調剤機器安全指針を策定 ~ 重篤事案は業界内で共有 日本薬科機器協会
日本薬科機器協会は調剤機器・システムの安全ガイドラインを策定し、今月から運用を開始した。2024年に大阪大学病院で発生した注射抗癌薬の過量投与事故を受け、メーカー起因の重篤事案を業界内で共有する仕組みを整備した。業界の自主基準による取り組みは一歩前進と評価できるものの、メーカーから同協会への安全性報告の実施条件が限定的であり、軽微な異常も把握したい医療現場との隔たりはなお大きい。ガイドラインの実効性確保が今後の課題となる。
調剤機器・システムの技術革新により、調剤現場の生産性は大幅に向上した一方で、メーカーごとに仕様や操作方法、保守体制が異なるため、医療機関や薬局における統一的な安全管理は困難となっている。
阪大病院の事故は、ユヤマ製の薬剤部門システムのプログラム不具合が発端となった。事故発生時には、同社製以外の調剤機器・調剤支援システムを利用する医療機関から各メーカーに問い合わせが相次ぎ、同協会会員間でも機器・システム起因のトラブル情報の収集・共有体制が不十分な実態が浮き彫りとなった。
これを受け、同協会は昨年に安全委員会を新設し、安全ワーキンググループを設置した。調剤機器・システムに関わる全事業者が共通して取り組むべき安全管理指針として、ガイドラインを策定した。
業界全体の安全水準の底上げを目的に、機器・システム起因のトラブル情報を収集し、会員企業や関係企業・団体間で共有する。対象は主に会員企業のうち、調剤支援システム・調剤機器の開発、製造、保守を担う事業者である。
ただ、報告実施条件は、▽患者に健康被害が生じた「重篤異常」であること▽利用する医療機関が「業界共有が必要」と判断すること▽メーカー仕様と異なる動作やバグなど、メーカー起因が認められること▽薬剤師や医療従事者が事前に気付けないと判断されること――の全てを満たした場合に限られる。
調剤業務の継続に支障を来す「重要異常」や一部機能に影響するが代替手段で対応可能な「軽度異常」は報告義務が生じないほか、メーカーが指定・推奨する使用方法から逸脱した仕様外使用も対象外とした。
報告要件を満たした場合、メーカーは同協会に文書で通知し、同協会が情報を収集した上で配信の要否を判断する。必要と認めた場合にのみ、会員企業や関係団体へ情報を共有する。メーカーが重篤異常を把握してから同協会に報告するまでの期間や、同協会が報告を受けて共有するまでの期間はガイドライン上、明確に定められていない。
阪大病院の事故は報告要件を満たすとされるが、現行運用では報告件数は限定的になると見られる。ガイドライン策定に関わった同協会の湯山正司氏(ユヤマ専務取締役)は「当面は重篤な事象に限定し、医療機関との協議を通じ報告する運用とした」と説明。
運用開始後1年間を試行期間とし、「状況や対応体制を評価した上で必要に応じ改訂したい」との考えを示した。
「軽微異常の把握に懸念」 ~ 日病薬 舟越常務理事
一方、日本病院薬剤師会の舟越亮寛常務理事(医療DX対応検討特別委員会)は、「安全委員会の設立と初期段階のガイドライン策定は評価できる」としつつ、「医療機関で医療安全の取り組みが始まった約20年前の黎明期に近い印象だ。報告実施が重篤異常、かつ医療機関が必要と判断した場合に限定されており、軽微な不具合が把握されない懸念がある」と指摘する。
その上で、「ガイドラインは医療機関や薬局に周知されて初めて機能するもので、決して形骸化させてはならない。潜在的なリスクも公表し、現場の医療安全と同水準まで高めていく必要がある」と強調した。
調剤機器・システムの多くは、疾病の予防や治療を目的とするものではないため、医薬品医療機器等法上の医療機器には該当していない。そのため、国による明確な安全基準や規制は整備されておらず、安全管理は各事業者の裁量に委ねられているのが現状だ。
一方で、医療DXの進展に伴い、調剤行為の一部を代替する機器も登場するなど、調剤機器・システムの位置づけは変化しつつある。同協会の湯山氏は医療機器に準じた規格への引き上げに慎重姿勢を示すのに対し、舟越氏は「医薬品・医療機器は定義とクラス分類があり、薬科機器も法的に位置づけや標準化の範囲を明確にするのかの議論が必要な時期に来ている」との私見を示す。調剤機器・システムの仕様がどうあるべきかも検討課題の一つとなりそうだ。
出典:薬事日報


薬+読 編集部からのコメント
日本薬科機器協会が調剤機器・システムの安全ガイドラインを策定。2026年5月から運用をスタートしました。2024年に大阪大学病院で発生した注射抗癌薬の過量投与事故を受け、メーカー起因の重篤事案を業界内で共有する仕組みを整備したものです。