1.精神科薬物療法認定薬剤師とは?
精神科薬物療法認定薬剤師とは、 精神科薬物療法に関する高度な知識やスキルを身に付けた薬剤師のことです。
精神疾患を抱えている患者さんが安全かつ適切に薬物治療を受けられるように指導するとともに、社会復帰に向けた支援などを行う役割を担います。
2024年10月時点で、精神科薬物療法認定薬剤師の認定者数は194名です。認定者一覧は、日本病院薬剤師会のウェブサイトから確認できます。
参照:精神科薬物療法認定薬剤師認定者|日本病院薬剤師会
2.精神科薬物療法認定薬剤師の仕事内容
精神科薬物療法認定薬剤師の仕事内容は職場によっても異なりますが、主に精神疾患の治療を行う患者さんの処方箋調剤や服薬指導などを行います。
精神疾患の治療に使用される医薬品の中には、口渇や便秘、眠気などの副作用が現れるものが少なくありません。また、服用開始直後や増量時には不安感や焦燥感が現れる場合もあり、患者さんへの注意喚起が必要です。患者さんに対して、副作用の特徴や起こりやすいタイミングなどについて説明し、副作用が現れた場合には医師や薬剤師へ相談するように指導します。
さらに、精神疾患は再発リスクが高い病気ともいわれています。症状が安定しているからといって、患者さん自身の判断で服薬を中断すると薬の効果がなくなり、症状が悪化したり再発したりすることがあります。
精神科薬物療法認定薬剤師が薬物療法の意義を伝えるとともに、自己判断で服薬を中断しないように指導することが大切です。
🔽 精神科薬物療法認定薬剤師の仕事に関するインタビュー記事はこちら
3.精神科薬物療法認定薬剤師になるには
精神科薬物療法認定薬剤師になるには、精神科薬物療法に従事した実務経験や指導実績が必要で、さらに精神科薬物療法認定薬剤師認定試験に合格しなければなりません。
ここからは、精神科薬物療法認定薬剤師の申請条件や試験問題などについて解説します。
3-1.申請条件
精神科薬物療法認定薬剤師の認定申請をするためには、申請年度または次年度の認定申請時までに以下の条件をすべて満たす必要があります。
● 薬剤師の実務経験が3年以上あり、日本病院薬剤師会の会員、もしくは「日本薬剤師会」「日本女性薬剤師会」「日本保険薬局協会」の会員であること。ただし、「日本保険薬局協会」は会員である保険薬局に勤務する薬剤師であれば可。
● 「日本医療薬学会」「日本生物学的精神医学会」「日本薬学会」「日本病院・地域精神医学会」「日本臨床薬理学会」「日本社会精神医学会」「日本精神神経学会」「日本老年精神医学会」「日本神経精神薬理学会」「日本精神科救急学会」「日本臨床精神神経薬理学会」「日本認知症学会」「日本精神薬学会」のいずれかの会員であること。
● 日病薬病院薬学認定薬剤師であること。ただし、日本医療薬学会の専門薬剤師制度により認定された専門薬剤師であれば可。
● 申請時(認定開始日前日)に、精神科の病院・診療所や精神科の処方箋を応需する保険薬局に勤務しており、精神科の薬物療法に合計3年以上、かつ申請時に継続して1年以上直接従事していること(所属長による証明が必要)。
● 日本病院薬剤師会が認定する精神科領域に関する講習会、もしくは「日本医療薬学会」「日本生物学的精神医学会」「日本薬学会」「日本病院・地域精神医学会」「日本臨床薬理学会」「日本社会精神医学会」「日本精神神経学会」「日本老年精神医学会」「日本神経精神薬理学会」「日本精神科救急学会」「日本臨床精神神経薬理学会」「日本精神科病院協会」「日本認知症学会」「日本精神薬学会」が主催する精神科領域に関する講習会などを受講し、所定の単位(40時間、20単位)以上を履修していること。ただし、日本病院薬剤師会が主催する講習会を1回以上受講している必要がある。
● 精神疾患患者に対する指導実績が30症例以上(複数の精神疾患)あること。
● 病院長や施設長などからの推薦があること。
● 日本病院薬剤師会が実施する精神科薬物療法認定薬剤師認定試験に合格していること。
参照:精神科薬物療法認定薬剤師認定申請資格|日本病院薬剤師会
参照:令和6年度 精神科薬物療法認定薬剤師認定試験|日本病院薬剤師会
🔽 日病薬病院薬学認定薬剤師について解説した記事はこちら
3-2.試験問題
「令和6年度精神科薬物療法認定薬剤師認定試験出題基準と範囲」によると、精神科薬物療法認定薬剤師の対象疾患は、ICD-10の精神および行動の障害(F00‐F99)またはDSM-5で分類される疾患(認知症、アルコール・薬物依存症、統合失調症、気分障害、 神経症・心身症、睡眠障害、発達障害等)です。また、出題範囲は以下のとおりです。
● 精神疾患の薬物治療:各精神疾患の治療に使用される薬物について下記の項目が説明できる。(①向精神薬の分類 ②使用目的 ③薬理作用 ④効果、副作用、相互作用、禁忌薬 ⑤薬物動態、剤形、用法・用量)
