薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
【過去問題】
75歳男性。かねてから緑内障治療のため、処方1の薬剤を使用していた。
両目が充血し、目やにも出ることから、かかりつけの眼科医を受診したところ、細菌性結膜炎と診断され、処方2が新たに追加された。
(処方1)
カルテオロール塩酸塩点眼液1%(持続性) (2.5mL/本) 1本
1回1滴 1日1回夕 両目点眼
(処方2)
レポフロキサシン点眼液1.5% (5mL/本) 1本
1回1滴 1日3回朝昼夕 両目点眼
問282(実務)
これらの処方薬の使用方法について、薬剤師が患者に指導する内容として適切なのはどれか。2つ選べ。
- 1 点眼後は、数回まばたきをし、薬液が患部全体にいきわたるようにする。
- 2 点眼後は、目頭を圧迫する。
- 3 夕方の点眼時は、2剤を間隔をあけずに連続して点眼する。
- 4 夕方の点眼時は、処方2の薬剤を先に点眼する。
問283(薬剤)
処方1の点眼液には、下記の添加剤が含まれている。それぞれの添加剤の使用目的の内、正しいのはどれか。2つ選べ。
添加剤:ベンザルコニウム塩化物、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、無水リン酸一水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、アルギン酸
- 1 ベンザルコニウム塩化物は、主薬の酸化防止剤として添加されている。
- 2 塩化ナトリウムは、等張化剤として添加されている。
- 3 リン酸二ナトリウムは、保存剤として添加されている。
- 4 水酸化ナトリウムは、保存剤として添加されている。
- 5 アルギン酸は、主薬の眼表面での滞留性向上の目的で添加されている。
花粉症による眼のかゆみ、PCやスマホの見過ぎによるドライアイなど、老若男女問わず春先に服薬指導の機会が増えるのが、点眼剤です。今回は、2016年に行われたばかりの第101回の国試から、点眼剤の使用方法のポイントを確認していきましょう。
解説
問282
点眼後まばたきをすると、問題文にもあるように薬液が眼内にいきわたるかのようなイメージがありますが、実際はまばたきにより薬液が目頭の鼻涙管に流出してしまいます。そのため、点眼後は1分くらい目頭を押さえるように指導します。
ただし、複数の点眼剤を使用する際には注意事項があり、点眼剤の性状(pH、懸濁性の有無、持続性の有無等)によって点眼順序等を考慮します。同時に、点眼後の薬剤はおおむね毎分15%程度消失することや、先に点眼した薬剤がwash outしてしまうことからも、基本的には5分間以上の間隔を空けて点眼する必要があります。
問283
点眼剤の組成を確認する問いです。点眼剤は通常、主薬、等張化剤、緩衝剤、可溶化剤、安定化剤、粘調化剤、防腐剤から成り立っています。このなかでよく話題になるのが防腐剤。日本では約55%が逆性石鹸に分類されるベンザルコニウム塩化物、約15%がパラオキシ安息香エステルに分類されるパラベン類です。
– 実務での活かし方 –
成人の結膜嚢の容量 | 涙 | 実際の空き容量 | 点眼剤1滴 | 点眼剤 5mL | |
液量 | 20-30μL | 約7μL | 13-23μL | 30-50μL | 100滴 |
上記の表からも確認できるように、点眼1滴で、実際の結膜嚢の空き容量に対してほぼ倍近い液量が点眼されていることになります。過剰に点眼を継続した場合に問題となるのが、防腐剤による薬剤毒性角膜症です。特に涙液が少ないドライアイ患者などでは、眼球表面に防腐剤が高濃度に滞留し、その発現の可能性を大きくします。
「角膜障害=薬物濃度×点眼回数×使用日数」ともいわれているため、上記でも挙げた添加されている割合の高いベンザルコニウム塩化物は、濃度と接触時間に依存して角膜障害を発現しやすい物質となり、十分な注意が必要な防腐剤となります。
従来、ドライアイ治療には1日に使用する点眼回数が多くなりがちであることからも、低毒性の防腐剤や防腐剤フリーの製剤が望まれていました。そのようななか、2012年1月に防腐剤フリーの製剤で、かつ新しい機序を持つ製剤として、レバミピド点眼(ムコスタ®点眼液UD2%)が発売されました。なお、この製剤は2016年3月のDSU(医薬品安全対策情報)に「涙道閉塞」の副作用が追記され、注意喚起が必要となっています。
事例
患者は70歳代女性でドライアイと診断され、ヒアルロン酸製剤とレバミピド製剤を併用する形で点眼剤が処方されました。
薬剤師は薬局の内規に従い、複数の点眼剤が処方された際の点眼順序として考慮すべき製剤特長を患者に伝えました。具体的には、
・眼に対する刺激軽減のため、涙液pH<7.0~7.4>に近い製剤から点眼すること
・懸濁製剤は水への溶解性が悪いため吸収されにくくなるので最後に点眼すること
などの点です。
そのうえで「ヒアルロン酸製剤(pH6.0~7.0)」を点眼した5分後に「レバミピド製剤(pH5.5~6.0)」を点眼するよう、患者に推奨しました。
この患者は点眼剤を使用し、1ヵ月後に左眼痛を訴えて処方医眼科を再度受診。「軽症の涙道閉塞」と診断されました。
それを受けて薬剤師は眼科医師と連絡を取り合い、レバミピド点眼製剤とその他の点眼製剤との併用時の注意点を検討しました。その結果、他の薬剤の治療効果を考慮しつつ今後は特別な指示がない限り、最初にレバミピド点眼製剤の使用を推奨することとなりました。
以上のことより、レバミピド点眼製剤が処方されている場合は、他の一般的な懸濁性製剤を含んだ複数の点眼剤併用時の服薬指導とは異なる服薬指導が必要といえるでしょう。