確認しましょう。

3.薬剤師国保と国民健康保険の違い

薬剤師国保と国民健康保険は、公的医療保険において同じ国保に分類されます。両者の主な違いは以下のとおりです。

 

  薬剤師国保 国民健康保険
運営元 各地域の薬剤師会 自治体
保険料 従業員(薬剤師):25,000円 前年の所得や年齢に応じて算出
加入と脱退 就業先が手続きを実施 住居のある自治体に加入
保険給付 違いなし

参考:我が国の医療保険について |厚生労働省

 

薬剤師国保と国民健康保険の違いについて詳しく見ていきましょう。

 

3-1.保険組合の運営元

薬剤師国保は各地域の薬剤師会が運営しているのに対し、国民健康保険は都道府県と市区町村が運営しています。
 
薬剤師国保は、国保組合に分類され、ほかにも医師国保、歯科医師国保などがあります。これらは業種ごとに組合を設立・運営しており、特定の業種の個人事業主とその従業員が加入できる国保です。
 
一方、都道府県、市区町村が運営している国民健康保険は、個人事業主や未就業者などのうち、社会保険(社保)や国保組合に加入していないすべての人が加入する医療保険です。

 

3-2.保険料

薬剤師国保の保険料は収入に関わらず一律であるのに対し、国民健康保険は収入に合わせて保険料が算出されるのが異なる点です。
 
薬剤師国保は、「事業主組合員」、「薬剤師」、「薬剤師以外の従業員」、「家族」、「後期高齢者組合員」に区分され、それぞれ保険料が異なります。

 

■東京都薬剤師国民健康保険組合の保険料
区分 保険料 後期高齢者支援金
事業主組合員 26,000円 3,500円 29,500円
従業員(薬剤師) 21,500円 3,500円 25,000円
従業員(その他) 16,000円 3,500円 19,500円
家族 9,000円 3,500円 12,500円
未就学児 6,000円   6,000円
後期高齢者組合員 2,500円 2,500円

参考:東京都薬剤師国民健康保険組合ウェブサイト

 

40歳~64歳の場合は、上記の金額に介護保険料5,500円が追加されます。保険料は、毎月27日に事業主組合員および個人加入組合員の口座から引き落とされます。
 
一方、国民健康保険は、前年の1月~12月の所得や加入者数、年齢をもとに、医療分・後期高齢者支援金分・介護分を計算して世帯単位での年間保険料が算出されます。おおよその保険料を計算できるフォームを提示している自治体もあるため、詳しく知りたい人はお住まいの自治体のホームページを確認しましょう。

 

3-3.保険給付

薬剤師国保と国民健康保険の保険給付に、大きな違いはありません。療養の給付や高額療養費などの医療給付に加え、出産育児一時金や埋葬料についても給付されます。
 
一方で、薬剤師国保・国民健康保険ともに、出産手当金や傷病手当金は任意給付とされています。社会保険(社保)では出産手当金や傷病手当金の給付制度があり、この2つの手当金が任意となっているのは国保の特徴でしょう。
 
ただし、出産手当金や傷病手当金は任意給付となっているため、自治体や薬剤師会の中には、同等の給付制度を独自に導入しているところがあるかもしれません。詳しくは、組合のホームページなどで確認するとよいでしょう。
 
参考:我が国の医療保険について |厚生労働省

 

3-4.加入と脱退

薬剤師国保は就業先によって加入組合が決定するため、基本的に居住地によって加入する医療保険が変わることはありません。
 
一方、国民健康保険は都道府県、市区町村が運営しているため、転居で住所が変わる場合には、転居先の自治体で国民健康保険に関する手続きを行う必要があります。

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4.薬剤師国保と社会保険(社保)の違い

薬剤師国保と社会保険(社保)の主な違いは以下のとおりです。

 

  薬剤師国保 社会保険(社保)
保険料 収入に関わらず一律 収入から算出
傷病手当金
出産手当金
任意給付 給付あり
扶養者の保険料の支払い あり なし

 

ここでは、東京都薬剤師国保と協会けんぽ(全国健康保険協会)を例に、保険料・保険給付・扶養制度について比較するとともに、社会保険(社保)が提供するサービス事業についてお伝えします。

 

4-1.保険料

上述のように、薬剤師国保の保険料は、収入額に関わらず区分ごとに一律額が設定されています。一方で社会保険(社保)の保険料は、会社が加入している保険協会や組合によって異なり、細かく条件が設定されています。
 
例えば、中小企業の加入が多い協会けんぽ(全国健康保険協会)では、各都道府県が設定した保険料率から保険料を算出します。保険料率が10%の場合、収入額の10%が保険料となり、半額は企業が支払うため、被保険者の負担額は実質5%前後となるでしょう。
 