● 薬学的管理業務:各精神疾患患者に対する薬物治療について下記の項目について説明できる。(①薬物治療の目的、効果、副作用とその対処法 ②副作用のモニタリングの方法や意義 ③効果的な薬物治療の提案)
● 精神疾患患者への心理教育、コミュニケーションスキル:①心理教育についての目的、理論、効果について説明できる。 ②心理教育の実践、評価が説明できる。
● 精神疾患と法律:精神保健福祉法の下記の項目について説明できる。(①精神保健指定医、特定医師の役割 ②入院形態、処遇)
なお、認定試験の参考図書として、『精神科薬物療法マニュアル』(南山堂)、『薬剤師レジデントライブラリー「臨床精神薬学」』(南山堂)が紹介されています。また、同資料には試験問題例も掲載されているため、目を通しておくとよいでしょう。
3-3.合格率と難易度
日本病院薬剤師会のウェブサイトにおいて、認定試験の合格率や、難易度を測る目安となる試験の過去問題などは公表されていませんが、精神科薬物療法に使用される医薬品の特徴のほか、精神疾患の治療・診断、法律など幅広い知識が求められる試験といえます。
なお、試験の合否については、受験者に対して結果通知の案内がメール配信されます。
4.精神科薬物療法認定薬剤師の更新条件
精神科薬物療法認定薬剤師は、5年おきに認定更新をする必要があります。認定が満期となる約1年前に、日本病院薬剤師会から更新手続きの通知が届きます。更新の際には、以下の条件を満たさなければなりません。
● 更新申請時において、日病薬病院薬学認定薬剤師であること。ただし、日本医療薬学会の専門薬剤師制度により認定された専門薬剤師であれば可。
● 更新申請時において、「日本薬学会」「日本医療薬学会」「日本臨床薬理学会」のいずれかの会員、かつ、「日本精神神経学会」「日本神経精神薬理学会」「日本臨床精神神経薬理学会」「日本生物学的精神医学会」「日本病院・地域精神医学会」「日本社会精神医学会」「日本老年精神医学会」「日本精神科救急学会」「日本認知症学会」「日本精神薬学会」のいずれかの会員であること。
● 認定期間中に、施設内で精神科に関する専門的業務に従事していたことを証明できること。
● 更新申請までの5年間に、「精神科薬物療法認定薬剤師の更新に関する講習単位数一覧表」に定める精神科に関する講習単位を40単位以上(特別な理由がない限り、毎年最低3単位以上)取得すること。ただし、40単位のうち日本病院薬剤師会の精神科に関する講習会で12単位以上を取得すること。
● 更新申請までの5年間に、精神疾患患者に対する指導実績を15症例以上満たしていること。
● 更新申請までの5年間に、関連する国際学会、全国レベルの学会あるいは日本病院薬剤師会ブロック学術大会において精神科に関する学会発表を1回以上行っている(共同発表者でも可)、または複数査読制の国際的もしくは全国的な学会誌・学術雑誌に精神科に関する学術論文が1編以上あること(共同著者でも可)。
参照:精神科薬物療法認定薬剤師認定の更新条件|日本病院薬剤師会
なお、理由書を提出すれば更新を最長3年保留できますが、保留期間中は精神科薬物療法認定薬剤師であることを掲げられません。
5.上位資格の「精神科専門薬剤師」とは?
精神科薬物療法認定薬剤師の上位資格として、「精神科専門薬剤師」があります。2024年10月時点で、認定者数は63名です。認定者一覧は、精神科薬物療法認定薬剤師と同じく日本病院薬剤師会のウェブサイトより確認できます。
精神科専門薬剤師は精神科薬物療法に関する高度な知識と多くの臨床経験を持ち、医師や患者さんに対して症状や状況にあった薬物療法を提案します。さらに、精神科薬物療法に関する研究を行い、医療の発展に貢献する役割を担います。
精神科専門薬剤師になるには、申請時点で精神科薬物療法認定薬剤師であることに加え、学術大会での発表、学会誌・学会雑誌の学術論文などの実績が必要となります。さらに、精神科専門薬剤師認定試験に合格しなければなりません。
参照:精神科 専門薬剤師・認定薬剤師|日本病院薬剤師会
参照:精神科専門薬剤師認定者 |日本病院薬剤師会
参照:精神科専門薬剤師認定申請資格|日本病院薬剤師会
6.精神科薬物療法認定薬剤師の資格取得にチャレンジしよう
精神科薬物療法認定薬剤師とは、精神科薬物療法に関する高度な知識を身に付けた薬剤師のことです。近年、精神疾患を抱える患者数は増加傾向にあり、精神科薬物療法認定薬剤師は今後ニーズが増えてくると予想される認定薬剤師といえます。申請には実務経験や実績が求められ、さらに認定試験に合格する必要があるため、容易に取得できる資格ではないでしょう。しかし、スキルアップやキャリアアップを目指して、認定取得に挑戦してみてはいかがでしょうか。
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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