創薬・臨床試験

基準値まで再検査繰り返す‐慣行に問題認識、告発決断

薬+読 編集部からのコメント

北里研究所病院のバイオメディカルリサーチセンターで実施中の第I相試験でデータが改ざんされていた問題について、第三者調査委員会の報告書が公開されました。同病院は現在、再発防止の体制を構築しているとしています。

北里研究所病院 データ改ざんで報告書公開

北里研究所は、同病院バイオメディカルリサーチセンターで実施中の第I相試験で健康成人ボランティアのナトリウム値を改ざんしていた問題で、第三者調査委員会がまとめた報告書を公開した。内部告発したクリニカルトライアルユニットに勤務する臨床検査技師は、上司の指示を受け、手入力でデータ改ざんを実行したことが判明。以前から同センターにおいて、基準値に入るよう再検査を繰り返す慣行に抵抗を感じていたと証言しており、同センターでは第I相試験の被験者を組み入れるため、基準値に入るよう恒常的に再検査を繰り返すなどの行為を行っていたことが明らかになった。


 

同ユニットは、昨年に実施した第I相試験で、健康成人ボランティアのナトリウム値のデータを改ざんしていた。プロトコールに定められた被験者の選定基準を逸脱し、本来は除外すべき健康成人1例を治験に組み入れていた。

 

報告書によると、内部告発者の臨床検査技師は上司の指示を受けて、手入力でデータを改ざんした。告発者は以前から、基準値に入るように再検査を繰り返す同ユニットの慣行に抵抗を感じており、またデータ改ざんは臨床試験における被験者保護の観点から問題だと認識したため、上司や副センター長に訴えた。しかし、それを受けて調査は行われたものの、不正を証明する確実な記録や証拠がないという理由で、それ以上の調査は行われなかった。

 

組織全体の姿勢に原因があると考えていた告発者は、その調査には疑問を感じ、外部の専門家に告発内容を伝えた。その専門家が北里大学病院臨床試験センター長の熊谷雄治氏に伝え、それがきっかけになって外部委員中心の第三者調査が行われるようになったという。

 

事件が発生した背景について報告書は「被験者を可能な限り脱落なく組み入れることで、治験実施上も経営上も組織の損失を避けたいという観点」が組織に存在していた可能性について言及している。

 

しかし、組織的なデータ改ざんの指示について、聞き取り調査では上司などからの明確な指示は確認されなかったとし、組織の観点が「検査室の担当者にも伝わっており、そのことが一定の心理的圧力となって不正に至った可能性がある」とのあいまいな表現にとどめている。

 

このほか報告書では、この治験における他の2件のデータ改ざん、さらには前身であるほうせん診療所時代から同様の改ざんが行われてきたとの指摘が告発者からあったことにも言及。しかし、告発者の説明内容が一貫性に乏しく、資料との整合性も十分には確認できなかったとし、これら改ざんの有無については「今回の調査では改ざんと認定しなかった」としている。

 

北里研究所は、今回の調査報告書を受け、「北里臨床試験検査アドホック管理委員会」がまとめた再発防止策の提言内容を示した。

 

提言の骨子は、▽同ユニットの治験検査室を閉鎖し、検査業務の全てを北里研究所病院内の検査科で実施する▽治験にかかわる原資料は別途必要とされる期間、事後においても確認できる形で保管する▽北里研究所病院検査科の手順書を大学病院臨床検査部の手順書と同様の形式に統一する――ことなど。同病院は、この提言に則って業務改善と組織再編に取り組んでおり、同ユニットにおいても「再発防止の諸施策を講じ、現在は改ざんを防止する体制を構築している」と表明した。

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出典:薬事日報

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