薬剤師が転職エージェントに登録するメリットは?効果的な活用法と注意点
転職活動において、転職エージェントを利用するのは一般的になっており、薬剤師専門の転職エージェントも増えています。実際に利用するかどうか検討中の薬剤師も多いのではないでしょうか。そこで、自身も薬剤師であり、薬剤師のキャリア支援に携わる株式会社MEDIKLECT(メディクレクト)の柿間隼志さんに、転職エージェントを効果的に活用する方法について伺いました。
1.薬剤師が転職エージェントで転職するメリット
薬剤師は、ほとんどが学生時代に病院や調剤薬局で実習を経験していることでしょう。その結果、就職前から仕事内容を明確にイメージできたわけですが、逆に言えば、「それ以外」の仕事については具体的なイメージがほとんど描けないのではないでしょうか。
新卒で就職先を選ぶときはもちろん、就職後に転職を考えるときにも実習で経験した職種ばかりが頭に浮かび、それしか選択肢がないように錯覚してしまうのは「薬剤師あるある」のひとつだといえます。
転職エージェントを活用するメリットは、大きく分けて2つあります。
第一に、自分では気付きにくいキャリアを教えてもらえること。専門性が高いだけに視野が狭まりがちな薬剤師だからこそ、プロの手助けによってさらに広い景色を見る必要があるはずです。
キャリアの選択肢にかかわる情報を自分で収集することも不可能ではありませんが、想定の外にあるものを自力で拾い上げるのはなかなか困難です。多くの薬剤師のキャリア選択を見届けていて、多様な職種・企業に精通している転職エージェントを頼るのが近道といえます。
第二に、客観的な目線でアドバイスをもらえること。「自分のことは自分が一番よく知っている」と思い込みがちですが、こと転職に関しては、他者からの評価を生かすことが非常に大切です。
自己評価によるスキルや性質は必ずしも他己評価と一致しません。むしろ、他者の視点から自分の印象や能力がどう見えているのかを知ることが、転職活動では活きてきます。
自分が当たり前にできることほど、その能力の重要性に気付きにくいものです。「あなたの〇〇という経験は貴重なものです」「〇〇を大切にして働いてきたのですね」と第三者の目を通した評価を受けることで、自分の市場価値や価値観を正確に可視化できるでしょう。
2.転職エージェントにサポートしてもらって良かったこと
現在は薬剤師専門のキャリア開発支援を行っている私自身も、転職エージェントを利用して転職をした経験があります。新卒入社したドラッグストアで4年間働いた後、まったくの未経験でCROへ転職できたのは、優秀なキャリアアドバイザーの存在があってこそでした。そもそも、CRAという職種を知ることができたのは、キャリアアドバイザーに教えてもらえたからです。
とくにありがたかったのが、CROの求人情報をピックアップしてもらったうえで、各社の方向性や業界内の位置付け、社風などを詳しく教えてもらったことです。まったくCRO業界のことが分からなかったので、あらかじめ「各社の情報を教えてもらいたい」とは依頼していたのですが、想像以上に丁寧に対応してもらえました。
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まとめてもらったデータをもとに志望先を検討し、自分の中での志望度をかためることができたことを覚えています。また、あえて圧迫面接を想定した面接練習をしてもらえるなど(転職体験談はこちら)、オリジナルの想定質問リストが役立ちました。
結果的に、転職エージェントに登録をしてから内定を得るまでに4か月というスピード感でした。ここまでスムーズな転職は、自力では難しかったでしょう。
3.転職エージェントに登録するか迷ったら
「まだ完全には転職を決断していないのでエージェントは利用できない」と思う方もいるかもしれませんが、個人的には検討段階で登録しておくことをおすすめします。
「〇〇業界について教えてほしい」「今の経験やスキルを活かせるのはどんな職場か?」と相談し、話を聞くだけでもいいと思います。私自身、キャリアアドバイザーからの提案があったからこそ職種を知ることができ、選択の幅が広がりました。
転職エージェントに話を聞いた後、「いろいろと考えた結果、転職しないことに決めた」となっても、そのように伝えれば問題ありません。むしろ、強引に転職を推し進めようとするのではなく、本当に求職者の立場からアドバイスしてくれるキャリアアドバイザーこそ理想的だと思います。
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私が薬剤師のキャリア相談に乗るときも、「その希望は本当に今の会社だとかないませんか?」と必ず確認し、さまざまな角度からその方に合ったキャリアの方向性を考えます。
「転職エージェントは連絡がしつこい」というイメージがあって敬遠している方もいるかもしれませんね。実際のところ、キャリアアドバイザーは登録者に適した求人情報などを迅速に伝えることも大切な仕事なので、連絡が頻繁になる側面はあると思います。
過剰だと感じるのは、もしかすると自分が必要としていない情報についても連絡がくるからではないでしょうか? もしもこまめな連絡を必要としていないのであれば、そのように伝えれば良いのです。あるいは、「〇〇業界で△△の仕事内容の求人がある時だけ連絡をください」と連絡がほしい条件を絞ってしまうのもいいかもしれません。
私の場合は、CRA職の求人に絞って連絡をお願いしていました。要は、何をどうしてほしいか、的確に伝えておくといいと思います。
「絶対にこの会社へ行きたい!」というような明確な目標がある方は、もしかしたら転職エージェントではなく自己応募でもかなえられるかもしれません。そんな方も、キャリアの選択肢を広げたい場合や、内定を得るためにどんな対策を練るべきかアドバイスが欲しい場合は登録してみるのもありだと思います。
4.転職エージェントを効果的に活用するには
転職エージェントを利用する際に注意したいのが、「何もかもおまかせ」状態にしないことです。キャリアアドバイザーはあなたの希望に合わせて、方向性や具体的な就職先をどんどん提案してくれるでしょう。そこで言われるがままに進めるのではなく、自分が納得のできる選択かどうかを検討して、選択することが大切です。
「自分で納得して決めた道だ」という実感がないと、つらいことがあったときに他責思考に陥ってしまうおそれがあります。キャリアアドバイザーはあくまでもサポーターであり、進む道を選ぶのは自分自身だということを忘れないようにしましょう。
とはいえ、提案された企業に「興味がある」くらいに受け答えをしていたはずが、いつの間にか第一志望かのように話が進んでしまっていた……というケースはあり得そうです。そういう時は、「ここ以外の企業や業種で、私に合っているものは何があると思いますか?」と臆せず聞いてみることをおすすめします。
見直しの意思を伝えればより幅広い選択肢を提示してもらえますし、「なぜここがおすすめなのですか?」と話を広げることで、自分のスキルや経験がどう評価されているのかという理解も深まります。こうした希望に快く応じてくれるキャリアアドバイザーが、優秀で誠実なことは間違いありません。
こうした相談を重ねていくわけですから、担当のキャリアアドバイザーとの相性は重要だと思います。「対応が誠実でスピーディー」「+αの提案をしてくれる」といった能力面ももちろん備わっていれば嬉しいですが、やはり価値観がマッチしていることが一番。
もしもいまいち話がかみ合わないなと思ったら、別の転職エージェントでも話を聞いてみるのも一案です。キャリアアドバイザーは人生の岐路で悩みや迷いを打ち明ける伴走者ですから、心から信頼できる人を探してみましょう。
撮影/和知 明[ブライトンフォト] 取材・文/中澤仁美[ナレッジリング]
柿間隼志(かきま・たかし)
薬剤師/株式会社MEDIKLECT 代表取締役