
薬剤師・薬局の仕事は、一般の利用者の立場からは分かりにくい部分も多いかもしれません。薬剤師・薬局に関する素朴な疑問について、薬剤師さんに詳しく解説してもらいました!
薬剤師の「忙しい時期」「忙しい時間」っていつ?
職場によって忙しさのピークはさまざまながら、調剤薬局の場合、一日のうちでは午前中が多忙になりがちです

一口に薬剤師と言っても、調剤薬局、ドラッグストア、病院、製薬会社などさまざまな場所で働いています。忙しい時期・時間も職場によって異なるでしょう。
調剤薬局の場合は、近隣にある医療機関(病院やクリニック)の混雑状況に大きく左右されます。一日の中で見ると、午前中に診察のピークを迎える医療機関が多いため、それに伴って午前10時頃からお昼過ぎにかけて最も忙しくなる薬局が多いです。
一年を通して見ると、医療機関が長期休診になるゴールデンウィークやお盆、年末年始などの大型連休直後は患者さんが集中します。というのは、もともと通院日だった患者さんと、「休み中に薬がなくなってしまった」「休み中に体調を崩した」患者さんが重なるからです。通院日が連休中に当たる場合は、事前に普段より多い日数分の薬を処方されますが、予定通りに通院できない患者さんはどうしてもいて、連休直後に慌ててやって来ることになります。
また、季節ごとの流行病や気候の変化が人々の健康に影響することから、近隣の医療機関の診療科の種類によっても忙しい時期は変わってきます。
● 耳鼻咽喉科:感染症が増える秋から冬に加え、スギ花粉が飛散する2~4月はまさに繁忙期のピークです。
● 皮膚科:あせもや日焼け、虫刺されといった肌トラブルが増える夏が忙しい時期となります。
ドラッグストアに勤務する薬剤師は、OTC医薬品(処方箋なしで購入できる医薬品)の風邪薬や解熱鎮痛薬の需要が高まる冬に最も忙しくなります。それとセール期間ですね。
製薬会社の繁忙期は、所属部署や担当業務によってさまざまです。例えば、医薬品の情報提供を担うMR(医薬情報担当者)は、新薬が発売される前後が非常に忙しくなります。
実際に現場で働く薬剤師の忙しさはどのようなものなのか、私の経験をお話ししましょう。病院薬剤師として働いていた頃は、毎日がお昼休憩との闘いでした。12時になると、事務職員がそろって職員食堂へ向かうのを横目に見ながら、私たち薬剤師の業務はピークを迎えるのです。外来の患者さんへの投薬が一気に増えるためで、落ち着くのはどんなに早くても13時以降でした。
私が薬剤師として働いていた中で、最も午前の業務終了が遅かったのは15時頃だったと記憶しています。ある年の3月末に病院が新築移転(引っ越し)したのですが、その直後のことです。午前の処方箋の対応が終わるのが15時頃という日々がしばらく続きました。
普段はどんなに忙しくても、スタッフ全員で乗り越えるのが薬局の通例。しかし、この時期ばかりは空腹に耐えられず、交代で食事を済ませて業務に戻り、少し落ち着いたところであらためて休憩を取る、というような状況でした。「今だけだから頑張ろう!」と励まし合いながら乗り越えたのを覚えています。午前中分の仕事が終わると間もなく終業時間という、今では考えられない毎日でした。
病院の引っ越しは、薬剤師人生でも滅多にない経験です。患者さんも職員もどちらも不慣れという特殊な状況下で、忙しさを予測して対策を立てるのも困難だったのだと思います。

東北大学薬学部卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に勤務。現在はライターとして医療系編集プロダクション・ナレッジリングのメンバー。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。
ウェブサイト:https://www.knowledge-ring.jp/