第61回 阿部翔太 先生
日々の発注業務、月末の在庫調整、年に数回の棚卸しなどの医薬品の在庫管理。
不足薬がないように調整すると在庫金額がふくらんで本社から注意を受けてしまったり、逆に在庫を絞ったら不足薬が出て、患者さんに迷惑をかけてしまったり……。誰もが一度はこのような経験をしたことがあるのではないでしょうか。
不足にも過剰にもなり過ぎない医薬品の在庫の調整はどのように行えばいいのでしょうか。
今回は、医薬品在庫管理のコツについて阿部翔太先生にお話をうかがいました。
その人が休みの日には発注業務が滞ってしまうことがあるのですが、どうするといいのでしょうか。
在庫管理が薬局の特定のメンバーの仕事になっていませんか。
その人が休んだ翌日に薬が不足してしまったり、余分な発注をして、いつまでも薬が残ってしまうといった経験をしたことのある方がいるかもしれません。
過剰な発注は期限切れによる医薬品の廃棄処分の可能性につながり、薬局の経営を圧迫します。一方の欠品には2つの問題があります。1つは患者さんに迷惑をかけてしまうということ。2つめはその患者さんが他の薬局へ移ってしまうかもしれないということ。これは大切な顧客を逃し、薬局が得られるはずだった利益を失うということにつながります。
逃してしまったその患者さんが慢性疾患で毎月受診していて、処方箋1枚あたり3,000円の粗利益をもたらしてくれていたとしたら、どうでしょう。その損失は1年間で36,000円。
薬局の利益を守ることは給与や福利厚生といった、従業員にとっての利益を守ることでもあります。
在庫管理は特定のメンバーに任せるのではなく、薬局のメンバー全員で行うことで、より効率的に利益を守ることができるようになります。
自分のため、患者さんや薬局全体のため、薬局のメンバー一人ひとりが“自分ごと”として在庫管理業務に取り組んでいきませんか。
薬局で扱う薬には、日々コンスタントに出入りする医薬品と、特定の患者さんの来局に伴って出入りが左右される医薬品の2種類があることに気づいている方もいるでしょう。
在庫管理をうまく行うコツは、“特定の患者さん”を上手にフォローしていくことです。この“特定の患者さん”とは、90日処方など長期の処方箋を持ってくる方や、その人にしか出ていない医薬品が含まれる処方箋を持ってくる方などを指します。医薬品は、その方の次回来局日に間に合うように揃えましょう。その際の管理のポイントをご紹介します。
■処方箋のコピーで“特定の患者さん”のリストを作る
まずは、“特定の患者さん”の処方箋を受けたらコピーして別に管理する台帳などを作り、患者さんをリスト化してみましょう。こうした患者さんの来局ペースを把握すると、その方に伴う薬の出入りも把握できるようになります。患者さんが病院を予約して受診している方であれば、病院へ次回予約日を確認してもいいですね。
■お薬手帳のシールを活用する
“特定の患者さん”のお薬手帳シールは、毎回2枚出力するようにします。そして投薬の際には、次回の受診日や来局日を確認するようにしましょう。
お薬手帳シールの1枚は患者さんの手帳へ貼りますが、残りの1枚には次回来局日を書き込んで、ノートやファイルなどに記録するようにします。
■薬局のメンバー全員で管理する意識を
そもそも、在庫管理は「担当者だけ」「薬剤師だけ」の仕事にしないことがポイントの一つです。薬剤師はもちろん、事務スタッフの協力も得て、薬局のメンバー全員で取り組む体制をつくりましょう。“特定の患者さん”リストやノートを作ったら、全員が確認できるようにしておき、「この患者さんの来局時期になったら、薬を発注するから教えてね」などとお互いに声をかけ合います。
■レセコンのメモも活用を
たとえば、レセコンのメモ欄に「要フォロー。次回来局日を確認」といった内容のメモや、その患者さんに関する申し送り事項を入力してもらいます。事務スタッフが患者さんに次回来局日を聞くのでもいいですし、投薬する薬剤師に「次回来局日を確認してください」と声をかけることにしてもいいでしょう。
在庫管理は特定のスタッフが一人だけで行うのは大変な業務です。
しかし薬局のメンバー全員を巻き込めば、二重、三重にチェックできるので発注漏れを防ぎ、不要な在庫の注文を抑えることもできるでしょう。
在庫管理に頭を悩ませている薬剤師さんには、ぜひ挑戦していただきたいですね。
薬局を3店舗経営するほか、不動医薬品販売サイト「エコ薬」の運営などを手がける。