薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
現在日本で推定150万人程度が感染しているといわれるC型肝炎。これまで20年間のC型肝炎治療方法は、インターフェロン製剤による自己注射が主流でした。患者の免疫力を高める作用効果を持つメリットがある一方、頭痛や吐き気、倦怠感といった不快な自覚症状を伴う副作用の発現率も高い製剤です。しかし2014年9月に、内服でも非常に高い効果が期待できる薬剤が発売されるようになり、治療方針が大きく変わりました。それと同時に、高額な薬剤費の負担という問題点も生じてきています。
特に2016年度の診療報酬改定後から、非常に高額な薬剤の利用に関して、その賛否が各メディアで取り上げられています。今回はこの高額薬剤の費用対効果について考えていきます。
【過去問題】
問184(病態)
C型慢性肝炎の治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 1 インターフェロン α、β、γのいずれも治療に用いられる。
- 2 ウイルスのジェノタイプにより、インターフェロン治療の有効性が異なる。
- 3 エンテカビル水和物の併用により、インターフェロン治療の有効性が向上する。
- 4 リバビリンは、単独治療で用いられる。
- 5 テラプレビルは、CYP3A阻害作用を有する。
2、5
解説
- 1:C型肝炎の治療には、インターフェロンα(天然型と遺伝子組み換え型)とβを使用します。インターフェロンγは胃がん治療に使用されます。
- 3:エンテカビル水和物の併用で効果が向上する疾患は、B型肝炎です。
- 4:リバビリンは、インターフェロンとの併用療法のみの適応です。
– 実務での活かし方 –
C型肝炎の分類は、ウイルスの遺伝子の相違で以下の4種類に分類されます。
- ・ゲノタイプ1型:1a、1b
- ・ゲノタイプ2型: 2a、2b
日本人は、1b:70%、2a:20%、2b:10%の割合で感染しており、1a型への感染はまれです。
治療せず放置した場合には70~80%以上が慢性肝炎になり、20~30年後にはそのうちの30~40%が肝硬変となり、肝がんへと進行します。肝がんでの年間死亡者数は3万人にも上り、肺がん、胃がんに次いでがん死亡の第3位。そのうちの60%以上の原因がC型肝炎にあたります。またC型肝炎は肝硬変や肝がんのリスクだけではなく、食道静脈瘤や肝性脳症の発生リスクも高まります。
事例
C型肝炎ウイルスに直接効果を発揮し、特に日本人の感染が多いタイプ・1b型へ効果がある内服薬「DAA(Direct Acting Antivirals)製剤」が2014年9月に発売されました。服用はおおむね、1~2錠を1日に1~2回、12~24週間と定められています。さまざまな条件設定により一概にはいえませんが、1型に対しては基本的にSOF+LDV(ソホスブビル+レジパスビル)の合剤が第一選択薬となります。2型の場合は、SOF(ソホスブビル)とRBV(リバビリン)の併用療法が第一選択となります。C型肝炎の治療は肝がんの早期抑制につながるものの、感染者の3分の1(=約50万人)の患者に使用した場合、薬剤費のみで2兆円規模となってしまいます。(現在の医療費は、全体で約40兆円)
■C型肝炎 治療薬費用 一覧(患者体重60kgを想定)
治療薬名 / 規定服用期間 | 12週間 | 24週間 | 48週間 |
---|---|---|---|
インターフェロン製剤 | 220万円~ | ||
SOF +LDV(ソホスブビル+レジパスビル) :ハーボニー®;約54,000円/1錠 |
450万円 | ||
OBV+PTV+RTV(オムビタスビル+バリタプレビル+リトナビル) :ヴィキラックス®;約46,000円/2錠 |
380万円 | ||
DCV(ダクラタスビル) :ダクルインザ®;約7,900円/1錠 + ASV(アスナプレビル) :スンベブラ®;約2,800円/2錠 |
227万円 | ||
SOF(ソホスブビル) :ソバルディ®;約42,000円/1錠 + RBV(リバビリン) :レベトール®;約1,740円/3錠 |
367万円 |
上記の表のように、現在C型肝炎の治療には多額の薬剤費が必要とされるようになってきています。治療費には助成制度が存在するため、実際の自己負担額は収入により異なりますが、おおむね約1~2万/1ヵ月程度となっています。また他疾患の治療薬も、今後さらに高額な薬剤の開発・発売が予定されています。
このような状況のため、日本でも厚労省が欧米諸国では既に行われている費用対効果に関する評価検討を、医薬品・医療機器に対して2016年の診療報酬改定から中央社会保健医療協議会にて試験的に導入しています。
医薬品としては7品目が対象とされ、そのうちの5品目(ソバルディ®、ハーボニー®、ヴィキラックス®、ダクルインザ®、スンベプラ®)がC型肝炎の治療薬です。日本でも医療費が切迫してきていますから、さらなる薬剤費の増加は熟慮すべき課題。そのため、より一層の薬剤適正使用の管理と副作用発現への注意が必要となります。
治癒効果が非常に高い薬剤のため、保険薬局でも該当患者様1クール分くらいは用意しておきたいところではありますが、例えばハーボニー®;約54,000円/1錠の場合ですと、包装単位が28錠:約152万円、1クール分だと約450万円にもなります。
このように、高額な薬剤を前もって購入するには経営的な要素が関わってきます。現場スタッフでは判断できない場合が多いでしょう。こんなときこそかかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師として患者と向き合うことが大切。次回受診日の確認や残薬状況、副作用発現の有無などを把握して、薬剤の購入計画や残薬調整を行いましょう。