西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!
第11回 陰陽学説の人体への応用(2)陰陽互根、陰陽消長
陰陽の関係は大きく分けて4つの性質があります。前回は陰陽の関係を示す1つめの性質「陰陽対立・制約」についてお話ししましたね。今回は2つめと3つめの性質である「陰陽互根」「陰陽消長」について解説します。
2.陰陽互根(いんようごこん)~陰と陽の依存関係~
陰と陽はどちらか単独で存在することはできず、互いを自分の存在のよりどころとしています。陰がなければ、陽は生まれようもなく、陽がなければ陰は存在しません。この陰と陽の依存関係を「陰陽互根」といいます。
例えば、上を陽とし下を陰とすると、上がなければ下は存在せず、下がなければ上と呼べるものは存在しません。男性を陽とし女性を陰とすると、男性がいなければ女性は存在せず、女性がいなければ男性は存在しません。
また、人体の生命活動や精神活動の根本物質である、“気(き:目に見えないエネルギーのこと)”と“血(けつ:血液のこと)”の関係においても同じことがいえます。“気”は機能的なものであるため陽に属し、“血”は物質的なものであるため陰に属します。
気によって血は生成され、気によって血は押し流されて全身をめぐります。逆に、血の中に気は存在することができ、血に乗って運ばれることで、全身で気の作用を発揮します。
このように、陰と陽は互いを自分の根源としています。
治療においても陽を補いたい際には“補陽薬(ほようやく:陽を補う生薬)”だけを配合するのではなく、同時に“補陰薬(ほいんやく:陰を補う生薬)”も配合します。これは「陰中求陽(いんちゅうきゅうよう)」といって、陽のみを補うよりも、同時に陰も補った方が陽が育ちやすくなるためです。
代表的な処方に、皆さんもよくご存じの「八味地黄丸(はちみじおうがん)」があげられます。八味地黄丸は、陰を補う六味地黄丸(地黄・山薬・山茱萸・沢瀉・茯苓・牡丹皮/ジオウ・サンヤク・サンシュユ・タクシャ・ブクリョウ・ボタンピ)に、陽を補う桂皮(ケイヒ)と附子(ブシ)を加えた処方です。陰をしっかり補った上で、少量の陽を補うと、陰陽がバランスよく整う、というよい例です。
太極図を見てみましょう。左側の陽を表す白地がすべて白ではなく、中に黒点があるのは、陽の中から陰が生まれることを表しています。
また、ある一定の条件に達したとき、陽(白地)は陰(黒地)に、陰(黒地)は陽(白地)に転化しますが、これも陰陽の互根互用の関係によるものです。(こちらは第12回「陰陽転化」でお話しします)
3.陰陽消長(いんようしょうちょう)
陰陽はいつも静止・不変の状態ではなく、お互いの力関係に基づいて常に変化しています。これを、“消長(しょうちょう)”といいます。
例えば、昼から夜にかけては「明→暗」と変化するため、「陽消陰長」といいます。逆に、夜から昼にかけては「暗→明」と変化するため、「陰消陽長」となります。同じように、夏から冬にかけては「熱→寒」と変化するため、「陽消陰長」となり、冬から夏にかけては「陰消陽長」となります。中医学はイメージの医学です。言葉で説明すると難しく聞こえますが、図を見るとイメージしやすいですよね。
太極図の中の陽(白い部分)が、上にいくにつれて大きくなるのは「陰消陽長」を意味し、陰(黒い部分)が、下にいくにつれ大きくなっているのは「陽消陰長」を意味しています。
次回は陰陽の関係を示す4つめの性質「陰陽転化」について解説します。