第57回 井手口直子 先生
仕事をしていると転勤、昇進といった社内での環境の変化や、転職、結婚といったライフステージの変化など、さまざまな転機に遭遇するのではないでしょうか。こうしたキャリアの転機が訪れたとき、1年後、3年後、5年後あるいはもっと先の自分は、どのようなスキルや知識を身につけて、どのような仕事をしていたいか考えたことがありますか。
今回は、薬剤師のキャリアについて井手口直子先生にお話をうかがいました。
働き方やキャリアについて、改めて自分に問いかけてみたことがありますか?
もし今までに一度も自分の働き方を振り返って見つめ直すことをしてこなかったとしたら、その方は薬剤師国家試験に受かることをキャリアのゴールに設定し、それを達成した段階で立ち止まったままでいるのかもしれません。
「シンプルキャリア」と私は呼んでいるのですが、かつて、薬剤師のキャリアは薬剤師免許を使って就職するのか、使わない職種にするのか、使うなら薬局か病院かなど薬剤師免許を自分の中心に据えて就職するスタイルが多かったのです。
しかし、薬剤師に求められる社会的役割は時代とともに移り変わり、それに伴って薬剤師のキャリアの考え方も、免許の枠内のことを実践するにとどまった「シンプルキャリア」から、「バウンダリーレスキャリア」という「境界のないキャリア」へと変遷することが求められるようになってきました。
これまでに社会からの求めに応じて、薬剤師の役割がどのように変化してきたのかみてみましょう。
まずは薬剤師業務を患者の視点から見直し、薬剤師の行動哲学として体系づけようとする考え方である「ファーマシューティカルケア」が導入されました。処方箋通りに調剤・投薬するだけではなく、
- 患者さんが抱える問題点を拾い上げる
- 問題解決・改善に向けて考察する
- 解決に結びつくよう行動する
などのことが求められてきたのです。
さらに現在では薬剤師は薬局の外へ飛び出して多職種と連携し、
- 地域住民の健康を支えるための在宅医療に参画すること
- 地域の健康ステーションとしての役割
など、「処方箋を受け付けてお薬をお渡しする」という「受け身」の枠を超えた業務に積極的に携わることが求められています。
それに伴い、薬剤師の職能を広げていくことも必要となりました。具体的には患者さんのバイタルサインをとったり、介護支援をしたりなどのことです。これらの業務に携わることが、キャリアデザインしていくうえで欠かせなくなってきているのです。
薬剤師に求められる役割は、社会情勢に伴って変化しています。常に情報収集のアンテナを張り、薬剤師を取り巻く状況の変化を敏感に感じ取ることで、停滞しないキャリアアップが可能になるでしょう。その上で、「今自分に求められていることはなにか」と絶えず自分に問いかけていくことが大切です。
著書に「薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ」(講談社、2010)、「薬学生、薬剤師育成のための模擬患者(SP)研修の方法と実践」(じほう、2009)などがある。