緊急安全性情報(イエローレター)とは、医薬品などについて安全性上の問題が発生した場合などに、製造販売業者が作成するものです。医薬品の開発において、臨床試験段階では把握できなかった副作用が、承認販売後に発覚することは少なくありません。そのような副作用については、作成基準をもとに、イエローレター、ブルーレター、使用上の注意の改訂といった方法で、医療関係者や患者さんに向けて情報提供されます。本記事では、イエローレターの概要やブルーレターとの違いについて解説するとともに、医薬品の一覧や例を紹介します。加えて、イエローレターの作成基準や提供方法についてもお伝えします。
- 1.緊急安全性情報(イエローレター)とは?
- 1-1.イエローレターとブルーレターの違い
- 2.緊急安全性情報(イエローレター)の一覧
- 3.緊急安全性情報(イエローレター)の例
- 4.緊急安全性情報(イエローレター)の作成基準
- 4-1.作成基準となる状況
- 4-2.作成基準となる措置
- 5.緊急安全性情報(イエローレター)の提供方法
- 5-1.イエローレターの作成
- 5-2.情報提供計画の作成
- 5-3.報道発表
- 5-4.インターネットを活用した情報提供
- 5-5.迅速性・網羅性を目的とした情報提供
- 5-6.関連団体を通した情報提供
- 5-7.記録の保管
- 6.緊急安全性情報(イエローレター)をタイムリーに把握しよう
1.緊急安全性情報(イエローレター)とは?
緊急安全性情報(イエローレター)とは、医薬品や医療機器、再生医療等製品について、安全性上の問題が発生した場合などに、厚生労働省からの命令・指示、もしくは製造販売業者の自主的決定などによって、製造販売業者が作成するものです。イエローレターは、患者さんや医療関係者に向けて情報提供されます。
1-1.イエローレターとブルーレターの違い
ブルーレター(安全性速報)とは、保健衛生上の危害発生・拡大を防止するために、医療関係者に対して注意喚起をするために作成されるものです。
一般的に行われている使用上の注意の改訂情報よりも迅速に情報提供しておくべき事案が発生した場合などに、厚生労働省の命令や指示、製造販売業者の自主的な決定などによって作成されます。
イエローレターとブルーレターの主な違いは、以下のとおりです。
イエローレター | ブルーレター | |
---|---|---|
主な情報提供先 | ● 患者さん ● 医療関係者 |
医療関係者 |
作成基準 | 緊急かつ重大な注意喚起や使用制限に係る対策が必要な状況 | 一般的な使用上の注意の改訂情報よりも迅速な注意喚起や適正使用のための対応の注意喚起が必要な状況 |
患者さん向け資材の作成 | 原則作成 | 必要に応じて作成 |
ブルーレターは主な情報提供先として患者さんが含まれていないものの、情報提供の資材については必要に応じて作成することとされています。
参考:「緊急安全性情報等の提供に関する指針について」の一部改正について|厚生労働省
2.緊急安全性情報(イエローレター)の一覧
イエローレター、ブルーレターの一覧は、PDMAのウェブサイトにある「緊急安全性情報(イエローレター)・安全性速報(ブルーレター)」のページで確認できます。2025年6月時点で掲載されているイエローレターの一覧は、以下のとおりです。
PMDAメディナビに登録すると、イエローレターやブルーレターの情報をタイムリーに把握することができます。
3.緊急安全性情報(イエローレター)の例
2025年6月時点で直近のイエローレターとして挙げられるのが、2007年3月に配布された「タミフル服用後の異常行動について」です。抗インフルエンザウイルス剤であるタミフルについては、服用した10代のインフルエンザ患者さんが自宅療養中に自宅マンションから転落死するという事例がありました。
その後、タミフル服用後の10代のインフルエンザ患者さんが、2階から転落して骨折する事例が2例報告されたことから、イエローレターが配布されています。タミフルカプセル75、タミフルドライシロップ3%の添付文書の「警告」には、タミフル服用後の異常行動についての記載が追記されました。

