薬用作物国内栽培が停滞~漢方薬の安定供給に暗雲
重点品選別へ政策転換
薬用作物の国内栽培が行き詰まっている。農林水産省は、2025年に薬用作物の栽培面積を630ヘクタールまで拡大する目標を掲げているが、20年は494ヘクタールと最低水準に落ち込んだ。試験栽培に進んでも投資に見合う収益が得られないとの失望感から撤退する産地が相次ぎ、担い手も減るなど閉塞感が漂う。農水省は、産地が希望する品目を一律に支援する政策を見直し、国内で使用量が多い薬用作物10品目程度に重点支援品目を絞り込み、国内栽培を後押しする政策に転換する方針だ。
漢方薬原料となる生薬は約8割が中国産で、中国産生薬の価格上昇により安定確保が難しく、原料生薬の安定確保のために国産ニーズが高まっている。13年から厚生労働省と農水省、日本漢方生薬製剤協会が生産農家と漢方薬メーカーをマッチングする「薬用作物の産地化に向けたブロック会議」(現薬用作物の産地化に向けた地域説明会および相談会)を開催し、国内栽培の必要性が高い生薬の産地化を推進してきた。
しかし、薬用作物の栽培面積を見ると、12年の643ヘクタールをピークに18年は570ヘクタール、19年は523ヘクタール、そして20年は494ヘクタールと500ヘクタールを割り込み、直近10年では最も低い数字となった。栽培戸数も17年の2046戸から20年は1542戸と、この10年で最低となった。
漢方薬メーカーとのマッチングについても、13~21年の9年間で137団体・個人が折衝を開始し、49団体・個人が契約に向けた試験栽培へと進んだが、取引を開始したのは10団体・個人に限られる。
栽培面積と栽培戸数が落ち込んだ背景には、産地側が薬用作物の収益性に不安を持っていることが大きい。薬用作物が用いられる医療用漢方製剤の販売価格は薬価で決められている一方、薬用作物の各品目について地域に応じた栽培技術が確立されていないことや、専用の農業機械がなく登録農薬も少ないため、人手や手作業が多くなり、費用対効果が合わない。
外国産生薬価格も高騰しているとはいえ、国産生薬に比べるとまだ安く、栽培に成功したとしても売り手がつかないとの心配もある。こうした現状から、漢方薬メーカーとのマッチングが成立し、試験栽培へと進んでも本格栽培を断念する産地が多いという。
国内栽培が停滞すれば、漢方薬の安定供給に支障を来す。既に薬用作物の国内栽培に対する機運が高まった13年のブロック会議から10年が経過しており、農水省は「あの頃のブームは過ぎ去ってしまっている。産地に対する支援のやり方が本当に良かったのか検証が必要」と戦略見直しに言及した。
打開策として、支援対象を重点品目に限定する。これまでは、産地から生産の生薬希望品目と漢方薬メーカーの求める品目でマッチングすれば、一律に生産を支援してきた。今後は国内での使用量や作付面積が多いトウキやセンキュウなど10品目程度に絞り込み、栽培技術開発や生産の機械化などを含め重点化して支援を行う方向だ。
農水省が薬用作物栽培に関する基本計画を策定し、重点品目については計画的に栽培面積の拡大が図れるよう実効性の高い支援を検討していく。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
農林水産省は、2025年に薬用作物の栽培面積を630ヘクタールまで拡大する目標に対し、2020年は494ヘクタールと最低水準に落ち込んだと発表しました。漢方薬原料となる生薬は約8割が中国産で、中国産生薬の価格上昇により安定確保が難しく、原料生薬の安定確保のために国産ニーズが高まっています。一方で赤字により撤退する産地が相次いでおり、支援政策として、国内で使用量が多い薬用作物10品目程度に重点支援品目を絞り込み、国内栽培を後押しする政策に転換する方針です。