日本初の訪問型治験開始‐医師が患者宅で検査
高齢患者に機会を提供
日本イーライリリーは、医師が治験に参加した患者の自宅を訪問して検査を行い、治験による治療効果を確かめる日本初の訪問型治験を開始した。急性期から慢性期に回復した患者が病院を退院し、在宅での訪問型医療・介護が日本で増えることが予想される中、治験でも患者が来院して行う検査を在宅で対応可能なものについて、訪問型治験に転換させることで、高齢患者などに治験の参加機会を提供する。現在、中枢神経系疾患領域を対象とした第I相試験を実施中で、今回の結果を踏まえ後期開発相試験への拡大や、将来的にはオンライン診療やデジタル技術を組み合わせたバーチャル治験の実装も検討する構想もある。
都道府県が策定する地域医療構想により、回復期・慢性期患者に対する訪問型医療・介護のニーズが高まるものと見られており、2025年には日本全体で約100万人が訪問型医療の対象となる見通し。こうした医療環境の変化を踏まえ、同社では地域の訪問看護センターなどに日本の訪問医療の実施状況に関する調査を行い、医師訪問型治験の実施可能性を検討してきた。
地域医療の中でも、医師や薬剤師、ケアマネージャーによる連携体制の実装が進んでおり、医療機関への来院が難しい高齢患者が治験に参加することが難しい現在の環境から、訪問型治験が一つのモデルになると判断。中枢神経系領域の患者を対象とした国際共同第I相試験で導入した。
訪問型治験は日本パートのみで十数人の被験者が参加した。試験を始めるに当たって、治験実施計画の中に訪問型治験を対象とした補遺編を作成し、患者が来院して検査を受ける治験スケジュールのうち、どの時点での来院を訪問型治験で行えるかを検討。患者同意文書についても訪問型治験用に別途追記し、検査の手順書も新たに作成した。
複数の医師が関わる複雑な手技が要求される検査、大きな医療機器を用いた検査、患者の安全性確保が必要な検査、医療機関と自宅の検査環境で結果に差異が起こるような検査は訪問型治験から除外し、患者の安全性確保の観点で極めて限定的な実施となっている。治験責任医師が訪問し、看護師などがサポートする体制を取っている。全ての医療機関において治験審査委員会の合意が得られており、現段階では実施上の問題などは報告されていないという。
ただ、訪問型治験における参加同意取得率は、治験に参加した患者全体の約3割にとどまった。「病院に来院することが貴重な外出の機会になっており、外出機会を失いたくない」「医師が自宅を訪問することに対して抵抗感がある」との理由が代表的なもので、患者と医療機関の信頼関係構築が同意取得に欠かせないことも浮き彫りになった。
今後、訪問型治験を推進していく上で、治験の実施手順を訪問型でも対応できるように変えていくことや、治験実施医師が治験に関連した規制やガイドラインに対する知識を深め、訪問型治験をどう取り入れていくべきかを規制当局と協議できる環境が必要になりそうだ。また、治験実施施設には訪問型治験に対応した特有の体制が求められ、人員リソースの確保も課題となる。治験終了後に被験者の声を収集する予定で、必要に応じて実施体制を見直していく。
海外では、遠隔診療下で患者が来院せずに自宅や職場から治験に参加可能な「バーチャル治験」が増加しているのに比べ、日本はオンライン診療の提供体制が不十分であることを理由に、バーチャル治験の実施に時間がかかる状況。同社では、治験に関連したデジタル技術をまず訪問型治験に適用させることで、患者の負担軽減と治験実施での効率化を進め、バーチャル治験の実装へとつなげる。
将来的には患者のニーズに応じて、来院型治験、訪問型治験、バーチャル治験を柔軟に組み合わせたハイブリッド型モデルとして、日本で患者の治験参加選択肢を増やしたい考えだ。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
日本イーライリリーは日本初の訪問型の治験を開始しました。今後、在宅医療や介護が進む中、高齢患者にも治験の参加機会が増えると予測されます。薬剤師の仕事も、ますます在宅、訪問の需要が高まりそうですね。