4.緊急安全性情報(イエローレター)の作成基準
「緊急安全性情報等の提供に関する指針」では、イエローレターの作成基準となる状況や措置の実施について定められています。
4-1.作成基準となる状況
イエローレターの作成が必要と判断されるのは、以下のいずれかの状況から見て、患者さんや医薬関係者に対して緊急かつ重大な注意喚起、使用制限に係る対策が必要な状況にある場合とされています。
1. | 副作用・不具合等の報告における死亡、障害もしくはこれらにつながるおそれのある症例または治療の困難な症例の発生状況 |
---|---|
2. | 未知重篤な副作用・不具合等の発現など、安全性上の問題が有効性に比べて顕著である等の新たな知見 |
3. | 外国における緊急かつ重大な安全性に関する行政措置の実施 |
4. | イエローレターまたはブルーレターなどによる対策によってもなお効果が十分でないと評価された安全性上の問題 |
先に紹介したパナルジン(チクロピジン)は、2度イエローレターが作成されています。海外文献をもとに「海外での重大な副作用」としてTTP(血栓性血小板減少紫斑病)の注意喚起を実施した後、国内での症例が報告されたことから、使用上の注意の改訂、警告欄の設置、イエローレターの発出、「医薬品副作用情報」(旧厚生省発行)への記事掲載などが行われました。
しかし、副作用の報告数は明確に減少しなかったため、使用上の注意の改訂をするとともに2度目のイエローレターの発出に至っています。
参考:塩酸チクロピジン製剤による血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)について|PDMA
参考:塩酸チクロピジン製剤による重大な副作用の防止について|PDMA
4-2.作成基準となる措置
「緊急安全性情報等の提供に関する指針」では、イエローレターは、以下の措置を実施するにあたって作成することとされています。
● 禁忌事項もしくは禁忌・禁止事項の新設または追加
● 新たな安全対策の実施(検査の実施等)を伴う使用上の注意の改訂
● 安全性上の理由による効能効果、使用目的、性能、用法用量、使用方法等の変更
● 安全性上の理由により、回収を伴った行政措置(販売中止、販売停止、承認取消し)
● その他、当該副作用・不具合等の発現防止、早期発見等のための具体的な対策
使用上の注意の改訂や医薬品の回収などは、さまざまな医薬品等で行われています。イエローレターが作成されるのは、先述のとおり、早急に周知・対策が必要な状況にあると判断される場合です。
5.緊急安全性情報(イエローレター)の提供方法
イエローレターは、製造販売業者、厚生労働省の医薬・生活衛生局医薬安全対策課、PMDAによって提供されます。ここでは、イエローレターの提供手順についてお伝えします。
5-1.イエローレターの作成
厚生労働省からの命令・指示によってイエローレターを作成する場合は、厚生労働省の医薬・生活衛生局医薬安全対策課が、その理由などを記した書面または電磁的方法により通知します。
製造販売業者が自主的な決定にもとづきイエローレターを作成する場合、医薬・生活衛生局医薬安全対策課による通知は、必要がある場合に発出されます。
製造販売業者は、厚生労働省及びPMDAと協議し、イエローレターを作成します。
5-2.情報提供計画の作成
製造販売業者は、イエローレターの情報提供計画について、PMDA安全部門と事前に協議し、提供計画書をPMDA安全部門に提出します。医療機関や薬局などへの情報提供は、情報提供計画に従い実施して、その結果はPMDA安全部門へ文書で報告します。
※PMDA安全部門とは、医薬品及び再生医療等製品は医薬品安全対策第一部または医薬品安全対策第二部、医療機器は医療機器品質管理・安全対策部をいう

5-3.報道発表
製造販売業者と医薬・生活衛生局医薬安全対策課は、患者さんや医薬関係者への周知のため、イエローレターの情報提供開始後、速やかに報道発表を行います。
また、医薬品の回収など、患者さんが直接対応しなければならない場合には、製造販売業者は新聞の社告などを活用して情報を掲載して広く周知できるよう考慮することとされています。