協会けんぽでは地域の医療費水準によって毎年保険料率を見直しており、各都道府県の医療費が上昇すると保険料率が上がり、下降すると保険料率が下がる仕組みになっています。そのため、負担額は毎年変わります。
 
参考:令和7年度の協会けんぽの保険料率|全国健康保険協会
 
また、社会保険(社保)は「収入額」をもとに算出されるため、賞与からも保険料が天引きされます。
 
一方、薬剤師国保は「毎月一律」で保険料を支払うため、賞与の有無が影響しません。従業員薬剤師の場合、薬剤師国保の保険料は月25,000円(介護保険料を除く)となり、年間30万円の保険料となります。
 
そのため、年収がおおむね600万円以上であると、「1年間に支払う保険料」は協会けんぽの方が高くなるでしょう。

 

4-2.保険給付

病院などの医療機関を受診した際にかかる費用については、薬剤師国保と社会保険(社保)に大きな違いはありません。
 
違いがあるのは、「傷病手当金」と「出産手当金」の保険給付です。協会けんぽなどの社会保険(社保)に加入していると、病気やけがで通勤できなくなった場合には傷病手当金、出産のために会社を休職する場合には出産手当金が、申請手続きをすると受け取れます。
 
それぞれ給与収入の約3分の2に当たる金額が支給され、支給期間は以下のとおりです。

 

手当金 支給期間
傷病手当金 最長1年6カ月
出産手当金 出産日以前42日から出産日の翌日以降56日までの範囲

 

どちらも詳細な規定があるため、詳しくは各保険組合のホームページを確認しましょう。
 
また、傷病手当金や出産手当金は、保険料や税金などが差し引かれる前の給与額に対して計算されます。生活の心配をすることなく休職期間を過ごせるのは社会保険(社保)のメリットといえます。

 

4-3.扶養制度

扶養控除制度は社会保険(社保)だけにある制度です。薬剤師国保を含めた国民健康保険にはありません。社保の場合、扶養家族の保険料が免除となりますが、被扶養者は被保険者と同等の保険給付を受けることができます。
 
薬剤師国保は家族が加入すると、区分に従って保険料を納めなければなりません。

 

区分 保険料 後期高齢者支援金
家族 9,000円 3,500円 12,500円
未就学児 6,000円   6,000円

 

40~64歳の場合は介護保険料5,500円がプラスされます。薬剤師国保では、扶養家族の人数分だけ保険料が天引きされるため、扶養人数が多いほど手取り額が減ってしまいます。

 

4-4.サービス事業

協会けんぽなどの社会保険(社保)の中には、被保険者の健康促進のためにさまざまなサービスを提供しているところがあります。例えば、保養施設やスポーツ施設の完備、スポーツクラブや旅行の割引制度、運動を促すイベントなど、独自のサービスで被保険者の健康増進に努めています。定期健康診断オプションの無料追加など、疾患の予防と早期発見に向けた取り組みもあります。
 
薬剤師国保も、特定健康診査や特定保健指導などのサービスや指定保養所利用者への助成などを行っていますが、地域によって提供されるサービス事業が異なります。詳しくは各薬剤師国保のホームページを確認しましょう。

5.薬剤師国保のメリット・デメリット

ここでは、薬剤師国保のメリット・デメリットについて見ていきましょう。

 

5-1.薬剤師国保のメリット

薬剤師国保は、給与収入に関わらず一律の保険料を支払うため、収入が多い薬剤師にとってメリットが大きいでしょう。
 
また、従業員が5人未満の事業所の経営者は、従業員分の保険料を負担せずに済む点がメリットです。

 

5-2.薬剤師国保のデメリット

薬剤師国保に家族が加入する場合、人数に応じて保険料が加算されます。そのため、人数が多いほど保険料が高くなってしまう点はデメリットになる可能性があります。
 
また、妊娠・出産の予定がある場合、出産手当金がもらえる社会保険(社保)の方がメリットは大きいでしょう。傷病手当金の給付制度もあるため、出産や病気・事故などに備えたいと考えている場合は、任意給付となっている薬剤師国保への加入は、デメリットとなる可能性があります。
 
経営者にとってのデメリットは、従業員の福利厚生が薄くなってしまう点が挙げられます。出産手当金や傷病手当金、サービス事業などを独自に設けて、従業員が安心して働ける環境を整えることが求められます。

6.薬剤師国保への加入メリットは立場によって異なる

薬剤師国保への加入メリットは、収入や立場によって異なります。将来、家庭を持つ可能性がある人は、出産手当金や扶養者制度がある社会保険(社保)の方が、メリットが多いと感じるかもしれません。一方、薬局の開業や高収入の薬剤師などは、保険料が抑えられる薬剤師国保が向いているといえます。転職活動で候補となる求人が、薬剤師国保である場合、将来を見据えて慎重に検討する必要があるでしょう。

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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。