薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
1990年代から欧米を中心に進んできている、医療用大麻の合法化。日本でも第二次世界大戦前までは、日本薬局方にも記載されていました。しかし1948年、大麻取締法制定に伴い使用はもちろん所持も禁止に。みなさんはこの大麻に関して正しい認識を持って、禁止に同意していますか? ただ単に「法律が禁じているから禁止」ではなく、何を理由に禁止されているのかを理解できているでしょうか。
この70年間で大麻の何が判明し、どのような有効性が認められるようになったのか。それによって、日本における医療用大麻使用の可能性は出てきたのか。第101回薬剤師国家試験の過去問から見ていきましょう。
【過去問題】
薬物乱用が社会的な問題となっているため、中学校より学校薬剤師に薬物乱用防止講座を実施してほしいとの要請があった。
問238(実務)
この講座の中で、中学生に伝える内容として適切なのはどれか。 2つ選べ。
- 1 処方された医薬品であれば、どのような目的で使用しても薬物乱用とはいわない。
- 2 危険ドラッグを1回使用しただけでも薬物乱用という。
- 3 大麻を所持しているだけで、使用していない場合は処罰の対象とはならない。
- 4 シンナーや覚せい剤を使い続けて病的な状態になると、ストレスを感じただけで幻覚が生じることがある。
- 5 薬物乱用によって意欲が減退することはあるが、暴力的になることはない。
2、4
解説
近年の薬剤師国家試験では薬剤師の地域医療への取り組みに関する出題が増加しており、第101回の薬剤師国家試験問題では「中学校での薬物乱用防止教室講座」という設定が登場します。設問もそれに準じ、「中学生に伝える内容として」と限定された表現になっていますが、薬剤師が地域社会に内容説明を行う際は、禁止・注意事項は中学生に限らずすべての人に対して同じです。
- 1:保険薬、OTC医薬品を問わず、適正・適切に使用されなければ、薬物乱用となります。
- 2:回数の問題ではなく使用が問われます。また、症状発現の有無が問われるわけではないので、使用が1回だけであっても「薬物乱用者」となります。
- 3:大麻取締法により、所持しているだけでも処罰の対象となります。
- 4:薬物乱用者特有の症状発現である、フラッシュバック症状の一例です。
- 5:乱用する薬物によっては抑制的に働くものもありますが、興奮作用のある薬物も当然存在します。
– 実務での活かし方 –
まず、大麻の有効成分とその薬効を表1で確認しましょう。有効成分の配分等の違いによって、その種類は100種類以上にも及びます。
表1
有効成分 | 精神作用 | 薬効 |
---|---|---|
テトラヒドロカンナビノール(THC) | あり | 疼痛緩和、悪心・嘔吐の軽減、痙攣抑制 |
カンナビジオール(CBD) | なし | THCの作用に加えて、血糖降下、抗炎症、抗菌、抗不安、がん細胞の増殖抑制 |
次に表2で、この薬効を利用した医療用大麻としての有効性と、社会問題となっている嗜好品としての大麻の有害性を確認しましょう。
表2
用途 | 有効性・有害性 |
---|---|
医療用大麻(CBDが主成分) | 緑内障の眼圧降下、多発性硬化症の疼痛緩和・筋肉痙攣抑制、エイズ感染者の食欲増進・体重減少の抑制、がんの化学療法時の吐き気の抑制 |
嗜好用大麻(THCが主成分) | 脳:食欲増進、多幸感 呼吸器:吸引後数秒で効果があり、30分以内にピーク 心臓:心拍数増加によりパニック発作、心臓発作 |
表3
製品名 | 有効成分 | 認可されている有効性 |
---|---|---|
Dronabinol(Marinol®) | Δ-9-THC合成品 | 他の制吐剤が無効な抗がん剤による吐き気緩和、HIV感染者の食欲増進、多発性硬化症の中枢神経因性疼痛 |
Nabilone(Cesamet®) | Δ-9-THC誘導体 | 他の制吐剤が無効な抗がん剤による吐き気緩和、HIV感染者の食欲増進、痙縮性疼痛 |