なお、代替となる製品に関するものを除き、イエローレターには、広告宣伝に関連する内容や緊急性を伴わないほかの製品に関連する内容を含んではなりません。
5-4.インターネットを活用した情報提供
PMDAは、イエローレターの情報提供開始後、製造販売業者への通知とイエローレターを速やかにPMDAのホームページに掲載するとともに、PMDAメディナビにて配信します。
製造販売業者も、同様の情報を自社などのホームページに掲載します。この時、会員ページといった特定の利用者のみを対象とした場所ではなく、不特定多数の人が確認できるところに掲載することが必要です。
なお、注意事項等情報の届出の対象となる医薬品等については、製造販売業者は改訂後の電子化された添付文書をPMDAに届け出て、PMDAのホームページに公表します。
5-5.迅速性・網羅性を目的とした情報提供
製造販売業者は情報提供計画に従い、イエローレターと改訂後の注意事項等情報等について、医療機関や薬局などに対し、以下のような方法で情報提供を行います。
● ダイレクトメール
● ファックス
● 電子メール など
さらに、直接面談やオンライン面談、電話などの方法と組み合わせて、より効果的に実施することとしています。
当該製品の納入が確認されている医療機関の適切な部署や薬局などについては、以下の日付から1カ月以内に情報が到着していることを確認します。
● 製造販売業者が自主的に情報提供を行うと決定した日
ここでの「医療機関の適切な部署」とは、医療安全管理者や医薬品安全管理責任者、医療機器安全管理責任者、または医療機関の製品情報担当者などが所属する部署のことです。
5-6.関連団体を通した情報提供
製造販売業者は、医学、薬学などの関係団体に情報提供を行い、会員等への情報提供の協力と関係団体のホームページ等への掲載などを依頼します。
また、当該製品を使用する患者団体を把握している場合には、当該団体に対して情報提供を行うことも考慮します。
各団体への情報提供の担当者については、情報提供計画の事前協議の中で、医薬・生活衛生局医薬安全対策課やPMDAと相談して決定します。当該製品の製造販売業者が複数ある場合は、代表して情報提供を行う製造販売業者についても定めておくことが望ましいとされています。
5-7.記録の保管
製造販売業者は、厚生労働省からの命令、指示、社内各部門での連絡等に関する文書、情報提供記録を、当該製品の安全性情報に関する記録を利用しなくなった日から5年間保存しなければなりません。ただし、以下については、別に保管期間が定められています。
製品 | 保管期間 |
---|---|
生物由来製品 | 10年 |
特定生物由来製品 | 30年 |
● 特定保守管理医療機器 ● 設置管理医療機器 |
15年 |
再生医療等製品 | 10年 |
指定再生医療製品 | 30年 |
参考:「緊急安全性情報等の提供に関する指針について」の一部改正について|厚生労働省

6.緊急安全性情報(イエローレター)をタイムリーに把握しよう
イエローレターには、早急に患者さんや医療関係者へ周知・対策するべき事項が記載されています。そのため、医療機関や薬局などは、早期に対応するためにも、タイムリーに情報が得られるよう準備しておく必要があるでしょう。PMDAをはじめ、さまざまな媒体で配信される医薬情報と、製薬企業や卸業者などから提供される情報を活用して、イエローレターを適切なタイミングで把握できる環境を整えることが求められます。
最新の薬剤師ニュース一覧
■「緊急安全性情報等の提供に関する指針について」の一部改正について|厚生労働省
■緊急安全性情報等の提供に関する指針に関する質疑応答集(Q&A)について|厚生労働省
■緊急安全性情報(イエローレター)・安全性速報(ブルーレター)|PMDA
■緊急安全性情報/安全性速報|厚生労働省

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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