Nabiximols(Sativex®) | Δ-9-THC+カンナビジオールからの抽出物 | 多発性硬化症による疼痛緩和、痙攣の抑制、過活動膀胱の緩和 |
基本的に大麻は植物であることから発がん性は報告されておらず、免疫毒性、胎児毒性もなく、上記表1の薬効を持ち合わせている種類もあります。そのため1990年代に有効成分であるカンナビノイドの研究が盛んになり、1996年にアメリカ、カリフォルニア州の住民投票で医療大麻としての使用が認められました。それ以後も順次使用認可が進み、現時点(2017年1月現在)では半数にも及ぶ26州(25州と首都ワシントン)が合法化。
アメリカ以外でもカナダ、ヨーロッパではイギリス・ベルギー・ドイツ・ポルトガル・イスラエル・オランダ、南米ではウルグアイで合法化されています。ウルグアイでは、表2のように有害性より有効性が高いとされている一部の医療用大麻を、またアメリカとヨーロッパは表3のように医薬品として承認しています。
しかし、嗜好品としての大麻を合法化しているところは当然ながら少数です。医療用大麻については一部メディアが異なる見方で報道していることにより、「海外では大麻は合法である」という勘違いが生じています。
事例
このように、海外では医療用として承認されている国もある大麻。日本では医療用麻薬は承認されているのに、なぜ医療用大麻は承認されていないのでしょうか?まず表4にて薬物乱用でよく挙がってくる薬物と、その作用・有害事象を確認しましょう。
表4
対象薬剤 | 作用 | 精神依存 | 身体依存 | 精神病 | 法的分類 | |
---|---|---|---|---|---|---|
興奮 | 抑制 | |||||
覚せい剤(アンフェタミン・メタンフェタミン) | ○ | 大 | 大 | 覚せい剤 | ||
メチルフェニデート | ○ | 麻薬/向精神薬 | ||||
コカイン | ○ | 大 | 中 | 麻薬/向精神薬 | ||
ヘロイン | ○ | 麻薬/向精神薬 | ||||
モルヒネ | ○ | 麻薬/向精神薬 | ||||
ベンゾジアゼピン系睡眠薬 | ○ | 小 | 小 | 小 | 麻薬/向精神薬 | |
大麻 | ○ | 小 | 小 | 大麻 | ||
あへん | ○ | 大 | 大 | あへん |
モルヒネ、大麻は共に抑制系として作用しますが、大麻には精神依存性と大麻精神病(幻覚、妄想、不安、パニック、無気力、抑うつ、錯乱)が認められています。
また表5、平成26年における薬物乱用の年代別統計を見てみると、あくまで検挙されている限りではありますが、20歳以下の未成年における大麻使用が危険ドラッグより多い実情がわかります。
表5
大麻乱用者 | 危険ドラッグ乱用者 | 覚せい剤乱用者 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
人員 | 構成率 | 人員 | 構成率 | 人員 | 構成率 | |
50歳以上 | 68 | 4.6% | 44 | 7.0% | 2,294 | 22.5% |
40-49歳 | 208 | 14.0% | 121 | 19.2% | 3,471 | 34.1% |
30-39歳 | 569 | 38.2% | 204 | 32.3% | 3,063 | 30.1% |
20-29歳 | 573 | 38.4% | 236 | 37.4% | 1,262 | 12.4% |
20歳未満 | 73 | 4.9% | 26 | 4.1% | 91 | 0.9% |
合計 | 1,491 | 631 | 10,181 | |||
平均年齢 | 31.9歳 | 33.4歳 | 41.7歳 |
出典:「平成26年の薬物・銃器情勢(確定値)【訂正版】」(警視庁)
大麻特有の精神病の発病や精神依存に加え、未成年者の乱用が際立っているという観点から、有用性は認めながらも現時点での日本での医療用大麻の使用は非現実的といえるでしょう。
若年層の大麻を含めた薬物乱用の防止には、日常的な学校生活等での啓蒙活動が必要です。薬剤師からの情報提供はより重要です。地域活動への参加を積極的に行いたいですね。